(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

読書 『燃える男』(A.J.クイネル) (前編)

2021-08-15 | 料理
読書 『燃える男』(A.J.クイネル)

 A.J.クイネルの『燃える男』という本について、ご存じの方はあまりおられないのではないだろうか。長年ミステリーを読んで来た私自身、知らなかった。それが、ふとしたきっかけで紀野一義師(仏教学者)の描かれた文中で知ることになった。  彼が、なぜ、およそ縁もゆかりもなさそうなこの本を取り上げたかは、後ほど触れることにする。ちなみに、万巻の書を読んできたと豪語されていた児玉清さん(故人)もご存じなかった。

 『燃える男』というのは、ミステリーというよりもある種の冒険小説(あるいはアクション小説)である。ベトナム戦争に参加し、後に傭兵となった男が、故国シチリアのパレルモに帰る。ふとした縁で、ナポリに住む少女のボディガードになったが、その少女が誘拐・殺害され、その復讐のために独りで立ち上がる。壮絶な戦いの末にシチリアマフィアのグループを全滅させる。その間の、はらはらドキドキする活劇の様子を読むだけでも面白いが、それだけではない。故郷に還った男が生きる目的をも失い、自暴自棄で酒浸りになり、身体そのものも衰える。では、なぜそんな状態の彼が立ち上がったのか。そのあたりの描写が優れれており、単なるアクションドラマではない。

     ~~~~~~~~~~

 物語は、外人部隊で活躍した傭兵クリーシーが、コルシカからマルタにやってきたところから、始まる。

 ○クリーシーはアメリカ人。彼はアメリカ海兵隊の勤務を経て、ベトナムで6年間戦った。そしてあらゆる武器のエキスパートにして生まれつきの戦略家であった。とくにサブマシンガンの操作に長けていた。ディエンビエンフーでは、陣地奪還に成功し、最も有能な傭兵と評された。アメリカはその頃すでにベトナムに深入りしていて、今の戦闘要員と武器だけでは、十分出ないことが明白になりつつあった。そこで、CIAは秘密軍隊の兵士募集と訓練に余念がなかった。その頃、イタリア人のグイドーはアルジェリアでの戦争の折に、クリーシーからの教育・訓練を経て、クリーシーの片腕とも評価されるようになり、二人は親友とも言える間柄になっていた。

二人は、CIAの隠れみの会社で働き、ジャール高原のメオ族を訓練して、侵略部隊の育てあげた。これは傭兵集団で、北ベトナムとカンボジアに侵入し、ベトコンの補給路を妨害した。しかし、その戦争で侵略部隊の四分の三を失った。二人は、永続的な休暇をとろうとして、ヨーロッパに旅立ち、マルタに帰った。グイドーは姉妹島のゴゾで、ジュリアと出会い結婚した。そして二人は別々の道を歩んだ。
 
 それから5年の歳月が流れた。クリーシーはローデシア(現在のジンバブエ)に行き、そこで腰を落ち着けようと努め、若い白人新兵の訓練に従事した。しかし、ローデシアは所詮別な世界で、彼は同化できなかった。恐ろしい不毛感だった。ディエンビエンフー、アルジェリア、カタンガ、二度目のベトナム、そして愛国心と大義名分について語り、決して死のことを口にしない人々のために戦う不毛の戦闘。しかし、死を免れるものは皆無なのだ。彼は自分の行く末いを思い、変えようなない帰結を予見した。彼は、一切のことに興味を失ってしまった。大酒を呑み始め、肉体は弛緩し、無気力になった。そしてマルセイユ行の船に乗り、そこから衝動的にコルシカに渡った。翌日、リボルノ行の船に乗って、グイドーに会いに行った。

 ○(クリーシーとピンタの出会い)クリーシーの友人、グイドーは生きる望みを失って無気力になっているクリーシーのために、なにかできることはないかと考えていた。そんな時、ミラノの会計事務所に勤めている弟のエリオから実業家にボディーガードを斡旋している保安斡旋所があることを聞いた。それによると需要が大きいいわりに、訓練されている人材が不足しているとのことだった。報酬は素晴らしいらしい、”この話をクリーシーにどうか?”、と聞かれた時、グイドーは、クリーシーには向かない仕事だと思ったが、プレミアムボディガードの話を聞いて興味を示した。それは、保険料割引に役に立つもので、この種のボディガードは誘拐犯の撃退にはあまり役に立たないが、保険料割引の対象になり、費用も安いとのこと。グイドーがこの話をクリーシーにすると、何のかといっていたクリーシーは、”では、二三日ミラノへ遊びがてら行って、どんな仕事にありつけるか見てくるか、と言い出した。

グイドーは、外人部隊におけるクリーシーの経歴から、アフリカ/中東/アジアのおける戦歴や彼が熟知している武器の一覧表を書いた。勲章についても触れた。

 クリーシーは、その書面を持ってミラノの実業家エットレ・バレットに会いに行った。エットレとその妻、リタには11歳になる娘がいて、最近の事件から娘ピンタが誘拐されるのではないかと心配し、ボディガードをつけて娘を守らせることを考え、顧問弁護士のヴィーコ・マンスッティに相談の結果、ボディガードを雇うことにしたのである。ボディーガードの仕事は、ピンタの学校への送り迎えと、その間にリタの運転手としての仕事である。夫妻は、クリーシーの経歴書などを見て、クリーシーを雇うことに決めた。

クリーシーは、子供の扱いが上手くなかった。しかし、ピンタは好奇心をいだき、自分の部屋へとクリーシーを案内し、、その間ずっと喋り続けていた。句
クリーシーの到来は、彼女の人生で大事件であり、単なるボディガード以上のものと見なした。彼女は、アメリカのことから始まって、あれこれクリーシーを質問攻めにした。彼女は、クリーシーという存在に熱狂していたのだ。ピンタは、母親のリタに、”友人の熊みたい”と言った。そして、”クリーシーベアと呼ぶことにした。、”

 クリーシーは、ピンタの学校に行き、視察して危険と思われる場所を観察した。女性の校長にも会った。日が経つにつれ、クリーシーは次第に気ままで、気楽な感じになっていった。当面、彼は仕事に満足し、飲酒癖もいくらか収まってきた。

日課が定着した。クリーシーは、朝はピンタを学校に送り、5時に迎えに行った。その間の時間は、自由だ。時折、ミラノの街へ行って好きな音楽のカセットや本を買たりした。エレット家の広大な庭の手入れもした。両親が旅にでていて、留守にしている夕方、彼らは早めの夕食をとった。ピンタは旺盛な好奇心から使用人のマリアやブルームにひんぱんに質問を投げかけた。

ベトナムについてピンタが聞いた時、マリアもブルームも知らなかった。クリーシーは、興味を掻き立てられ、初めて会話に引き込まれた。南ベトナムからの難民の大量脱出(ボート・ピープル)のことや、統一ベトナムでの中国人のこと。マレーシアやインドネシアでの中国人の影響力などの話もした。インドネシアでは、共産主義クーデターの失敗後、十万人以上の中国人が虐殺された。あれこれ話をしているうち、クリーシーは突然話をやめた。柄にもなく喋りすぎたからだ。彼は、そっけなくおやすみを云って部屋へ上がって行った。ピンタは内心でニンマリした。”第一歩よ、クリーシーベア”、と彼女は独り言を言った。

 クリーシーはグイドーの弟エリオとその妻フェリチアを夕食に誘った。レストランは、ミラノにあるマリア推奨の店だった。食事も美味しく、彼らは賑やかに談笑した。エリオはクリーシーの雰囲気に驚いた。一ヶ月前とは、大変な変わりようだった。彼はフェリチアの穏やかなからかいをこだわりもなく受け止め、無味乾燥な冗談を一つ二つ飛ばしさえした。彼らのテーブルにヴィーコ・マンスッティが近づいてきた。彼が去ると、エリオはマンスッティについて、言った。”彼はやり手だ。政府や実業界とつながりもある。マフィアとつながっているという噂もある・・・”エリオによると、エットレ・バレットは工場施設の入れ替えに必要な融資保証人の手配で明らかにマンスッティの助けを借りている、マンスッティ自身が保証人になっているとの話もある。どうやらバレットの工場は資金繰りに困っているらしい。

 家に帰ると、エリオはグイドーに電話でクリーシーの様子について話をした。”だいぶ、リラックスしてきた。彼は落ち着いたようだ。冗談さえ飛ばした。エットレバレット家の娘、ピンタについて聞かれ、”どうやら詮索好きの娘らしい、クリーシーは何にでも好奇心のある娘だと言っていた”グイドーは、当惑を覚えなが電話を切った。詮索好きな娘に、リラックしたクリーシー、というのは、全くの矛盾だった。

 色々あった。ピンタがナイチンゲールの巣をみるのに急斜面で足をくじいた。クリーシーが処置をし、コモの街にある医院につれていった。医者は、肋骨の下に多少の内出血があるかも知れないが、たいした傷ではないと言った。マリアは、クリーシーの優しさと頼もしさにいたく感心した。ピンタは、5週間後に学校の運動会で100メートル走あるので、クリーシーにアドバイスを求めたが、クリーシーーは、”できるだけ痛めた足を使って歩くといい、少々痛くてもだ”と云った。

 ピンタの態度は変化していた。もはやクリーシーの友情を獲得しようとする、ただのゲームではなくなった、もはや単なる好奇心ではなかった。ピンタはクリーシーにつながる、か細い明確な輪を感じていた。

クリーシーは、両親が留守の間にピンタをエリオの家に昼食に連れていった。その時の様子をエリオは、グイドーに電話で長々と話をした。”娘はあらゆることを彼に聞くんだ。あの子には彼の言葉は一種の神託なんだ。”。エリオの妻のフェリチアも言った。”彼は絶対あの子が好きよ。夢中なのね。もしかしたら、彼は自分ではよく分かっていないのかも。・・・クリーシーーが、好きになるなんて本当にびっくりしたの”、と電話口で云った。グイドーにとっても意外なことだった。長年、クリーシーと一緒に過ごした彼にしてみれば、あの分厚い殻、一介の子供が突き破るなど、とても信じられなかった。グイドーは、友人のために嬉しかった。

エリオとフェリチアとの日曜日の昼食以来、ピンタはクリーシーの気軽に接し、彼を理解し、内面にまで入っていくこともあった。1954年のディエンビエンフーでの、降伏と屈辱そして戦犯収容所での三週間にわたる強制行軍などについても話をした。ピンタはアメリカでのことも聞いた。グイドーを別にすると十一歳の子供は、地上の誰よりも詳しくクリーシーのことを知ったのだった。

 近頃、クリーシーが飲む量は、ボトル半分以下だった。酒のよって蓄積した効果は彼に制約となり、動作を緩慢にした。しかしながら、彼の精神は再び鋭敏さを取り戻していた。彼は、自分の肉体をもとに戻そうと覚悟を固め始めてもいた。きっかけは、ピンタと、近づいてきた運動会だった。ピンタの足首が治るとすぐ、クリーシーは白線入りのスターティングブロックを作り、ピンタのスタート練習にとりかかった。彼女に反応時間について説明をし、ピストルのバンといいう音への集中の仕方を教えた。彼は手をたたいてスターティングガンの代わりとして、その日の午後だけで彼女は驚いた鹿のようにブロックから飛び出すまでになった。その晩、彼はピンタのことを考えていた。あの子はとても生き生きとして、非常に敏捷で引き締まっている。それに引き換えーと彼は自分のことを考えた。この仕事が確定したら、週に二三回夕方の時間を使って体調の回復を図ろうと決意した。彼は、少女が彼にもたらしたものに気づいた。真空は満たされたのだ。彼はピンタの成長を見守りたかった。クリーシーにとって、不毛感は無縁となった。

 ある日、リタが美容室から出て車を探して、30メートルほど先に車のそばにいるクリーシーを見つけた。そこへ歩き始めた時、赤い旅団と呼ばれるテロ集団の起こした事件に巻き込まれ、銃撃に巻き込まれた。幸い、二人は無事だったが、クリーシーーは、自分の反応の鈍さを感じた。二人組の犯人は、明らかに素人くさかった。それなのに、自分はのろまだたった。これで彼の腹は決まった。今や、放置され、錆びついた高性能マシンというわけだ。何ヶ月もかかるだろうが、段階を踏んで、最初は慎重に、自分の部屋で毎朝サーキットトレーニングをする。それからジムへ通い、ウエイトやバーを使う。体は、元へ戻るだろう。

 クリーシーは、ピンタの運動会へ行った。百メートル走で、ピンタはトレーニングの効果を発揮し、ほかの誰よりも素早くブロックを蹴って、5ヤードの差をつけてテープを切った。ピンタにとって、その日は申し分のない一日となった。ピンタはクリーシーの笑顔をはじめて見たから、とくにそうだった。二人は、マジョレ湖の上の方にある高原牧場へランチに行った。ピンタは、レースに協力してくれたお礼と云って、誕生日のお祝いに、細い金細工の鎖のついた純金の十字架を呉れた。ピンタは、クリーシーに云った。”もしあなたが悪魔に出会ったら、それを顔の前にかざさなければいけないわ”、といった。彼は苦笑いした。機関銃も代わりに十字架を持てというわけだった。

 日が暮れると、彼らはバスケットを閉めて、黄昏に中を車へ戻っていった。新鮮な空気と運動でピンタは眠くなっていた。彼女はあくびをして、次第に座席に沈み込んだ。とうとう彼女は足を座席に上げ、頭をクリーシーの膝に載せた。彼は、ゆっくりと家路へ向かう車を走らせながら、眠っている少女の顔を時折見下ろした。暮れなずむ光の中で、傷跡のある顔と物思わしげな目は、めったにない満足を示して緩んでいた。彼は安らかな気分だった。


 クリーシーに送られ、ピンタはピアノのレッスンに出かけた。クリーシーはピアノ教師のフラットを探すのに苦労した。ピンタが地図を取り出し、彼をブエノス・アイレス通りへと案内した。ピンタは、”長くはないわ、一時間だけね”、と言ってマンションの入り口に入っていった。一時間が過ぎ、マンションの玄関ドアの閉まる音を聞いて、クリーシーは目を上げた。ピンタは彼に手を振って、車の方に歩き出した。彼女がまだ40メートル先を歩いている時、黒い車がクリーシーの車の後方からやってきた。彼は、四人の男の姿を見て、すぐさま何が起こるかに気づいた。彼は銃に手をかけ、すばやく車を出た。驚いて立ち止まっていたピンタに、”走れピンタ、走るんだ”、と叫んだ。車は横滑りして彼女の前に立ち止まり、ピンタとクリーシーの間をふさいだ。彼女は伸びてきた腕をかいくぐり、車の後ろを回って逃げ出した。彼女はクリーシーの方に走り、クリーシーも走った。追いかけてきた男の一人が彼女に追いつき、、腕を素早く伸ばして捕まえ、そのまま片腕で抱き上げると車の方に戻りはじめた。クリーシーーは、もうひとりの男の胸に二発打ち込んだ。ピンタを捕まえた男には、ピンタを打つ可能性があったので、打てなかった。その男はピンタを後部座席の放り込み、銃をかまえて振り向いた。クリーシーーは、その男を狙って銃を発射した。その時、フロントシートから三発の銃弾が飛んできて、クリーシーは倒れた。車は全速力で走り出した。ピンタは、金切り声でクリーシーの名前を呼んだ。彼はほとんど動けなかった。神経組織が銃弾のために麻痺させられたのだ。彼は救助を待って、横たわっていた。苦痛と衝撃に打ちのめされながら、彼の唯一の望みは死なないということだった。彼の名前を呼んだピンタの叫びが耳に残った。


 病院でクリーシーはほとんど意識がなく、薬漬けなっていた。見舞いに来たグイドーが部屋に入り、”聞こえるか、クリーシーー?” と聞いた。かすかな頷きがあった。医者によると、クリーシーは瀕死の状態で病院に運び込まれた。応急手術だった。危篤状態を切り抜けたら、体力の回復を見て完全に手術しなおす予定だった。容態はどうころぶか分からなかった。二日間、クリーシーは瀬戸際をさ迷い、それから持ち直した。大変な生存意欲だった。

翌日、クリーシーは口をきくことができた。。それから、グイドーに、ピンタのことや手術の状況などを聞いた。クリーシーは熱心に耳を傾け、それから訊いた。”俺が撃った二人は死んだかね?” グイドーはうなずいた。”一人は心臓をぶち抜かれた、もうひとりは脳みそだ。上出来の射撃だった。” クリーシーは首を振って云った、”俺はのろかった、あまりにものろすぎた”

一週間後、医師団は再手術を行った。上首尾だった。グイドーは病室に入ってきて、事件のその後のことを伝えた。”あの子は死んだよ、クリーシー”。

”偶然が重なりすぎた。身代金は二日前に払われていた。ピンタは、その晩解放されるものと思われたが、現れなかった。朝になって警察があの子を盗難車のトランクの中で見つけたんだ。赤い旅団一味に対する大規模な掃討作戦が実施されたものでね。おそらく犯人共は神経質になって、何時間か身を隠したんだろう。両手と口にテープを貼られてあの子は吐いていた。多分排気ガスのせいだろう。そういう状況になれば、どうなるか目に見えている。解剖が行われた。あの子は窒息死だった。・・・ピンタは陵辱されていた。”何度もだ。
クリーシーの顔は凍りついたままで、表情がなかった。しかし、もはやうつろではなかった。目は、憎悪でぎらぎら燃えていた。

彼の回復は順調だった。病院で彼は看護婦の一人に金を与え、誘拐事件以後のすべての新聞を持ってこさせた。後にそれよりも何ヶ月も遡る新聞を持ってこさせた。ノートにメモをとり、徐々に埋めていった。ある日、ピンタの通った学校の校長シニョール・デルカが見舞いに来た。彼女は、あの少女への彼の愛情を知っていた。クリーシーは物理療法室に通いはじめ、ゆっくりと体操をしたり、温水プールで泳いだりした。また、使える器具を全部使って体力の回復を図った。

 クリーシーは、ミラノ発の夜行列車でナポリへ向かった。ナポリ駅から、タクシーを拾い、グイドー家の住む「ペンシオーネ・スプレンディア」に向かった。”やあ、グイドー”、”やあ、クリーシー”と挨拶を交わした。二人はテラスに出て座り、クリーシーは、これからしようとしていることをグイドに静かに説明した。グイドーは、クリーシーーに”君は本当にあの子が好きだったんだな”、といった。これに対し、クリーシーは、”俺は五ヶ月前、ここに座って目の前が何も見えなかった。このまま生き続けても意味がない、という感じだった。あの子が、それを変えたんだ。あの子は、どういうわけか、俺に忍び寄ってきた。日が経つにつれ、俺の生活の中へ滑り込んだんだ”、と云った。
それなのにあのろくでなし共があの子をさらい、辱めた。自分の吐瀉物の中で窒息死させた。俺がなぜ奴らを追いかけるか、君にはわかるだろう。

グイドーは、感動し、彼にはクリーシーの感情の深さが分かった。クリーシーは、「助けが必要なんだ、グイドー」といい、分かっていることをグイドーに話した。クリーシーを撃った男サンドリこと、車の運転手ラッビアのこと、彼らは、フォッセラという男の下で働いていることなど。そして、云った。”その二人だけではない、このことに手を貸したやつやこれで儲けたやつなど一人残らず狙うつもりであること。それには最高幹部含んでいる。臭くて小汚い巣窟全体だ。”、”パレルモの太った猫、カンタレラだ”、


(第二部)復讐の時) 

復讐の序章)クリーシーは入念な計画を立てていた。彼が。それを説明するとグイドーは感服した。そして、”誰を相手にしているか知っておく必要があると云った。グイドーは考え方をまとめ、説明した。
 ”連中の力は世間が考えるよりも、ずっと強大だ。連中は警察に挑戦し、時には警察を牛耳って「いる。法廷をひっくり返す事もできる。村会議員から内閣閣僚に至る、あらゆる層の政治家へ賄賂を贈っている。”

”当局の武器である警察、憲兵隊(カラビニエリ)、法廷、監獄といったものが、しばしば腐敗し、侵されている。二三の良心的警察官や勇敢な検事や判事がいるが、制度があまりにも弱体だ。情報提供者は何千人といる。警察内部にさえ息のかかったものがいる。あらゆる都市、あらゆる規模の町に、傘下のグループがいる。

しかし、クリーシーは、そのことは承知の上で、俺にはいくつか有利な点があるといった。①警察が使えない戦術を使うことができる。例えば、恐怖を与える方法だ。②警察が手にれられない情報を、自分で一つ一つ集める。③警察と違って『俺の目的は証拠を収集して法廷に提出する「ことではない、俺の目的は奴らを殺すことだ。④俺には警察以上の動機づけがある。警官は「判事には持てない動機だ。彼らには妻があり、家族があり、考慮すべき出世に道がある。グイドーは、武器は、と聞いた。クリーシーは、マルセイユで仕事をしている武器商人のルクレールから調達することを考えていた。彼は、元外人部隊の兵士であった。その武器のリストを見たグイドーは、、”これはまるで本当の戦争だ”、と驚いた。

 クリーシーは、体調を完全に整えるのに二ヶ月をみていた。その後、マルセイユにゆき、武器は自分自身で受け取ることを考えていた。

 それから、二人はどこでクリーシーの体力を完全なものにするか話し合い、マルタ島に行くことにした。ゴゾのジュリアのところだ。グイドーの妻のジュリアは、結婚してまもなく自動車事故でなくなっていたが、そこにはジュリアの弟のジョーイや、ジュリアの母親たちもいた。クリーシーとグイドーは夜明け近くまで話をしていた、懐かしい昔へ帰ったように興奮していた。当面の課題は、クリーシーの戦える体力づくりだった。


 (ゴゾでの日々)・・・続く。


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コラム 敗戦記念日に思う~戦争を知らない子どもたち

2021-08-15 | 料理
コラム 敗戦日に思う~戦争を知らない子どもたち

 昭和二十年の八月十五日、終戦の詔勅がラジオから流れた。その日は、耳を弄するような蝉時雨の音が聞こえてきた。

 毎年、八月十五日になると太平洋戦争のことについて何かしらの記事を書いてきた。もうそろそろ打ち止めしたいと思ったが、たまたま「半藤一利スペシャルインタビュー」という記事が目に留まったので、ここにご紹介する次第である。

ところで ♫戦争を知らない子供たち♫という歌があった。1970年代のフォークである。(作詞 北山修司 作曲 杉田二郎) 反戦歌である。戦争に巻き込まれたくない、戦争をしたくない、と平和を願う歌であった。

 現代の子どもたちは、太平洋戦争のことについてほとんど知らないのではないだろうか。

たまたま亡くなられた半藤一利さん(ジャーナリスト、歴史家)のスペシャルインタビューと言う記事が目に留まった。その時、半藤さんは皇室の秋篠宮と悠仁親王に対して、太平洋戦争はなぜ起こったのか、などということについて話をされている。そのインタビューのことを紹介したあとで、半藤さんはある女子大での講演のことについて語った。


 ”『太平洋戦争において、日本と戦争をしなかった国は? ①アメリカ ②ドイツ ③旧ソ連 ④オーストラリア』と聞いた。

そうしたら、50人中実に13人がアメリカと答えた。次の週に、『僕の授業を聞いてるのに、君たち13人はふざけてるのかね?』と聞いたら、大真面目だと言う。しかもその一人が手を挙げてこう言った。

『で、どっちが勝ったんですか?』

こうやって話していると笑い話のように聞こえますが、決して笑い話じゃない。これから来る令和の時代って、きっとこういう時代なんですよ”


 後世に太平洋戦争や、そこに至る経緯などについて、学校教育の中で語り継いでいかねばならないと、思うのだが、現状はどのように教えているのであろうか?


後記

 『燃える男」の記事は、追ってアップいたします。しばらくお待ち下さい。
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