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バッティの☆作業日誌☆in 千葉(青森から引っ越しましたw)

LOVEで、ROCKで、SPIRITUALな詩人バッティの、今日の心の現像。
(Twitter→jakoushee)

しめなわ雑談44

2024-12-07 21:00:09 | しめなわ雑談

44 ベレー帽のナイスガイ。

(おかあさん、)

これがその噂のオヤジの登山姿かと思ってその写真を眺めていると、
オヤジは若くて彫りの深い顔立ちで、どの写真でもたいていは
軽く腹八分くらいの力でほほえんでいて
ビンテージ的に整った顔立ちをしてましたね。
いわゆる、イイ男、ってやつですか。

じいさんが和服を着て写っている
若いころの写真も見たことありますけど、
こちらも野心と活力に満ちたナイスガイでした。

ページをめくっているうちに、
あなたの写っている写真を見つけたんですよ。

八人ほどが映っているその写真にはオヤジもいて、
ベレー帽にマフラーのそのいで立ちはいますぐ海外に亡命して
雄飛して自分の力量を存分に発揮しようとしている画家のようでした。

それに比べるとあなたは眠そうな目をしてて、
鼻は低く、パーマをかけた髪は短すぎで、
あなたがぼくをけなすときの用語を用いれば、ちんちくりんでした。
それさ、
あなたが言われてきたのをぼくに言っただけじゃないの笑。

この一枚の写真で、ぼくはわかったんですよ!
これまでぼくは
あなたが、配慮の足りない夫との生活を維持していくために、
活動的で来客の多い祖父のために、自分のしたいこともできず、
ただ身を擦り減らして犠牲になったのだとばかり思っていたんですよ。

でも、そればっかりじゃ、なかったんですね。
あなた、あなたのとうちゃんに惚れてたでしょ笑。

「とうちゃんは紺のセーターに、
 白いシャツのよかおとこ」っていうのは
ぼくはずっと、お世辞か、冗談か、
思い込みのどれかだと思ってましたけど、
それ、本音だっんですかっっっ!
心の底から思っていたことだったんですね、
これは大衝撃ぃぃぃぃぃぃ!!
とうちゃん、とうちゃんと頼っていたのは、
好きな人に甘えていられたってことなんですね。

ぼくは以前あなたに、二人はどうして結婚することになったのかと
尋ねたことがありますよね。

あなた、いくつかの理由をぼくに教えましたよ。
まず隣同士だったでしょう、だから小さい頃から知っていたのよね。
え、でも、それだけだと理由にならないでしょ。
そしたら、別の意見も足してきましたよ。
オヤジがあなたの母親、
つまりしゅうとめにうまく取り入ったということですね。
その事実をオヤジに問い正したところ、
主を射んと欲せばまず馬を射よというじゃないかと、
むせてましたけど。

たしかに、おやじが育った家は移民共同体の底上げを図るために
活動的だったじいさんの周りにいつも人が集まり、
飲んで気炎をあげて、ゲロ吐いて、が繰り返されていたそうなので
ろくに面倒も見られていないオヤジを
あなたの母親は、不憫がってくれていたようですから
これは、事実のようですね。

でも、母親から忠告もあったんですよね。
隣のじいさんは、
お前も小さい頃から見て知っているだろうが、
非常に厳しい人で、自分にも厳しいが、他人にも厳しい、
それでも大丈夫か。

ほんとになぜ隣にいながら回りの人もみんなそう言っているのに、
そこに気付かなかったのかねえ。
まったく一代の失策だね、とあなた、笑ってましたが、
それ、失策じゃなくて、願望成就だったんですねっっっ

よかったね、好きな人と結婚できて。
ぼくはそう思うよ。
心の底からそう思うよ。
心の底の底からそう思うよ。
安心したから、ノートは見つかってないけど、
もう寝るわ。
おやすみ、

(おかあさん。)



しめなわ雑談43

2024-12-05 21:00:30 | しめなわ雑談

43山好きの、あなたのとうちゃん。

(おかあさん、)

ぼくの小学校の入学式の写真が貼ってあるアルバムの棚に、
会社の書類の裏紙で作ったアルバムがあったんですよ。
日付を見ると、
ぼくが生まれた翌年のものが一冊、生まれる四年ほどのものが一冊。

写真のほとんどは、鉢巻きを頭に締めていたり、
ベレー帽をかぶっていたり、
ランニングシャツにタオルを首から垂らしていたりしている
登山姿のあなたのとうちゃんのものでした。
あなたのとうちゃんは、一月に一度はどこかの山に登っていて、
はなはだしいときには一週間おいてまた七日後には
別の山の上にいるんですよ。どんだけ山が好きなんですか。

それで思い出しましたよ。あなた、言ってましたよね。
うちのとうちゃんは、自分の給料の半年分もするような
高い登山靴を買ってきたり、雨の降る日には
傘をさしてまで山に登りに行ってたよ、って。
いくら好きでも雨の降るなかを行かなくてもと止めても、
傘をさしてリュックを背負って出かけて行ってたよ、って。
給料はほとんど登山に使って、あまり家にお金を入れてなかったのよ。

給料といえばこういうこともあったのよ。
とうちゃんが給料を貰ってきて、その袋をわたしが
あとで神棚にお供えしようと思ってそのまま置いていたら、
いくら探してもみつからないの。
どう探してもみつからないので、
お母さんに給料袋をここに置いておいたけど
知らないかね、こうこうこういう袋だけどと言ったら、
あら、それはまた空だと思って
風呂の焚きつけに燃やしてしまったって。
そのくらいとうちゃんの給料はあてにされていなかったものねえ。
いくら親と同居しているからって、亭主が家に金をいれないから、
わたしも肩身が狭かったよ。
山に行かなくなったのは、
お前が生まれてしばらく経ってからだったね。

ということでしたが、ひょっとすると、
お前が生まれてしばらく経ってからというのは、
ぼくのお姉さんにあたる人が、
事故で亡くなったあとなのかもしれませんね、

(おかあさん。)



しめなわ雑談42

2024-12-02 21:00:27 | しめなわ雑談

42 自分のアルバム。

(おかあさん、)

その夜、ぼく、本棚のある玄関口の小さな部屋で寝たんですよ、
あたなの短歌ノートがこのどこかにあるかもしれないと思って。
でも、探しているうちに、自分の小学生の頃の写真の貼ってある
アルバムをみつけて、そっちの方が気になってきたんですよ。

古い緑色の表紙のアルバムの一ページ目に貼ってあるのは、
ぼくの小学生の入学式のときの写真ですけど、
そこに同伴してきているのは、あなたでも、オヤジでもなく、
じいさんでした。
ぼくはそれを当然のことのように思って
まったく不思議な気持ちはもっていませんでしたけど、
これ、変ですよね。

フツー、ここ、母親でしょ、やってくるのは。
だいたい、そのころ、じいさんは同居してなかったからね。
わざわざ、大阪からやってきたわけだからね。
あ、そうか、ぼく、男の初孫だったわ。
それでじいさんが気合いいれてやってきたのか。
いまでいう、ランドセルみたいなもんか。

そうなんですかね、

(おかあさん。)



しめなわ雑談41

2024-11-30 21:00:08 | しめなわ雑談

41 短歌ノートはどこにある。

(おかあさん、)

そういえばあなたの短歌ノートはどこにあるんですか。
あの、カメラでパシャパシャ撮りながら歌を詠むつもりだったという、
短歌を記したあのノートは。
ノートを探しだしてぼくが本にしてあげますよ。それならできますよ。
お前の親孝行は口ばっかりと言われていたから、
口ばっかりじゃないところも見せてあげますよ。

オヤジは知ってるのかな。
でも、聞いてみたけど、そうだな、本棚のどこかにないかと言うだけで
正確なありかは知りませんでしたよ。

知らないのかよ、と驚いたけど、
たしかに、自分の作品をまとめたノートは
どこか自分だけに分かるところにおくもので
誰かに、ここにあるよ、と知らせるものではないですよね。

そりゃ、そうだ。
べつにオヤジは悪くない。
じゃ、どこにあるの、それ。
本棚に並べてあるのかな、探してみるよ、

(おかあさん。)



しめなわ雑談40

2024-11-28 21:00:13 | しめなわ雑談

40 サツエは、ね。

(おかあさん、)

それで、結局また家に戻って飲み始めたんですよ。
なんか飲んでばっかりですね。
そしたら、顔は知っているけれど親戚なのか、そうでないのか、
関係をたぐっていくと、どこかで親戚なのか知らないおばさんが、
ぼくの前に座を取り、サツエはね、と話しだしたんですよ。

いや、そこ、フツーは
あんたのお母さんは、でしょと思ったけど、
おばさんは、遠慮なく、
サツエはね、とあなたをまるで自分のところの
自慢の娘みたいに扱うわけよ。

「サツエはね、
 よくわたしたちの面倒をみてくれたよ、
 わたしたちは、老人ふたりで住んでいるから、
 それを心配して、
 困ったことがあったら
 おばさん、いつでも相談してと言ってくれたよ。
 石炭も、うちでは使い切れないからといって、
 押し車で押してわざわざ運んできてくれたりもしたよ。
 あんたのおかあさんはね、
 ひとのことばっかり、心配してた。
 わたしのところの台所が
 水はけが悪くて汚くなっているのを見兼ねて、
 左官屋さんを呼んできてくれたりしたよ。

 それがいつだったか、
 わたし、離婚しようと思っていると
 言い出したことがあったよ。
 あれはいつだったかね。
 離婚して
 自分のしたいことをしてみたいと
 相談されたことがあったよ。
 あんまり突然で、
 なにを言っとるか、サツエと
 怒ったことがあったよ。
 あんたのとうちゃんは
 サツエが外に出るのを嫌うから、
 サツエはそれが不満だったんだろうね。
 退職金を慰謝料にもらって
 離婚しようかなと言っていたことがあったよ」だってさ! 

初耳ですーっっっっ。
自分が離婚することは考えられても、
自分の両親が離婚するとは想像したことなかったっす。

良妻賢母を絵にかいて、
額にいれて飾ったような人だと思っていたけど、
あなたも、一度は非行に走ってみたかったんでしょ。
自分の羽根を思い切り伸ばして
どこまで飛べるか知りたかったんでしょ。

でも、退職金を慰謝料にもらって離婚って、それ、あんまり
テレビの影響、モロにうけすぎでしょ、
笑っちゃいます、

(おかあさん。)



しめなわ雑談39

2024-11-25 21:00:39 | しめなわ雑談

39 あなたのとうちゃんは泣いていました。

(おかあさん、)

あなたのお骨を納骨堂の棚に置いたあと、
あなたのとうちゃんが喪主挨拶をしましたよ。
神主をやっているのはじいさん、
そして喪主は、あなたのとうちゃん。

じいさんのりんりんとして鳴り響くような声が
建物のなかで反響しました、世慣れた人の手慣れた挨拶でした。
じいさんに促されて、控えていたあなたのとうちゃんが出てきました。
そこにいるひとたちはあなたのとうちゃんがなんていうのか、
緊張とともに沈黙して待っていました。
建物の出口からの光が洩れて、
奥に立っているあなたのとうちゃんを
ぼんやりと照らしていました。
あなたのとうちゃんは、「本日はどうも」、と言って
ひじょうに速い速度で頭を下げながら、
ちぎれた声で「ありがとうございます」と言いました。
泣いてました。
気をつけの姿勢をとったまま深々と呼吸をして
次の言葉に備えるあなたのとうちゃんは
髪の毛が薄くなった、背の低いおっちゃんでした。

おっちゃんは、
「これでサツエも
 安心してあの世へ行けると思います」と続けました。

そのときのサツエという名前は、
透明で、まるで冷やしたそうめんを
天然の氷でつくった竹を流していくみたいに
するするするーっと流れていきました。

自分の妻を長年呼んできた、
呼び親しんできたサツエという名前を呼んだときには、
名前を呼ばれてあなたがやってきて、
いつもあなたがそうしてきたようにいっしょに横に立って
あなたのとうちゃんの精一杯のがんばりを
静かに励ましているような気がしました。

あなたのとうちゃんが、もう泣いていなくて、
むしろ清々しいような顔になったのは、
あなたを近くに感じたからかもしれませんね、

(おかあさん。)



しめなわ雑談38

2024-11-23 21:00:26 | しめなわ雑談

38 祖先崇拝型神道

(おかあさん、)

とうとう着きましたよ、納骨堂に。

明治時代に島を襲った台風のために飢饉となり、
島の底辺層約一割が島を出て子供が育つかどうか
不安視されるぴぜん(肥前)へと集団移住してやってきた
長崎の口之津、そして福岡のこの石炭出港の町。
牛馬のように働いた第一世代の遺骨を葬る場所もなかったために、
じいさんが中心となって市と会社に働きかけ、
貧しいものたちの一灯を集めて、みずから土地をならし、
資材を組み立ててつくりあげたこの建物、
移民たちの心の安息所、与洲奥津城。

先祖崇拝熱が昂じて
とうとう神主になってしまったじいさんの口癖は、
「島から出てきたわれらの先祖を祭るのが
 子孫たるわれわれの義務である」なんだけど、
それは過去を知れば知るだけ義務を越えて、
神聖な責務と感じられますよ。

壁に沿って数百の祭壇が設置されている納骨棚、
そのうちのぼくらの棚の前に立ち、
あなたの骨壷の入った箱を納めます。
そこにはじいさんの妹、オヤジの妹、
そしてぼくの姉の箱が納められていました。
ぼくらはその箱をいったん全部取り出し、
置かれていた場所と箱とを拭きました。
あなたの箱が一番大きかったので、棚の奥に置きました。
盃を洗い、持ってきた酒を注ぎ、各々が唇の先に
それぞれの祈りをきれぎれの言葉にして冥福を祈りました。

とうとう、こういうことになってしまいましたね。
なんでこんなことになってしまったのか、よくわからないんですけど、
ぼくはね、生きるんですよ。

あなたの分までという気持ちでではないんですけれども。
自分の分だけしか生きることはできないでしょうけど。
ぼくのこれまでは中途半端なものでしたよ。
ぼくには願望を成就させるためのエンジンが欠けていたんですよ。
これまでは風まかせのグライダーだったんですよ。

あなたの死はむだではないですよ。
あなたの息子は賢くなりましたよ、
あなたの教訓を得て賢くなりましたよ。
もうあなたに迷惑をかけることもないから、
あとはゆっくりと見物していてください。
ぼくが生きることはあなたの息子が生きることでしょう。
だから、もうぼくもあなたも大丈夫なんですよ。

掌を鳴らさずにひそやかに手を二度打ち、
みんなで頭をさげました。
これであなたはぼくの母親であるとともに
祭られる先祖の仲間入りをしたんです、

(おかあさん。)



しめなわ雑談37

2024-11-21 21:00:19 | しめなわ雑談

37 パオーッ、心配はいらない。

(おかあさん、)

その十分くらいの下り坂をぼくら、離れ離れになりながら、
ゆるゆると下り坂を降りていったんだけど、みんなが、さ、
落胆したペンギンみたいにとぼとぼ、とぼとぼ、歩いてるんだよ。
どこまでいっても海につかない道をずっと歩いてきたみたいに。
かけがえのないものを失くしたから、もうわれわれは決して
希望を抱くことさえできないのだ、みたいに。

おいおい、みんな、どうした。
下り坂だぞ、納骨堂はもうすぐそこじゃないか。

じいさん、ほら、元気だせよ。
情熱が滑稽なものだと教えてくれたのはあなたじゃないですか。
自分が滑稽だと気づくのは情熱が足りないからだと
教えてくれたのはあなたじゃないですか。
自分が入院しているときに、急にめまいがしてきて、
突然部屋がぐるぐる回り始めたとき、これで一巻の終わりかと予感して
戦慄が走ったけど、ここで死んではいかん、
ここで死んではいかんと歯をくいしばって
布団を握りしめたというあなたじゃないですか。
あなたが亡くなるときには、地響きを立てて倒れる
巨木の静けさがあたりを支配するでしょう。
それでも、その後にはいつもあなたが言っているように、
酒宴を開いて歌を歌い、踊りもそれぞれ踏みましょう。
だれがあなたを忘れても大丈夫、ぼくがいるじゃないですか。

オヤジ、ほら、元気だせよ。
愛妻に先立たれてやはり悲しいでしょうよ。
それは亡くした悲しみでしょうか、
それとも自分の横暴の負債を背負ってしまった納得でしょうか。
それは妻がしたかったことを残したまま死んでしまったことへの
口惜しさでしょうか、
それとも自分が妻にもっとしてあげることがあったのに
それをできなかったという口惜しさでしょうか。
それはあなたのものなのでしょうか、
それとも二人のものなのでしょうか、
それがぼくにははっきり分からないけど。

でも、オヤジ、
とりあえずまだ子供がいるじゃあないですか、それも二人も。
あなたから勘当を言い渡されては、苦境に陥って戻ってくると
なんとなく許されている子供がいるじゃあないですか。
大丈夫、あなたが亡くなるときにはぼくが喪主をやりますよ。
(あの、くそ)おやじは
わがままで家族に迷惑ばっかりかけたが、
世のため人のための精神ではかなわないと兜を脱いでいたあなたが、
では、自分は少なくとも家族に迷惑をかけないようにしようとして
建設した家庭の子が二人もいるじゃあないですか。

大丈夫だ、ぼくの血の分離者たち。
あなたたちがどのような倒れ方をしようと
ぼくが見ているから。
なにも心配することはないし、なにを脅えることもない。

そう考えながら歩いていると、自分が絶滅寸前まで追いつめられた象の
一群のしんがりを務める若頭になったような気がした。
パオーッ、心配はいらない、なぜならばだ、
パオーッ、ぼくがいるからだ。ぼくは最後まで生き残って、
パオーッ、パオーッ、パオーッ、
どうしてでも最後まで生き残って、
ほかの群れとの連絡をつけるからだ。
どうだい、わかったか、ンパパオーッ。

そうやって、みんなを鼓舞してたんですけど、ひょっとすると、
みんなはただ最終目的地に着きたくなかっただけかもしれないですね、

(おかあさん。)



しめなわ雑談36

2024-11-18 21:00:37 | しめなわ雑談

36 太陽は永遠の果実。


(おかあさん、)

今日は晴天です。

青空の奥底に太陽があって、
風の指先で揺れる果汁を含んだ果実みたいです。

ときが止まっているので、
永遠のなかにいるみたいです。

太陽が、永遠の果実みたいに
照りつけています。

ぼくの皮膚も焼かれています。
ぼくら、もういちど

ときのトロッコを押して
両端の切り立った下り坂を
ここからゆるゆると降りていって、
あなたのお骨を納めにいきますよ、
われわれの祖先の奥津城、
納骨堂へと。
この物忌みのために
切り開かれたような道を歩いて。

それでもうそろそろ
終わりになるんです、


(おかあさん。)



しめなわ雑談35

2024-11-16 21:00:19 | しめなわ雑談

35 いっぱいになった骨壺。

(おかあさん、)

座敷に座っていた人たちが移動をはじめたので、
終わったみたいです。

黒服の一群を割って前の方に進むと、
弟が包みをほどいて、箱から骨壷を取り出していましたよ。
葬儀社の人が、その模様がいかに尊いものであるかとか
自社の行き届いたサービスを自画自賛して
供養の足しにしていきました。


運ばれてきた台は近くに寄るにはまだ熱が残っていたけど、
その上に残っている骨はあっけないほど少なかったです。
患部のあたりはほかの骨にくらべると
褐色がかっているように見えました。
骨を移しているうちに熱くなって持てなくなるという
葬儀社の人の忠告に従って、弟は骨壷を下から抱えて持ちましたよ。

まず大きな骨から移していってください、入り切らなくなりますから。
いや、こんなに少ないのにまさかそんなことはないだろうと思ったが、
参列者が次々に白箸で骨を入れていくと
本当に入らなくなってしまいそうでしたよ。
弟も、ここで失敗をしたら迷惑をかけたままの母親に対して
申し訳ないと思いつめた表情で、懸命に壷を抱えていましたよ。

骨壺がいっぱいになって、もう割らないと入らないですね、と
言われたとき、あなたのとうちゃんは殴られたように顔をゆがめて、
入らない骨を前にして、持っていた長い白箸を少し近づけたけど、
そのまま凍りついて、そこから腕が上がりませんでしたよ。
察した係の人が、すでに壷に入れ終わっていた分から整理を始め、
残っていた分も手際よく分割して納めてくれましたよ。

終わりました。
死体のあなたは今度は骨壺のなかの骨になったんですよ、

(おかあさん。)