君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編二章 八話

2015-06-25 00:56:28 | 『君がいる幸せ』 limitato etemita編二章
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 人類の首都星
惑星メサイア ミュウの星 ノアに近い位置にある
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
<人物>
ジョミー ノア前副首相 ジュピターという宇宙の軍を動かせる権限を持っていた
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任していたが…
セルジュ 軍事惑星ペセトラの評議会議長代理(現在、軍部で最高位)

   『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編二章 八話


「ミュウなら、心を読めばいいだろ?」
 一人になったセドルが吐き捨てる。

「心を読む?ジョミーが?勝手に心を?そんな事しませんよ。今のあなたにはね。それは…」
 前にシドが自分に言った言葉が蘇る。
「それがミュウだろ?」
「それは…友だと思っているからでしょうね」
「俺が友?」
「不満ですか?」
「ああ、俺はそれ以上になりたい」
「僕は友人にすらなれなかった…」
「シド?」
「でも、きっと、僕が見ているのは彼じゃなくて…僕らは乗り越えられないんだ」
「お前は、考え過ぎなんじゃないか?もっと、自分を解放してみればいい」
 そう言って俺はあいつに薬を渡した。

「乗り越えられない壁か…。だがな。シド。あいつは俺の心を読んでるぜ」
「セドル」
 呼ばれて振り返った先にはジョミーがいた。
 いや、正確には『ソルジャー・シン』が立っていた。ドアから入って来てはいない。テレポートしてきたのだった。
「…ジョミー。お前、その姿は…」
 肩から広がる深紅のマント。ミュウの長の正装ソルジャー服のジョミーを見て、その迫力に言葉が出なかった。
 もちろん、セドルはこの姿のジョミーと会った事もある。だが、今は、さっきまでのジョミーと纏う空気があきらかに違っていた。
 威厳と風格。空気に威圧感があり近寄りがたいものがそこにはあった。
「わかる?セドル」
「ジョミー…」
「これが、ミュウの長。ソルジャー・シンなんだ」
 そう言ってジョミーはにこっと寂しそうに笑った。
「セドル。僕に呑まれないでいたら、ご褒美をあげるよ」
 寂しそうな笑みが不敵な笑いに変わる。
「あ、ああ…」
 背筋を汗がつたうのを感じながらセドルは答えた。
 恐怖は感じない。感じないのに畏れる。これは、本能だ。瞬時に身の危険を察知する本能が警告をしている。
「僕が怖い?」
「いいや。全く…」
「強がりも良いけど、大概にしないとね。危ないよ」
「俺がか…」
「粉々にしたくなる…」
 と、ジョミーが笑った。
「はは…は…」
 セドルが渇いた声で笑う。
 ジョミーはセドルがいるカウンターまで来ると、さっき自分が出したクッキーを指で弄びだす。
「心をさ。こうして、つかみ出して、ギュッとしてさ」
 そう言ってジョミーは手を閉じる。そして開く。粉々になったクッキーが零れる。
「……」
 セドルが息を呑む。
「ねぇ。それで。僕は誰だと思う?」
「ジョミー?」
「ううん。今はミュウの長、ソルジャー・シンだ。でも、姿が違うだけで、何もしていないよ」
「いいや…。違う…空気が違う」
「…それはね。見ている側が勝手に感じるものだ。僕自身は違わない」
「だが…違う」
「うん。それはそうかもしれない。僕もこれを着ると色々な制限を感じるからね」
「…制限…」
「勝手に精神が広がって、網を張る。ずっと高い所から見下ろす意識が僕の中に生まれる」
「俺にその姿を見せた意味はなんだ?」
「…さっき、シドの気持ちがわかると言ったね。それと、壁って。彼の気持ちは僕という壁を超えて来ないんだ」
「お前を超える?」
「このソルジャー・シンの先に僕がいるのに、超えて来ないんだ」
 ジョミーは自分の胸に手をあてる。
「それは…お前次第じゃ…」
「ううん。僕はここから降りれないし、降ろされない。戦争が終わっても、ジュピターになっても、トォニィがソルジャーになっても…」
「じゃあ…お前をソルジャーだと見なければ…」
「ううん。シドは僕にソルジャーを望んでいる。僕がソルジャーのままで彼を愛して行くことを願っているから…」
「……」
「彼の思うとおりに愛せないくせに…僕はこれを脱げないんだ。でも、僕がこれを脱げないからって、脱がして欲しい訳でも無いんだ」
「お前…」
「僕はソルジャー・シンごとのジョミー・マーキス・シンを愛して欲しかったんだ。我がままだけど、僕はシドが好きだ。今も彼に傍にいて欲しいと思っている。だけど、僕は彼の望んでいない形で愛していると言った。彼が僕から離れると心を決めた後にね」
「前にも思ったが、呆れる程の不器用さだな。二人とも」
「そうだね。セドル、もう一度聞くよ。僕をどう思う?」
「確かに…、その姿のお前に怖さは感じた。だが、越えられない程では無いような気がする。シドはお前がちがうものを見ていると言っていた。だから…お前たちはやり方を間違えたんだな」
 ふいにセドルの脳裏にキース・アニアンが浮かぶ。
「やり方?」
「…胸くそ悪いのが浮かんじまった」
 セドルは小さく舌打ちをした。
「それは…お前がキースを見ているからだろ?」
「…違うよ…」
 セドルに聞こえない声で小さく呟くジョミー。
「セドル。僕がさっき怒ったのは、きみのそれと似てる。きみがシドの事を自分と同じように扱ったから…。彼は僕の仲間で僕が一番信頼している人物だ。それがきみと同じとは軽く見られたなと思ってね」
「ミュウの長が一般人にケンカを売るのか?」
「さあ?でもね。シドが僕にソルジャーを見るように、君は僕に”見た事のない少女”を見ていただろう?それが君の作った僕への壁。君は僕を好きなんじゃない」
「それは、ベリアルがいい女だったと何度も言うから…」
「青年セドルはその夢の中の少女に恋い焦がれた。素敵な話だね」
 ニッと笑うジョミー。
「嘘だと言うのか?」
「いいや。確かに彼の最初の女ではあるが、僕を見ていいとは思わなかった。ベリアルがきみを騙したんだ」
「騙したって…最初の女ってどういう事だ」
「ベリアルがあの日の事をどこまで話しているかは知らないが、僕は軍の情報を得ようとアガレスに近づいた。アガレスに力を使う前に、僕はベリアルとヤルように言われたんだ。幻覚を見せるには幼くて、下手に能力を使ったら脳に障害が残るかもしれなかったから、力を使わずに言われるままに子どものベリアルとしたんだ。あの頃の僕は、人間を欺く事に罪悪感なんて無かった」
「……」
「ねぇ、セドル。一つ教えておくよ。彼の父、アガレス・ベリアルはニュクスから彼を人身売買で買った。ベリアルは成人検査後にアガレスと暮らしたと言ったのだろうが、僕が出会った彼はまだ小さな子どもだった。成人検査前に彼は記憶を消され、成人検査で思い出してしまったようだ。それで、きみを使って僕と再会をした。恨みを晴らし真実を知る為に…そして、僕はそれに嵌り…最愛も何も無くした訳だ」
「成人検査前か…」
「疑問にも感じなかった?」
「多分…俺の星、ニュクスは成人検査が無いと思う。あやふやでわからない。星を出る事が出来たから検査は受けてると思っていたが…」
 そうだよ。セドル。
 人類の優秀な脳がコピーされコンピューターに組み込まれマザーになった。マザーになれなかった他の優秀な脳を持つ人間たちがニュクスの最初。マザーを支配しつつ支配された世界。でも、脳は劣化する。ニュクスを出てゆくのはそんな異端な人間。もう一つ、ニュクスとは離れDNAを作りだしていたのが、マザー・イライザ。彼女がつくったのが、キース・アニアン。だから、彼らは…同じもの。
「セドル。君たちがキースを憎むのは何故?」
「憎んでなんかいない」
「この期に及んで…まだそんな事をいうのか?呆れるな。さっき、僕、粉々にしたくなるって言ったよね?」
「…ジョミー?まさか…お前が怒っているのはシドじゃなくて…キースの…」
「……」
 ズイっと、カウンターから身を乗り出すジョミー。
 セドルは思わず避ける。
「セドル…。逃げるな」
 ジョミーが腕を掴む。
「……」
「ダメだよ。逃げちゃ。僕を好きで落としたいんでしょ?」
「ジョミー」
 掴まれた腕を振りほどこうとしたセドルだったが、ジョミーの言葉に踏みとどまる。
「良いね。男の意地かい?」
「ジョミー。俺は…」
「セドル。きみはミュウとなら普通よりずっと気持ちの良い事が出来るって知ってるんじゃない?」
「か、身体を繋いだまま、心もってのだろ?」
「そう。知ってたね」
「だが、俺は」
「ねぇ。僕はそれをベリアルにしたんだ」
 その言葉にセドルの憎しみが爆発する。
「おまえは!」
 セドルはジョミーの手を振りほどき、叫んだ。
「お前は気付いているだろ?そうさ、隠したって情報は入ってくる。ベリアルだってそうだ。俺たちは、いいや俺は、やつよりずっと願っていた。憎んでいたんじゃない。俺はキース・アニアンになりたかったんだ!」







  つづく








※遅くなりました><。
7月になると「シナリオ講座」が始まります。また遅くなる可能性大です;
なので、もう少し進ませたいと思っています。
頑張ります。^^



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