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国宝消滅 イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機  D.アトキンソン著

2016-08-05 20:38:03 | 散策
 本の表紙をめくると、カバーにこう書いてある。

 「なぜ日本人は、伝統文化を大切にしないのか  その答えを探るとき、経済再生の道が見えてくる。」


   


 著者は、オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスのアナリストとして日本の不良債権の実態をレポート。一方、裏千家に入門し、二音の伝統文化に親しんでいる。創業300年余の重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の社長である。

 本書は、人口減少の日本社会において、社会保障制度を継続させていくためには「強い経済」が不可欠で、日本が進むべき道の一つは「観光立国」であると論じ、「文化財」が観光資源として整備されていないとしている。
 日本の文化財行政は、建物という「器」は保護するが、その「中身」である人間文化を排除する傾向にあり、訪れる人への説明が十分ではない。「人間文化の再現」がなされていない。
 一方で、日本の伝統技術は、ヨーロッパのそれと異なるのは、「一度も途絶していない」こと。しかし、このままでは途絶えてしまい、それを継承していくためには、文化財の役割を重要視している。則ち、文化財の修繕において、伝統的な建築技術や伝統工法が日常化することができる。

 文化財、とりわけ神社仏閣は、「氏子」や「檀家」に支えられている。人口減少により、それらも減少し、また、国内観光客も減少する。文化財そのものをビジネスモデルに替えていかなければならない。
 
 日本の文化財は、「空間の見物」であって「空間の体験」になっていないという。そこでしかできない文化的体験を体感させる文化財がどれほどあるか。「○○禁止」という看板も、その要因である。

 文化財は「モノ」であり、「コト」と結びついていない。

 また、著者は、入札制度が文化財や、それを修繕する伝統技術を崩壊させているとしている。すなわち、価格による業者の選定により、技術を持たない事業者が平気で参画する。これまでの実績や、抱えている技術者を加味した「総合評価方式」により選定すべきとしている。
 そういえば、先日、「日本の城」というBSの番組で、姫路城(白鷺城)の平成の大改修を放映していたが、漆喰を塗り直したため「しろすぎ城」ともいわれている。この漆喰の職人は、確か、金沢の職人だったと思う。本物の改修をするためには、本物の職人が必要となる。


 本書を一読して、改めて、これからのまちづくりの根底にあるのは「創造都市」という切り口に落ち着くことができた。

 「創造都市」とは、すなわち、文化芸術と産業経済との創造性に富んだ都市。産業空洞化と地域の荒廃に悩む欧米の都市では、「芸術文化の創造性を活かした都市再生の試み」が成功を収めて以来、世界中で多数の都市において行政、芸術家や文化団体、企業、大学、住民などの連携のもとに進められている。
 日本では、大阪市立大学の佐々木雅幸先生が提唱し、文化庁も協力する中で、全国ネットワークも形成されている。

 文化政策と産業政策の融合、そのためには、「まちの資源」を改めて確認していく必要があるのかもしれない。
 
コメント
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