落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(118)メロン記念日⑬

2020-07-02 14:27:13 | 現代小説
北へふたり旅(118)


  
 半熟黄身の卵焼きと3本のウインナーが白飯の上に載っている。
「合法ハーブはどこだ?」
卵焼きをそっとめくる。みどりの座布団があらわれた。
これか・・・合法ハーブは。
 
 「お手紙が添えられています。
 合法ハーブのつくりかた。
 1。ニンニクは1mm幅に薄くスライスする。
 しそは良く洗い、キッチンペーパーでよく水気を取る。
 2。容器にしそ、ニンニク、醤油、ごま油を入れる。
 味がなじむまで漬け込んだら完成。
 万能調味料として幅広く、なんにでも活用できる、とあります」


 「若いものの考えるメニューは、なんとも刺激的だ。
 ユンケルより効き目があるかもしれない」


 「そういえばすっかり忘れていました。ユンケルを呑むことを。
 いまからでも遅くありません。
 念のため、呑んでおきましょ。ねぇあなた」


 妻がバッグの中からユンケルを取り出す。
30mlのちいさな液体をいっきに呑み込む。薬草の匂いが口いっぱいひろがる。
こちらのほうがよほど悪魔のような刺激だ。


 帰路。さいしょの乗り換えは新函館北斗駅。ここが北海道新幹線の始発駅。
10年後には札幌までつながる。
そうなれば函館から札幌まで1時間で行くことができる。
在来線で3時間40分から4時間かかる現状からみれば、雲泥の差。
東京・札幌間が5時間でつながる。


 「あと10年後ですか・・・長いですねぇ」


 「大宮から1本で札幌まで行けるようになる。
 夢みたいな話だ」


 新幹線の入線を待ちながら、ホーム上での会話。
東日本をはしる新幹線はすべて、埼玉県の大宮駅を経由する。
裏を返せば大宮駅へいけば、すべての新幹線に乗ることができる。


 北海道新幹線が入線してきた。
仙台まで乗ったあと、宇都宮で停まる新幹線へ乗り換える。
4時間ちかく車中の人だったがここからさらに6時間、新幹線と京浜東北線、
ローカルの両毛線を乗り継いでいく。


 「先は長い。まだ半分も進んでいない」


 「焦ることは有りません。列車に任せておけば目的地がちかづいてきます。
 ということで、はい。北海道奇跡の麦・きたのほし」


 妻が缶ビールを取り出した。


 「どうしたんだ・・・これ?」
 
 「ビールのおいしさに貢献できる大麦を開発する夢をいだき、
 長年の研究の末、2016年に品種登録された北海道産大麦の「きたのほし」
 を麦芽に使用したビールです。
 雑味のない味わい。クリーミーな泡。素材が生み出すビール本来の美味しさ。
 となれば乾杯しないわけにはいきません」


 「ただビールが呑みたいだけじゃないのか。君が」


 「まもなく4日間過ごした北海道とおわかれです。
 おわかれにふさわしいサッポロのきたのほしで、乾杯しましょ。
 うふっ」


 最終話へつづく


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