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『君がいる幸せ』 二章「湖底の城」一話(Sumeru)

2011-08-01 01:02:29 | 『君がいる幸せ』(本編)二章「湖底の城」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です
 <用語>
木星軌道上の衛星都市メティスのビルレスト 2人が住む建物の名前
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
※ジョミーは自分専用のシャトルを所有しています

☆あらすじ☆
一章「黄昏の海」
地球へ辿り着いたミュウ。人類との会見後グランドマザーの許に降りたジョミーとキースは、マザーの策略で殺されそうになる。ジョミーの最後の力でイグドラシルから地上に戻った二人。
大戦から二年。ミュウは新たな移住惑星に移り住む事となった。その旅立ちを見送ったジョミーはキースと共に「月」へと向かった。そこにはソルジャー・ブルーの身体が保管されていた。
その事実をジョミーは何故かミュウ達に明かせずにいた。


  『君がいる幸せ』

  二章「湖底の城」

  一話(Sumeru)現在
  今より1週間前・メティス
 床に倒れている少年の胸から流れる赤い血。その横に立つジョミー。
 その手は血に濡れていた。
 心臓が止まった事を確認すると「彼をコールドスリープするように」ビルレストのシールドを無理やりこじ開けながら警備に向かってそう指示した。
 ジョミーはそのままビルレストを後に行方不明となった。
  1時間ほど遡る
 ビルレストでジョミーはカナリアの少年の訪問を受けていた。
 以前、地球の地下で会ったあの少年だった。
 彼は何の事情も話さずにジョミーに「自分を殺して欲しい」と頼んできた。
 もちろん、訳も聞かずに殺せない。殺さなければならない危機も感じなかった。
 だが、その深刻さは伝わってくる。
 少年はジョミーをカナリアの元へ連れてゆくのを目的に来たようだったが、彼自身はそうしたくないという思いからの願いだった。
 ジョミーはその願いを叶える事にした。
 そして、キースを呼んだ。

  現在・Sumeru
 育英都市スメールへ向かうジョミー。
 そこにはカナリア達とフィシスが暮らしている。
「フィシスに会わなければ」
 移動のシャトルの中で、以前からカナリアの存在に心を痛めていたジョミーは今回の事をとても怒っていた。
 理不尽な理由で、命を弄ばれるのはもうたくさんだ。
 彼は何故、死を望んだ。
 そうしなければならない理由は僕と、他に何があるのかを突き止めないといけない。
 たとえ、僕とカナリアとの接触を止める為に彼が死を望んだとしても…。
 大戦終結から四年。
 フィシスに会うのは何年振りだろう。彼女が船を降りたのは…僕よりも前だから…三年振りになるのか…。
 スメール空港に着いても自分の事は報道されていなかった。
 キースが事を押さえてくれている内に会わなければならない。
 スメールは小さな育英都市だった。そして機密事項のカナリアの施設の場所も、自分の持つミュウの長の肩書きで簡単にわかり、フィシスにもすぐに会う事が出来た。
 カナリアの少年の死は彼女を悲しませた。
 カナリア達は特殊な生まれと育てられ方をしているので、ここを出て行けるものなどいないと彼女は言う。
「けれど」
「僕の所に来たのは事実で着いて来なければ殺すと攻撃してきたのも事実。殺すしかなかったのも本当だ」と僕は言った。
「カナリアはここに40人程いるだけで、彼等を育てることにそう利益はないの。だから他で育てられている可能性も事実もない」
 ここ以外には存在しない。
 彼らは精巧で繊細な実験体だった。
 ミュウとはまた違う異種の彼等を政府は「地球の子」として大切にしていた。
 厳しい地球の環境でも生きていける可能性のある子供たちなのだ。
 ミュウは特殊な力を持って生まれてきた為、迫害された。
 カナリアは強い肉体を持って生まれた為、守られ育てられた。
 相対する異種なわけだ。
 けれどカナリアには欠点があった。
 カナリアは二十才前後でのその役目を終える。
 長命なミュウとはどこまでも反する異種だった。

「僕たちミュウは、これから人類と交わることによって寿命を縮めて力を弱体化させていく。反対に人類は寿命を延ばしていくんだ。そしてそこに、カナリアの肉体が加われば人類の生命への願いは叶うだろう。そして、新しい人類が行う「地球の再生」はきっと、ずっと早く進むだろう」
 これは…自分の理想論でしかない。
 それは僕が一番わかっている。
 地球再生は僕らに科せられた…人類の願いなのだから…。
 だが、今は…カナリアの存在を議論する時ではない。
 彼をメティスに送ったその者を見つけてその真意を問いただすしかなかった。
 その者は、マザー信奉者だろうか?
 それとも…別の何者か…。
 これから起きる事に不安を感じた。
「ジョミー、私はもう占えません。今はその力を無くしたことを…」
「フィシス」
 僕は彼女の言葉を遮り、その手を取った。
「ブルーは貴女がナスカを選んでしまったと苦しんでいたから、その呪縛を解いただけで、きっとすべては必然…そう、あの悲劇は避けられない必然だったんだ」
「ですが…ジョミー」
「全ては、僕の所為なのだから苦しまないで…フィシス」
 ナスカの傷はいまも貴女を苦しめているのか。

 そう、全て僕が招いた事だ。
 惑星ナスカに逃げて、その決定をフィシスにさせてしまった。
 危険を察知しながら仲間を説得する事が出来なかった。
 その結果、ブルーを死なせてしまった。
 そして、今も重い十字架に磔にしたままにしている。
 どこまで僕は卑怯で汚いんだ。

 フィシスはジョミーの後ろ姿に向かってつぶやいた。
「ジョミー、私はあなたの為に何も出来ない…」

 ブルー。
 ジョミーを守って。


   続く



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