落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(17)白い粉

2020-08-11 11:06:35 | 現代小説
上州の「寅」(17)

 
 出口でサングラスの大前田氏が待っていた。
「無事に来たな。ご苦労」片手をあげて合図する。


 「これが当座の軍資金。これがチケット。
 心配するな。あとで給料から天引きするから前借だとおもえ。
 それからこれは先方へわたす大事な荷物だ。
 機内に持ち込んでだいじに管理しろ。ぜったい無くすな。
 これが現地の連絡先だ。着いたら電話しろ。
 じゃな。気をつけていけ」
 
 手にしていた中型のボストンバッグをひょいと差し出す。
寅が受け取る。ずしりと重い。なんだ、この重さは・・・


 「まっ、待ってください。これから僕はどこへ向かうのですか?」


 「言ってなかったか?。チケットの行き先を見ろ。九州だ」


 「き・・・九州!。なんでまたそんな遠いところへ!」


 「新幹線じゃ時間がかかりすぎる。遠いから飛行機を使うのさ。
 気をつけていけよ。あとのことは現地の人間に聞け。
 じゃなぁ」
 
 大前田氏が肩を揺らして立ち去っていく。
(ええ・・・どうなっているんだ・・・いったい、ぜんたい・・・)
キツネのつままれて立ちつくしている寅を、大前田氏の怒声がおそう。
 
 「こらぁ!。さっさと行動せんか!。
 ぐずぐずしていると飛行機に乗り遅れるぞ!」


 「あっ、はい」弾かれたように寅がエスカレーターへ飛び乗る。
飛行機に乗るのは初めてだ。
(まいったなぁ・・・)封筒を裏返したとき、汚いメモが目に飛び込んできた。


 ①カウンターでチェックイン
 ②大きな荷物はあずける
 ③保安検査を受ける
 ④搭乗ゲートへ行く 以上


 と手順が書いてある。
寅が手にしているチケットは、50分後に飛び立つ格安の片道チケット。
(特攻隊じゃあるまいし、片道チケットでいきなり鹿児島へ行くのか)
とりあえず搭乗券をもらうため、カウンターへ急ぐ。


 「チェックインは機械でできます。そちらでどうぞ。
 搭乗券を受け取りましたら、荷物をあずけるカウンターへ向かってください。
 機内へ持ち込める荷物には制限がありますので」


 係員が大前田氏からあずかったボストンバッグへ目をつけた。


 「お客さん。重そうですね。
 機内へ持ち込めるのは、10㎏までです。
 念のため確認させてください」


 「大切なものだから機内へ持ち込めといわれていますので」


 「大切なものですか。中身はなんでしょう?」


 「大切なものとしか聞いていません」


 「中身を確認させてください」


 係員がボストンバッグをあける。
中から白い粉が入ったビニール袋が出てきた。ひとつおよそ1㎏。
それが全部で15個も出てきた。


 「お客さん。なんですか?。これは?」


(18)へつづく


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