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福祉バスから住民の足としてのコミュニティバスへ(3)特別交付税の交付の要件 (K)

2018-07-28 | コミュニティバス
地方バス(コミュニティバス、デマンド交通も含む)への特別交付税(赤字額の4/5)について
県からの聞き取り

特別交付税の交付の要件
 自治体が住民の生活を守るためにかかわる地方バスには3つのケースが考えられるが、それらには特別交付税が交付される。
1. 民間の路線バスが赤字だが、住民にとっては必要なので自治体が民間のバス会社に赤字分などの補助を出して運行を続けている場合
2. コミュニティバスを自治体が走らせ、その運行を民間会社に業務委託している場合
3. 自治体がバスを購入し、直営で運転手を雇い運行している場合

交付率
1の場合、自治体が補助している赤字分の4/5が交付される。
2の場合、赤字分(=委託料・燃料代などの運行にかかわる経費―運賃収入や広告収入)の4/5。それに、バス購入費の4/5が交付される。
3の場合、赤字分(=運転手の人件費や燃料代などの運行経費―運賃収入や広告収入)の4/5。それに、バス購入費の4/5が交付される。

計算方法を掲載している法令
 県は「計算方法は省令に出ている」と説明したので、その省令を下に示します。
 
特別交付税に関する省令昭和五十一年自治省令第三十五号)


第五条 各市町村に対して毎年度三月に交付すべき特別交付税の額は、第一号の額に第三号の額から第四号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)と第二号の額の合算額から第五号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)を加えた額とする。

一(第一号) 次に掲げる額の合算額
内容は災害などの事項
二(第二号) 次の表の上欄に掲げる事項について、それぞれ下欄に掲げる算定方法によって算定した額
前年度の災害など
三(第三号) 次に掲げる額の合算額
イ 次の表の上欄に掲げる事項について、それぞれ下欄に掲げる算定方法によって算定した額(第六十号に掲げる事項については、…略)(表示単位は千円とし、表示単位未満の端数があるときは、その端数を四捨五入する。)の合算額
事項 算定方法

四(第四号) 次に掲げる額の合算額
イ 前条第一項第三号の額の算定方法に準じて算定した額(通勤手当・退職手当等で該当しない)
ロ 第三条第一項第四号の額から同項第三号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)
(該当しない)

従って、地方バスについては第五条一項の第三号で算定した額。

福祉バスから住民の足としてのコミュニティバスへ(2)

2018-07-28 | コミュニティバス
 杉戸町では民間のバス路線も一部しかなく、町の巡回バスへの期待は大きいのですが、運行便数も少なく、また、巡回方法も一方向だけでとても利用しづらいため、利用者からは何とかしてほしいという声が相次いでいます。そこで、私たちは2018年7月6日に県内の先進地を視察しました。今回はその2です。

人口1人当たり利用者数、県内1位の鴻巣市


 上と次の図は鴻巣市のHPより掲載。次ページの時刻表は紙面の都合で14時頃で終わっていますが、実際は22時ごろまで続きます。

フラワー号の歴史
 鴻巣のコミュニティバス、フラワー号は、平成2005年に合併した時、もともとあった川里コースを存続させたものです。
 2008年に実証、2009年から正式に吹上コース、田間宮コース、鴻巣市南西部の住民の要望に応える形で馬室コースも加えました。コースを増やしたのは、市民の足の確保です。コミュニティバスと位置づけて利用者も多くなりました。その5年後には常光コースと笠原コースを加え、さらに吹上コースを南北に分け、現在の形になりました。交通空白地域をなくす、と考えていますが、要望があって路線を引き、停留所を作っても、利用者がない場合は停留所を廃止、整理しました。
バスはノンステップ低床型で車いすも乗せられる36人乗りで、年齢別利用者の状況では50代60代70代で54%を占めています。30代から40代についてはヒアリングやアンケートで、朝の利用者が多く、4対6で女性が多くなっています。

運営形態
 バス会社との契約は5年間契約。5年ごとに見直しを行って、現在、朝日交通とロイヤル交通の2社が受託しています。2019年が次の見直しですが、それに向けて2016年から2年間見直しを行い、現在、業者選定をやっているところです。
 運営形態は、車や燃料費、車両購入代及び車両減価償却費つまり予備の車も必要なので、その減価償却費など、そういったものは市が払う業務委託となっています。
 現在、コース改訂に伴い、利用者かどうかは関係なく、無作為アンケートで地域要望を吸い上げ、色々な要望も出てきています。地域公共交通会議を2011年に設置し、以降、存続していますが、コースの改定時には頻繁に開かれます。この会議には市職員のほかバス事業者、タクシー事業者、県職員、市民団体、警察や県、関東運輸局などが参加しています。市民の声の反映については「鴻巣市のバス交通に関するアンケート調査」を2017年4月に実施しています。

未就学児、障がいのある方及びその介護者の運賃は無料。回数券もあり、ICカードはいくつかのコースで使えます。

便数とコース
 全部で8コース(川里循環右回りと左回りは別計算)あり、バス車両は11台です。始発は5:50~7:25ですが、ほとんど6:00代です。最終便の到着はほとんどが20:00代ですが、駅から遠い川里コースは22:00代です。
運行は年末年始を含む毎日です。

北本駅への乗り入れ 6つの停留所が北本市内
 隣の北本に隣接するコースでは6つの停留所が北本市内に入っています。北本市民も利用できます。相手の市と協議し、民間の運行事業者が申請しています。ここでも地域公共交通会議に県や警察が入っていることで許可が早くなっています。

市の支出と利用者数 利用者はさらに増える
 フラワー号利用者数と収支率


 2014年度に県内1位だった人口一人あたりの利用者数はさらに増えています。収支率も県平均が23%なので大きい方です。市の負担額は約1億800万円程度となっていますが、さらに、市民の足の確保のために、次のようにデマンドバスの試行を始めています。

デマンドタクシーの実証について(今年6月から)
 バス停まで行けない人のために市はデマンドバスの事業を行おうと今年6月15日から実証をスタートさせました。現在までに1日平均50件を超え、計2300人以上が利用し、好評です。
 通常のタクシー料金に対し市が料金を決め、タクシー料金との差額を市が補填する形でスタートさせています(表)。タクシー会社にとっても損をしないで利用者が増え、利用者も低額で利用できる仕組みになっています。鴻巣の実証では市の補助は1回およそ500円ぐらいで済む感触があります。

利用料金

 運行範囲は①自宅→共通乗降場、②共通乗降場→自宅、③共通乗降場→共通乗降場 となっています。
※ 共通乗降場は各公共施設、各学校・保育園・幼稚園など、各駅、各医療機関、各介護施設、各金融機関、各商業施設、各コンビニ、各バス停、路線バス各バス停など687か所です。

利用できる方
 70才以上、要介護・要支援の認定を受けている人、身体障害者手帳・療養手帳・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人、指定難病医療受給者などの交付を受けている人、小学校就学前の子、妊娠中の方です。事前に登録が必要です。

運行日
 毎日運行(12/29~1/3を除く)。受付時間は8:30~17:00

「利用者県内1位をキープするように頑張っている」と市の主幹の挨拶の通り、市民の移動する権利を守る気概が、デマンドバスへの新たな挑戦に表れているようでした。

 2つの自治体とも、住民の足を確保する気持ちが伝わってきました。通学・通勤者を対象とすることによって利用者数も増え、収支率も向上しています。住民の声も協議会の役割が大きいと感じました。


路線と便数を増やすと市の負担も大きくなります。そこで、国の補助を紹介します。


コミュニティバスへの交付税措置(国の補助)は赤字分の4/5

2018.7.11市町村課への聞き取り


 国は、経費―運賃収入など=赤字、については交付税措置を行っています。交付税措置の概要は以下の通りです。交付税は、特別交付税で「地方バス路線の運行維持に要する経費があること」という項目です。コミュニティバスを運行している県内の自治体にはほとんど措置されています。

国庫支出金ではなく地方交付税措置
 交付税はバス事業者への赤字補てん、という形で、運行費用の赤字分とバス購入費(バスの大きさに関係はない)に対して4/5が交付される。コミュニティバスにも適用される。
バスを直営で買った場合でも、同じように措置される。
直営のコミュニティバスの場合も同じ考えで、自治体の補填(=運行経費―運賃収入)に対して4/5が交付税として措置される。
コミュニティバスの要件は自立した日常生活及び社会生活の確保
 買い物、病院、通勤、通学、公共施設へ行く場合など生活維持に関するものであること。
デマンド交通(デマンドバスやデマンドタクシーなど)は輸送量の条件なしで適用される
 総運賃額、総キロ数が算出できないので、輸送量の条件なしで適用される。
 該当しない場合
① 輸送量*が150人以上になる場合
② バス運賃が無料
③ 黒字はダメ
*輸送量とは、停留所相互間の運賃額と総キロ数などによる。県内のほとんどは150人以上にならない。

福祉バスから住民の足としてのコミュニティバスへ(1)

2018-07-28 | 会員からの寄稿
杉戸町のまちづくりを考える会 木村芳裕


 杉戸町では民間のバス路線も一部しかなく、町の巡回バスへの期待は大きいのですが、運行便数も少なく、また、巡回方法も一方向だけでとても利用しづらいため、利用者からは何とかしてほしいという声が相次いでいます。そこで、私たちは2018年7月6日に県内の先進地を視察しました。

県内の状況は調査年がちょっと古いのですが、以下の通りです。

埼玉県内のコミュニティバス等の利用者数及び収支率等の比較(平成24年度実績、埼玉県調査資料)桶川市のHPより


平成28年度は、人口当たり1日平均利用者数割合=県の発表した利用者数÷年度の10月1日現在の人口÷365日、とすると、鴻巣市は1.22%、鶴ヶ島市1.11%、桶川市1.01%で、杉戸町は0.14%です。県平均は0.24%です。


平成28年度の県の収支率平均は、23%。コミュニティバスは採算が取れないのです。ちなみに杉戸町の平成27年度、28年度、29年度の収支率はそれぞれ10.3%、10.8%、7.9%です。杉戸町では29年度にコースの一方通行への改訂があり、使いづらくなったとの声が増えていました。コースの改訂によって収支率が下がってしまいました。

コミュニティバスの収支率の最も高い鶴ヶ島市


 鶴ヶ島市は人口約7万人、面積は17.5㎢。交通網は圏央道と関越道が通り、そのジャンクションがあり、それぞれのインターチェンジがあります。市内には入間市と東松山市を結ぶ407号線が通っています。鉄道は市の北東端を東武東上線、北西端を東上越生線が通っています。交通網は十分ですが、市内には路線バスがありません。市民には通学・通勤そしてくらしのための足が必要です。


上と下図 鶴ヶ島市のHPより。つるバス 6時台~10時台までの時刻表ですが、つるバスは10時台~20時台まである。この他につるワゴンの6コースがあり、おおよそ9時台~18時台で1時間~1時間半間隔となっています。つるバス、つるワゴンともに同じ料金で乗継ができます。

つるバス・つるワゴンの誕生まで
 1996年5月から、鶴ヶ島市は市内循環バス「ふれあい号」の運行を小型バス3台、2コースで開始しました。しかし、市民からは市役所と駅と公共施設を回ってほしい、市内全体を回ってほしいとの苦情や要望が多かったことと、要望があっても回ってみたら利用者いないことなどもありました。
これらの意見から循環バスの路線を見直すことになりました。市は2008年3月に地域公共交通活性化協議会を立ち上げ、国の補助金を使って、市民にアンケートを取り、要望のバランスが難しいのでコンサルに案を作ってもらい、それを地域公共交通活性化協議会に諮って正式に決めました。この時の協議会のメンバーはバス、タクシーの事業者5人、警察1人、市職員2名、利用者2名(公募はしていない)、商工会1名、関東運輸局1名、県の交通課から1名、県の道路管理の担当課から1名、計14名で行われ、副市長が会長を務めました。
 2010年2月、市民バス(小型バス3台)、乗合タクシー(セダンのタクシー)による実証運行が開始されました。その評価や市民アンケートをもとに何度も地域交通活性化協議会が開かれます。同年12月には1か月間のパブコメが行われました。ダイヤの策定にあたっては、複雑なので、公共交通やまちづくりを専門とするコンサルタントに頼みました。この実証に基づき現在のつるバス・つるワゴンが誕生しました。なお、デマンド交通については特定の人だけが使うようになるので考えていないとのことです。
 つるバス・つるワゴンの目的は、高齢者・障がい者などの市内の移動手段の確保のほか、通勤や通学、買い物などにも利用できる市内公共交通機関の確保です。

住民の声の反映
 これまで、5回ほど運行ルートやダイヤの見直しが実施されました。見直しの間隔は不定期で、新施設の建設、駅前に広場の新設、JRの時刻表の変更などの時に見直しを行っています。現在は2018年4月改正のルート・ダイヤで運行中です。
 コース・ルートなどに決めるにあたっては、市への問い合わせや要望なども考慮されます。市への問い合わせは主に時刻表の見方などですが、役立って嬉しいけれど運転手の態度が悪い、とか車がスピードを出しすぎとか、乗り継ぎが悪いというのもあります。運行は毎日で年末年始(12/29~1/3)だけが休みですが、年末に買い物に行きたい、という要望が出ています。何とかしたいが事業者との関係があってまだ解決していません。バスへの市予算の支出について、市民一人1000円くらいになりますが、この経費への苦情は年に1件か2件くらいでほとんどありません。
 今年度、駅口が新たにできたり、バス空白地域があることから、見直し作業を行い、来年度バスの時刻表の改正を予定しています。大規模なコース改正の時にはアンケートを取ったり、パブコメを行っています。そして協議会を開き決めます。

つるバス・つるワゴンの運行状況
 現在の運行状況はつるバス2台(36人乗り、ノンステップバス)、つるワゴン6台(9人乗り。運行路線ごとに車両の色が決まっている)、全車両とも車椅子リフト付きになっています。つるワゴンの内の1路線とつるバスは通勤通学者への考慮から朝6時から夜の21時まで運行しています。
 現在の1日平均の利用状況は、つるバスは1日508人、つるワゴンの黄色は48人、ピンク色は45人、オレンジ色41人、緑色は96人、青色は56人となっています。つるバスと緑ワゴンは6時~21時までの終日運行で通勤通学の利用者が多くなっています。

運営形態
 平成8年5月からの市内循環バスふれあい号の運行は東武バスに委託によって始まりました。
現在、運行事業者は市ではなくバス会社やタクシー会社で運行業者が停留所やコースの許可を取っています。運行費用の一部を協定を結び市が負担する仕組みになっています。事業者はつるバスは東武バス、つるワゴンは市内1社と坂戸の3社のタクシー会社が運行しています。つるワゴンの車両はリースで、このリース代も経費に含まれています。

乗車料金と運行経費、利用者数など
つるバス・つるワゴンの乗車料金は、片道、大人200円、子ども(小学生)100円となっています。支払い方法などは次のようになっています。

2017年度つるバス・つるワゴンの経費及び利用者数


 運行経費―収入(運賃収入)=補償額(市の支出)となっていて、現在、市が負担している補償額は年間で6,740万円ほどになっています。運行経費の中には事業者が借り上げる車両(つるワゴン)のリース代も含まれています。
 つるバスの利用者は、通勤、通学、スーパーやホームセンター、公共施設に行く大人や子どもが多く、つるワゴンは身近に交通手段がない高齢者の割合が多くなっています。つるワゴン緑の通勤・通学者用では通勤・通学に向かう人が乗りやすいように、朝の始発から16時40分まで右回りで16時45分からは左回りとなっています。つるバスは6:00~21:00、およそ20分間隔の運行、つるワゴンは通勤・通学用は、その時間帯は30分間隔、他のつるワゴンはおよそ1時間半間隔です。

隣の坂戸駅まで行けるためにどうしたか
 坂戸市に話して関東運輸局の認可が必要なので認可を得た。活性化協議会を通すと認可が早くなるので警察や国・県の人も入った活性化協議会の了解を得ると早くなるが、その了解を得るためにも相手の自治体の了解を得ているということであれば協議会での結論も早くなる

つるバス・つるワゴンのサービス
 ●乗り継ぎ:乗継しても乗車1回分のままです。ただし、目的地までの1回乗り継ぎとなっていて、乗り継ぎの停留所は複数路線が合流する「乗継指定停留所」にて相互に乗り継ぎとなっています。
 ●降車フリー:降車場所はつるバス、つるワゴンの運行ル、―ト上であればどこでも降車できます。
 ●続行便:つるワゴンが満員の場合は運転手がタクシー車両による「続行便」を手配し、料金はそのワゴン利用の時と同じですが、続行便が来るまで時間がかかるので利用者は少ない。
 ●マイ時刻表:時刻表はホームページで公表していますが、それが見られない人のために、よく利用する経路に限定した時刻表を作成し、昨年は35人に54ルートを手渡しています。

 鶴ヶ島市のつるバス・つるワゴンには細かな配慮がされていて、住民を思いやる姿勢が感じられました。