風力発電の最終回 風力発電と地域還元
個人経営の農家から、地域住民も一緒に建てるという法律
個人経営の農家の人たちが一方的に地域の住民に何の相談もすることなく建てたので、私たちも協力しようと考えていた人たちが全く無視されたと言って、否定的な反応を示すようになった。それを見ていた政府がこのままでは風車は国民から否定的に受けとられ、大きく広がらない。肯定的に受け入れてもらうためには、地域の住民も一緒になってとりくむ制度が必要になった。それによって例えば50%を必ず風車株という形で地域の人に投資をしてもらって一緒に立てる。
法律が制定されたのは97、98年くらいなので、実際に実行に移されるようになったのは、もっとあと。これ以降は地域の住民も一緒になって進んできます。
2008年に地域の住民も取り込まなければいけないという新しい法律ができたときに、まず、最低でもかかるコストの20%を地域の住民に協力していただいきましょう、提供しなければいけないということです。
ところが、風車の建設される半径4.5㎞以内で20%の投資額を維持できなければ、ちょっと隣の市に移してもいい、つまり幅を広げて隣の市の人も投資をすることができる、と言うことも明確に書かれた法律が制定されています。
ただ、EUの法律は差別を許さない法律になっていて、建設の範囲の4.5㎞以内と言うような条件を付けると差別になります。デンマークの国としては必要な投資額の40%まで地域住民の人に協力してもらってほしいという目的だったのですが、EUからクレームがつく可能性があんまり高いので20%だったらクレームがつかないだろうということで20%に抑えた。でも、最優先で地域の住民が投資できると決められているのは約8週間くらい。8週間を過ぎてしまうと地域に住んでいない人でも誰でも投資ができる。遠くに住んでいる人も投資ができる。
投資をするのを魅力的にするためには国からの安い利子のローンが組めるとか、そういう保障が必要となるので、その協力をするシステムも作られています。
自治体がいろんな投資をする場合は、国の方が1MWに対して11,800€、ソシアルグリーンファンドというのから自治体に出してくれるというような制度も用意され、より自治体にとっても魅力的な投資と言う、グリーンエネルギーが進んできた大きな理由の一つです。
地域住民の感情として、例えば、最初にここに一基建てると、その後、調子がいいからもう一基建てようと無制限に何年かおきに建てていくと、一番最初にちゃんとしたこういう景観になりますよとかいう計画がなくて、一基ずつ、一基ずつ増やしていったら景観上も反発を買うような、そういう結果に陥るかもしれない、といういろんな調査を行った結果、デンマークではまとめて5~6基一回に建ててしまう、その代り、ここにまとめて建てたら、こちらの方は建つ可能性がないからこちらは自然保護地域として残すことができるという風に、計画が立てやすくなります。日本で建てるんだったらそういう配慮もした方がいいかもしれません。
投資への地域住民優先の悪用に、買取枠制限と監査の導入
新しい2008年の法律のよって、投資総額の20%を地域住民にということで、実際に売りに出したらすぐに100%売り切れてしまったプロジェクトが8プロジェクト、30~60%しか売れなくて地域住民以外のもっと広い範囲の住民に売り出されたものが4プロジェクト、どういう理由かわからないが3プロジェクトは売れたのが1~2%だけだった。
この売れなかった一番大きな理由は、ビジネスとして投資の対象として十分なると考えたたった二人の人物が、なるべく地域住民が買わないで全部売れ残ったものは自分が買いたいと思って悪い情報を、公聴会を開いて一般住民に購入してほしいと勧めるときに、これは酷いんだ、と言う情報を専門家の立場で流して、誰も買いたくない、買わないだから全部自分たちが買えるというやりかたをとった。これはだめだというのが後でバレたので、こういうことができないようなシステムになった。
すごく腹黒く考えた理由は、投資したら1年間で20%~25%くらいの純利益が自分の手元に入ってくる、順調にいけば数年で元が取れる、減価償却できる。プロジェクトはあんまり人気なので最初の1年は自分の手元に持っていて、その株を20%くらい値段を上乗せして別の人に売ることができる。それで大きな利益を見込めるということでそういうやり方を始めたらしいが、それが認められなくて地域の住民、これをシステムとして法律の中に取り入れたが、ジプシーのような生活をしている人たち、ここで建設されると決まったら一時的に住居をそこに引っ越して4.5㎞の範囲内で生活をして買えるだけの株を自分で購入して、1~2年後にもうけを上乗せしてその株を売ってしまう。次の新しく建設されるところに移り住んで、転々と住居を変えるので一種のジプシーのような。お金儲けのためにだけ投資したい人。
4.5㎞の範囲内で住んでいる人でも最高50株しか買えないという新しい規則、それと自分たちが儲けたいために他の人が買わないように仕向けるキャンペーンの仕方はダメだということがはっきりと決まった。やっているかどうか監査がはいる。
計画段階から住民への説明と話し合いが大事 企業の役割は当面の調査費用負担など
目の前にいきなり風車が建つと聞かされたら普通の人はいやがって反発したりします。でも最初からいろんな説明をしながらあなたも環境をよくし、エネルギーを手に入れるために投資ができるんですよ、協力ができるんですよと説得をし、理解をしてもらって住民が入っていくと反対する人がいないんですよね。ですから、住民の反対がなくスムーズにいく、というのが周りの住民を取り入れていく一番大きいメリットです。プラス経済的メリット、必ず利益が上がるという保障に近いような形で投資ができます。
ただ、話をするだけのワーキンググループはお金がかかりません。ところが、海洋調査をやりましょう、海底がどうの、海に与える影響がどうのというアセスメントを全部調査をするとなると多額の金がかかります。これを一般の、何を知らない市民が負担できるか、というと難しいです。そういうところで大きなドングエナジーが入ってきて、彼らがその組織の銀行をやりましょう、要るお金は私たちが出しましょう、ということで話がまとまっていった。
漁業への影響も漁業者との話し合いから 逆に漁獲量が増えた
洋上風車と言うと、漁師に与える影響がある。デンマークで法律でしっかり明記していて建物が完成するまでの間、漁ができない。その期間中は必ず補償金を出さなければいけないとなっている。漁で生活をしていなかった人たちも自分たちは漁ができなくなったので困った、と言って補償金を要求してきたケースもあったらしいが、全員に払っている。それで、工事が終わった後で実際に影響が出たかどうか漁獲量を調べたところ全く影響がなかった。
ウナギが生息するという、草・藻みたいなものの生えている生息具合を、工事前と後、3年後とかに調べた。この辺りはウナギがよく取れるところなので。全く影響を受けていない、増えているみたい。
ウナギが生息するとか、海底の貝とか、それも3年後に調べたらちゃんと元通りに戻っていた。漁師に人が言うには、漁獲量に関しては以前よりも増えている。なぜかと言うと、海の中にコンクリートを埋めて土台をつくっている。そこに、魚が餌にするいろんな微生物とか藻とか、いっぱい生息している。それによって、それを食べにくる魚の量が増えたので漁獲量が増えている。
デンマークでも詐欺まがいのことをする人たちがいる。それでも、その都度、風力発電の目的を基本に据えて、法の網を作っていく。たゆまぬ努力こそ、デンマークなのだと感心してしまう。
次回は質疑編