ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 129ページ目 第四話 人型ソムリエロボットの実力は? 

2012-06-10 19:30:07 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【129ページ】

 深川博士は、人型ロボットの開発をしており、家庭教師ロボット、防犯ロボット、介護ロボット等すでに製品化し、

世に出している。

今、彼の趣味として開発したソムリエロボットが完成し、ソムリエとしての訓練をおこなっているところである。


「深川博士、ワインは何を飲まれますか?」


若い女性が訊いた。

彼女の名前は、味川 清美である。


「深川博士、ワインは何を飲まれますか?」


若い女性が訊いた。

彼女の名前は、アジミーである。

深川博士が、趣味で開発したソムリエロボットである。

ロボットソムリエの名前は、彼の専属ソムリエの味川 清美の名前から、苗字の『味』と名前の『美』をもらって

名付けられた。 またアジミーは味見するという意味も込められている。


「アジミーが完成したお祝いだ! シャトー・マルゴーを飲もうかな」


と深川が答えた。


「この部屋のワインセラーからシャトー・マルゴー2,000年を一本取り出し、私にサーブしてほしい。」

「承知しました」と味川が言った。

「承知しました」アジミーも同じように答えた。


 味川がワインセラーに向かって歩き出した。

アジミーも味川の後をついて歩いて行った。


「アジミー、ワインセラーからシャトー・マルゴー2,000年を取り出しなさい」



ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 128ページ目 ロワール川巡り① 

2012-06-10 06:49:33 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【128ページ】


「田辺さん、このコトー・デュ・レイヨンの中には、永遠に熟成するとうわさされるワインがあるほど、

シュナン・ブランを貴腐化させて造られたワインは長期熟成に耐えるものが多いのです。」


「価格は高いの?」

「いいえ、もしボルドーの貴腐ワインならこの10倍の価格がしてもおかしくないでしょう。」

「マリーナヴィレッジのハウスワインとしての採用をチーフと相談してみるわ!

このワインのラベルの取り置きをお願いします。」

「いいですよ」


良子はコトー・デュ・レイヨンを再び口に含み、ハチミツやカリンや焼きリンゴなどの甘美な味わいを堪能した。


「和さんは、実際に貴腐ブドウを見たことある?」

「あるよ! 百貨店で枝つきの干しブドウが売られているが、それらがブドウの木になっているイメージだよ」


 完熟したブドウに貴腐菌のボトリティス・シネレアがつくと、貴腐菌が果皮のロウ質を壊し、果汁中の水分が蒸発し、

糖度が著しく濃縮される。

この貴腐ブドウからワインを造ると、酵母による発酵でアルコール分が14%生成されても、まだ糖分が10%ほど

残存しており、甘美な甘口の貴腐ワインが出来上がる。


 低価格の甘口ワインは、遅摘みで糖度が高くなったブドウや貴腐ブドウや凍ったブドウのように糖度が濃縮された

ブドウから造られたワインでは決してなく、人工的に加糖されたものである。


「一度貴腐ブドウの畑を見てみたいわ!」と良子が言った。

「いいですよ、良子さんがお休みを取れるなら」

「一日で見にいけるかしら?」

「ソーテルヌまで一日では無理だと思うよ!」


 和音は、笑いながら答えた。

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 127ページ目 ロワール川巡り① 

2012-06-09 06:24:50 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【127ページ】


 マスターは、ワインのボトルを取り出し、良子に見せた。

良子は、ラベルを見て、ワイン名を読んだ。


「コトー・デュ・レイヨン1980年、オールドヴィンテージのワインね?」

「このコトー・デュ・レイヨンは、1930年までは評価が高く、市場に流通していたのです。

ところが、ソーテルヌ、ドイツ、ハンガリーの貴腐ワインに押され、市場から忘れされてしまったのです。」


とマスターが説明した。


「そしてコトー・デュ・レイヨンは基本的には遅摘みの甘口ワインですが、ヴィンテージによって貴腐ワインで

ない場合もあるそうです。」

「ポトリティス・シネレ菌がブドウに付かなかった年ですね?」

「そうです。」

「マスター、早くコトー・デュ・レイヨンを飲ませてよ! 良子さんも飲んでから話を聞いたら?」

「マスター、和さんに早く飲ませてあげて!」


良子は笑いながら言った。

マスターは、コトー・デュ・レイヨンを抜栓し、グラスに注いだ。


「どうぞ」とマスターは二人に奨めた。

「おお、プリテュールノブル!」

「ほんとだわ、とても高貴な貴腐ワイン!」


和音の感嘆の言葉に良子がうなずいた。

フランス語のプリテュールノブルは、単に貴腐ワインと訳されているが、

実は高貴な貴腐ワインという意味なのだ。




ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 126ページ目 ロワール川巡り① 

2012-06-07 23:13:32 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【126ページ】


「今朝の新聞に、女子大生と共同で、濃厚梅ダレ開発という記事が掲載されていた!

このような濃い味ブームには、食品業界が仕掛けているのではと思う。」

「どうしてそう思う?」

「ここ数年デフレ傾向が続いているよね? お客はより安い価格を求める。

我々がよく利用する飲み放題のコース料理の値段も以前は4,000円前後だったのが、

3,000円前後が主流になっている。」


 丸山の仲間達もうなずく。


「するとお店は、料理の材料費を下げなければならない。しかし素材の品質が落ちて、料理が

まずくなると店の評判が落ちることになる。」

「分かった!」


丸山の仲間の一人が、手を叩きながら言った。


「料理の素材の悪さを隠すために味付けを濃くすればいいのだ!」

「その通り、そしてメディアを巻き込んで、濃い味のブームを作り、濃い味がおいしいのだと洗脳していく。

すると新人の女性が言っていたように、濃い味であればどんな料理でもおいしく感じてしまうのだよ。」


丸山は、テーブルのワインを手に取り、飲み干した。


「マスター、ごちそうさまでした。

先日の歓迎会の料理がまずかったと不評だったよね? お店を予約した若手の幹事は、インターネットの口コミ情報

を見て予約するからだと注意されていたが、実は事前に一人で下見に行っていたそうだ。」


「彼は、その店の料理がおいしいと思った?」

「ああ、彼も濃い味に味覚が狂わされていたのだろう。」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 125ページ目 ロワール川巡り① 

2012-06-06 23:14:12 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【125ページ】


「これマスターから馴染みのお客様にサービスです。 ポムロールのおいしいグラスワインをどうぞ。」


美紀が丸山の前にグラスワインを置いた。


「ありがとう!」


 丸山はお礼の返事をしたが、ワインを手に取らず、カウンター席の二人の会話に気を取られていた。

酸化防止剤無添加ワインについては、ワイン愛好家の丸山にとっても関心事だった。

だから仲間との会話の中で話題に出そうと思っていたのである。

しかし先を越されたようである。


「ところで話題を替えるが、先日新人の女性の営業担当と同行したのだが、彼女がふと漏らした言葉がずっと

気にかかっているんだ。」

「丸山さん、どんな言葉だったの?」


仲間の一人が訊いた。


「彼女は『私、最近何を食べてもおいしく感じるの! 私ひょっとして味オンチ?』と私に訊くともなく言った。」

「その言葉がどうして気にかかる?」

「最近、濃い○○○といった濃い味ブームだよね?例えば、マヨネーズの大好きな人が、マグロの赤身と中トロにたっぷり

マヨネーズをかけて食べたら赤身と中トロの素材の違いが分からなくなるよね」


丸山の例え話に仲間はうなずいた。


「でもマヨネーズ好きだから素材に関係なくおいしく感じる。さらにまったく別の素材でも、マグロとサーモンにたっぷり

マヨネーズをかけて食べると、マグロ、サーモンに関係なくおいしく感じてしまう。」


ここまで話をしてから、先ほどのグラスワインを手に取り、一口飲んだ。


「おや?」

「どうしたの?」

「いや何でもない!」


丸山は、グラスをテーブルに置くと、話を続けた。