どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム250 『ミズと郵便屋さんとぼく』

2019-12-02 01:15:50 | ポエム

 

     ミズ

     (植物図鑑)参照

 

あれ これミズじゃないですか

郵便屋さんが素っ頓狂な声をあげた

手に持った封書をぼくに渡した後

振り返って目の前の野草に屈みこんだ

 

一枚ちぎってもいいですか

どうぞの声にすかさず手を伸ばした

茎の部分から折った野草の葉を指で揉んで

やっぱりミズだと嬉しそうにぼくを見る

 

一瞬 目の前に母親の顔が浮かぶ

東北の田舎で育った娘時代に

祖母が作ってくれたという味噌和えのミズは

ぼくにとっては話の中だけのご馳走だった

 

包丁を使ってミズをトントン叩いてね

それが白く粘りを出したところへ味噌を入れて

ご飯にぶっかけて掻き込むおいしさといったら

東京もんにはわかりっこねえべな

 

郵便屋さんの嬉しそうな表情には

実際にミズを食べたことのある裏づけがある

ごぶさたしていた友人に再会したような驚きがある

故郷の幻影をを生い茂る雑草の上に見た喜びがあった

 

失礼ですが東北のご出身ですかとぼくが問う

一人はしゃいでしまった照れ臭さを口辺に寄せて

ミズのこと知っているんですかと帽子をずらす

生え際の白いものは長年勤続した履歴のようなもの

 

うちの母親はいつも夏になるとミズを懐かしがって

近くで手に入るといいんだがねとため息をついていた

酢の物でも天ぷらでも何にしてもおいしいんだよと

10年前に亡くなるまで言っていたがそれほどですか

 

郵便屋さんはニヤッと笑って下を向く

幼いころの記憶をたどって検証しているようだ

なんとも言えませんが僕の田舎ではご馳走でした

控えめな自信が被り直した帽子の角度に表われた

 

そうですか ありがとう

実はぼく目の前にミズがあっても気づかなかった

それに母の墓参りもおろそかにしてました

郵便屋さん いろいろ教えてくれてありがとう

 

 

 


コメント (6)    この記事についてブログを書く
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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
傑作 (hide-san)
2019-12-02 11:31:09
このPoem、傑作ですね。

最後まで一気に読み感動しましたよ!
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ありがとう (tadaox)
2019-12-02 17:45:14
(hide--san)さん、嬉しいコメントありがとうございます。
閑居の老人に希望の灯りが点りました。
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たしかに (知恵熱おやじ)
2019-12-04 00:37:06
たしかにいい詩ですね―

窪庭さんの心に思わず灯った浮き立つような気持ちが伝わってきました。
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新鮮な (fuyou)
2019-12-04 23:19:20
とても新鮮な気持ちになれました
ありがとうございます

フォローありがとうございます
これからもよろしくお願いします
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山菜への憧れ (tadaox)
2019-12-05 00:48:03
(知恵熱おやじ)様、われわれの友人だった栗*さんはつくしの季節を楽しみにしていましたね。
人はみな山菜にあこがれを持っているような気がします。

たらの芽、行者ニンニク等々一通りの味は記憶しているつもりですが、ミズはまだ食べたことがありません。
ところが、これぞ灯台下暗し・・・・春が待ち遠しいです。
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感謝! (tadaox)
2019-12-05 01:15:42
(fuyou)様、お立ち寄りいただきありがとうございます。
ぼくも皆様のブログに出遭うのが喜びです。

週一回程度の更新ですが、システムが進化したおかげで視野が広くなりました。
これからもよろしくお願いします。

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