オヤジ達の白球(42)接戦
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/b2/eff251131342f4711af3c44cb9ab8ffa.jpg)
「おっ、もう最終回か。7回の表が終り、得点が3対2。
なんだ。1点負けているじゃないか」
8時を回った頃。柊が作業着姿でベンチへ顔を出した。
観戦に来たわけではなさそうだ。革靴ではなく、スパイクを履いている。
そのまま、どかりと祐介の隣りへ座る。
「ランナーがひとり出たら、俺を代打で出せ。
ホームランを打ってやる。サヨナラゲームで初戦を勝利でかざろうぜ」
本人は出る気満々だ。
その証拠に、ベンチの中で柔軟のストレッチをはじめた。
ソフトボールの試合は、7イニング。
四球の山で初回に3点を献上したあと、2番手で出た北海の熊が相手を押さえている。
呑んべェチームは2回と5回にそれぞれ1点ずつあげたが、それでも1点負けている。
「柊。おまえ、ソフトボールの経験があるのか?」
「祐介。アルツハイマーになったのか、おまえは。
おれが大学までソフトボールしていたのを、もう忘れちまったのか。
まぁ無理もネェ。守備が下手くそだったから、打つだけのDHだったからな」
「そういえばお前のカミさんは、ソフトボール部のマネージャだったな。
なるほど。カミさん狙いでソフトボール部へ入ったのか!」
「ふん。何とでも言え。
いろいろと難問は有ったが、手に入れてしまえばこっちのものだ。
それよりもなんとかして1人、塁に出せ。
よけるふりして当たれば、デッドボールで出塁できる」
「熊のピッチングはいい。だが相手の投手も、かなりコントロールはいい。
残念ながらデッドボールでの出塁は期待できそうにない」
「熊が投げている?。あいつはたしか、謹慎中のはずだろう?」
「ミスターⅩとして投げているから、とりあえずは大丈夫」
「消防はAクラスのチームだ。
それを相手にサヨナラゲームで勝つのは、初戦からして縁起が良い。
おっ。見ろよ。
三塁手のやつ。バントにたいしてまったくの無警戒だ。
本来の守備位置より、ずっと後ろで守っている。
バント攻撃する絶好のチャンスじゃないか」
なるほど。3塁手はいつもの位置より、かなり後方で守っている。
ここまで誰一人バントをしてこなかったので、安心しきっている。
「いい作戦を思いついたぞ」柊が、ベンチの中を見渡す。
「次の打者は誰だ?」
「俺です」と岡崎が手を挙げる。
「岡崎か。そいつは好都合だ。お前、足だけはそこそこ早かったな」
「だがもう歳だ。昔ほど速くはねぇ」
「大丈夫さ。
あそこで守っている3塁手を、もっとうしろへ下がらせるいい方法がある。
そのためには多少の演技も必要だがな」
「演技?。何しようってんだ、こんな土壇場で?」
「いいか。最初のストライクが来たら思い切り振れ。
ただし。間違っても当てるんじゃないぞ。
三塁手の方向を向いて、目いっぱい、これ以上はないというほどの
フルスイングして、空振りしろ」
「えっ・・・わざと空振りをするのか?」
(43)へつづく
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「おっ、もう最終回か。7回の表が終り、得点が3対2。
なんだ。1点負けているじゃないか」
8時を回った頃。柊が作業着姿でベンチへ顔を出した。
観戦に来たわけではなさそうだ。革靴ではなく、スパイクを履いている。
そのまま、どかりと祐介の隣りへ座る。
「ランナーがひとり出たら、俺を代打で出せ。
ホームランを打ってやる。サヨナラゲームで初戦を勝利でかざろうぜ」
本人は出る気満々だ。
その証拠に、ベンチの中で柔軟のストレッチをはじめた。
ソフトボールの試合は、7イニング。
四球の山で初回に3点を献上したあと、2番手で出た北海の熊が相手を押さえている。
呑んべェチームは2回と5回にそれぞれ1点ずつあげたが、それでも1点負けている。
「柊。おまえ、ソフトボールの経験があるのか?」
「祐介。アルツハイマーになったのか、おまえは。
おれが大学までソフトボールしていたのを、もう忘れちまったのか。
まぁ無理もネェ。守備が下手くそだったから、打つだけのDHだったからな」
「そういえばお前のカミさんは、ソフトボール部のマネージャだったな。
なるほど。カミさん狙いでソフトボール部へ入ったのか!」
「ふん。何とでも言え。
いろいろと難問は有ったが、手に入れてしまえばこっちのものだ。
それよりもなんとかして1人、塁に出せ。
よけるふりして当たれば、デッドボールで出塁できる」
「熊のピッチングはいい。だが相手の投手も、かなりコントロールはいい。
残念ながらデッドボールでの出塁は期待できそうにない」
「熊が投げている?。あいつはたしか、謹慎中のはずだろう?」
「ミスターⅩとして投げているから、とりあえずは大丈夫」
「消防はAクラスのチームだ。
それを相手にサヨナラゲームで勝つのは、初戦からして縁起が良い。
おっ。見ろよ。
三塁手のやつ。バントにたいしてまったくの無警戒だ。
本来の守備位置より、ずっと後ろで守っている。
バント攻撃する絶好のチャンスじゃないか」
なるほど。3塁手はいつもの位置より、かなり後方で守っている。
ここまで誰一人バントをしてこなかったので、安心しきっている。
「いい作戦を思いついたぞ」柊が、ベンチの中を見渡す。
「次の打者は誰だ?」
「俺です」と岡崎が手を挙げる。
「岡崎か。そいつは好都合だ。お前、足だけはそこそこ早かったな」
「だがもう歳だ。昔ほど速くはねぇ」
「大丈夫さ。
あそこで守っている3塁手を、もっとうしろへ下がらせるいい方法がある。
そのためには多少の演技も必要だがな」
「演技?。何しようってんだ、こんな土壇場で?」
「いいか。最初のストライクが来たら思い切り振れ。
ただし。間違っても当てるんじゃないぞ。
三塁手の方向を向いて、目いっぱい、これ以上はないというほどの
フルスイングして、空振りしろ」
「えっ・・・わざと空振りをするのか?」
(43)へつづく