アガパンサス
(ホルテイ花の情報)より
梅雨が近づくと わたしの心は乱れる
あれもしたい これもやりたい
胸の奥から伸びてくる 紫色の欲望が
空を掴んで 悶えているようだ
見てごらんよ あのアガパンサスを
通りすがりの女たちが わたしを指差す
もの欲しげに 色目を使っているんじゃないの
湿った笑いが 梅雨前線を連れてくる
なにを言われても わたしは平気
心のままに 欲望のままに
好きな男には 好きといえばいい
後ろ指さされようと わたしは紫君子蘭
奔放なわたしが 気に入らないのね
ふしだらと非難はしても 羨望で心が青ざめる
欲望を隠して生きてきた たくさんの日々が
間尺に合わなかったと 愚痴をこぼすのね
樋口一葉も 与謝野晶子も
抑えきれない激情に 身を灼かれた
岡本かの子も 松井須磨子も
夏の嵐に 吹きさらわれた
華奢な花茎の先に 青紫の線香花火
海をわたって届けられた 恋の贈り物
だけど花弁の先には 惑いの色
新たな花言葉は 永遠のツミツクリ
梅雨のさなかに わたしは狂う
花弁をつたう雨滴に 心が身震いする
あれもしたい これも欲しいだって
非難した女たちにも わたしの紊乱が乗り移る
慣れのせいか歳のせいか、最近あまり紊乱状態を感じなくなりました。
初めてのものに出会っても、そうかどこかで見たことがあるなと、本当のところは何もわかっちゃいないのに何となく納得してしまう・・・なんか寂しい・・・というかつまらんですね。
もっと若いころは、何にでも新鮮な驚きを感じて心乱されていたのに。
紊乱したい、紊乱されてみたい、紊乱よお前はどこに行ってしまったのだ。
いい詩ですね。
といううか、紊乱状態なのに何も感じなくなったのかも?
いやいや、旧式の秩序が失われて、紊乱と認定する基準がなくなったのでしょうか。
だけど、人の心の中では紊乱は未だに健在ですよね。
きれいに花びらを揃えて咲く大多数の花より、アガパンサスは悩ましい。・・・・と思った次第です。