どうぶつ・ティータイム（６４）

　　　　　信州路寄り道ドライブ（４）＜小布施～中野～飯山～野沢温泉村＞

　小布施を出たのが十二時過ぎ。道草ばかり食っていると、目的地の野沢温泉にはなかなか行き着かない。ルートさえ把握してないのだから、ひたすら過去の記憶を繋ぎ合わせて走るしかなかった。
　幸い目移りのする旧跡などに出会わなかったから、目の前の道路を標識頼りにひた走った。
　信州中野、飯山といったところを通過していったのだが、正確に何号線を通っていったのか憶えていなかった。

　あとで調べたら、４０３号から２９２号に入り千曲川を渡って今度は１１７号へ右折したようだ。
　そのまま千曲川を右手に見て土手上の直線道路を進んだ。
　ややこしい道の説明は無用かとも思うが、この先のロケーションがすばらしかったのでつい蛇足を書いた。
　道沿いに延々と続く紅、黄、紫の草花のベルトが、青い空・白い雲と反照しあって爽快な気分をもたらしてくれた。
　ときおり目に入る千曲川の流れが、ゆったりと過ぎていく時の流れをのせて、体の中にこれまでにない快適な和音を奏でてくれたのだ。

　やがて道路標識に野沢温泉への経路が表示されるようになった。
　途中ではなかなか案内がなされないので、この標識は目的地が近づいたことを示唆するものだった。
　大関橋西の信号を右折すると、幅広い河川敷をもつ千曲川を渡って３８号に突き当たった。
　この道は木島平方面から来ている県道だ。左折すれば野沢温泉が近いことを先ほどの道路標識が示していた。「どんなところだろう？」期待が膨らむ。

　丘を越え、下っていくと、突如展望が開けてきた。
　手前には整然とした区画の稲田が青々と広がり、その向こうに野沢温泉郷と思われる人家がびっしりと密集していた。
　正面には屏風のような山が立ちふさがり、山の上では発達した入道雲が一暴れしようとたくらんでいる様子。
　午前中は快晴だったのに、どうも雲行きが怪しい。
　三時、四時になると急に雷雨に見舞われる北軽井沢の気候が思い出されて、少々心配になった。

　温泉街に入り駐車場を探している間に、案の定ポツリポツリ降ってきた。
　傘を片手に、遅い昼食のために食堂を覗いて歩く。人の出が少ないせいか、昼時以外はさっさと暖簾を仕舞ってしまうから稀なる客は大弱りだ。
　やっと見つけた蕎麦屋で腹ごしらえを済ませ、有名な『大湯』の場所を教えてもらった。

『大湯』は、最近建物の一部を手直したらしく、真新しい木の感じが好ましかった。入る前に写真を・・・・と考えたが、この頃には篠突く雨となってそれどころではなかった。
　湯屋造りという昔ながらの外観は、野沢温泉のシンボルとしてしばしば紹介されているから誰でもイメージできるはずだ。
　強いて言えば『千と千尋の神隠し』に登場する湯屋の小型版といったところか。
　
　内部がまた独特だった。
　入口近くの脱衣場が広々としていて、Ｌ字型に設けられている。
　檜造りと思われる浴槽が二つ並び、二種の温度で調節されている。奥まったところには源泉の湧き出し口があり、硫黄の湯の花がこびりついている。
　かつては飯山藩主専用の湯屋だったというだけあって、奥行きがゆったりしていて実に贅沢。

　これが無料で入れるのだから、地元の人も観光客もともに幸せだ。
　雨に降り込められたライダーたちの会話を聞くともなく聞いていると、老若男女すべてが恩恵をこうむれる日本の温泉文化に、誇らしさを感じた。
　身も心も素っ裸にしてくれる外湯に感謝しながら、やっと目的を果たした日帰りドライブを終わりにする。
　今度は雪の季節に訪れて、「フーッ」とため息をつくさまを想像しながら・・・・。

　　　　　（おわり）