人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

1996年 ホセ・クーラ、マスカーニのイリスに出演

2019-02-08 | オペラの舞台―その他




今回は、クーラのキャリア初期の舞台、マスカーニのオペラ、イリスについて紹介したいと思います。

1996年1月、ローマ歌劇場での公演です。クーラは当時、33歳、アルゼンチンから欧州に渡って5年目の年です。

このオペラ、あまり上演されない珍しいオペラだと思います。クーラもこのローマのプロダクションが最初で最後だったのではないでしょうか。
物語は、日本の江戸が舞台。大坂と京都という名前の2人によって、イリス(アヤメの意味)という娘が誘拐され、遊郭に売り飛ばされ、最後は身投げをして死んでしまうという、とても痛ましい物語です。
しかし、このようなどろどろした悲惨なストーリー、舞台設定ですが、マスカーニの音楽はとても美しく、時に非常に切なく、素晴らしいものです。


演出はクーラと同郷のアルゼンチン出身のウーゴ・デ・アナ。
クーラは、その2人組の大阪役、金持ちで好色の若旦那という役柄です。
写真でご覧の通り、白塗りにちょんまげ姿、着物に羽織、袴という姿で登場します。日本人としては、ちょっと何とも言えない感じもしますが、クーラのちょんまげ着物姿、意外と悪くない(笑)のではないでしょうか。




≪全曲盤CDにも≫

この時の舞台の録音がCDにもなっています。
主人公のイリスがダニエラ・デッシー、大阪がホセ・クーラ、芸者の置屋の主人である京都がニコライ・ギャウロフです。
中丸三千絵さんも芸者役で出演されています。
残念ながらすでに入手は困難です。時折、ネットでとんでもない高額で出品されていることもありますが、とても買えません。




1996 - BMG - Ricordi
Running time: 126 min.
Artists: José Cura, Daniela Dessí, Roberto Servile, Nikolai Ghiaurov
Conductor: Gianluigi Gelmetti
Orchestra e Coro del Teatro dell'Opera di Roma


≪貴重な録画≫

幸いにして録画がネットにアップされています。画質はあまりよくありませんが、こうやって見られるだけでも本当にありがたいです。
あまり上演機会がない珍しいオペラなので、ぜひ、まずは次の録画――大阪のアリア「窓を開けて」をご覧ください。

第1幕で、イリスを誘拐するために人形芝居をうつ場面で大阪が歌う歌です。この難易度の高いアリア「窓を開けて」をクーラはらくらくと歌い、オケからも喝采を受けています。この頃のクーラの声は、秋の空のように輝かしく澄みわたっています。

Mascagni Iris/ Jose Cura - "Apri la tua finestra!"


その続きの場面
Mascagni Iris/ Act1 e questa poesia /Dessi,Nakamaru,Cura




≪「イリスは素晴らしい」とクーラ≫

ストーリーとしては少し難があるように思われるオペラ、イリス。クーラもこの1度だけしか出演していませんが、マスカーニの音楽については、高く評価をしているようです。もともとヴェリズモが好きで研究を深めてきたクーラ。次のようにヴェリズモとマスカーニ、そしてイリスについて語っていたことがありました。


――ヴェリズモは、"通常の"ロマン派オペラの成果、例えばヴェルディに到達していないのは事実だ。しかし、ヴェルディとワーグナーに達するには200年にわたる進化があり、これまでのすべての作曲家がそこを通過している。ヴェリズモは、音楽を作る方法への反作用として生まれ、それは模索である。その誕生は物議を醸し、平静なものではなく、むしろ伝統に対する反発だった。

その後、アーリゴ・ボーイトがリードしていたヴェリズモが、ヴェルディに影響を与えた。しかしヴェリズモには成熟する時間がなかった。それが洗練されなかった理由だ。ピエトロ・マスカーニは長年活動していたので洗練された。彼の最後のオペラには素晴らしい豊かな色彩がある。イリスは素晴らしい。

ヴェリズモが始まったとき、フランスで印象派が始まり、シェーンベルクがオーストリアに登場した。吸収することがたくさんあった。1900年以降、素晴らしい達成があった。ジャコモ・プッチーニが、「マダムバタフライ」、「トスカ」、「西部の娘」などのオペラを驚くほどの密度で作曲し、「三部作」(1918年「外套」「修道女アンジェリカ」「ジャンニ・スキッキ」)、「トゥーランドット」において音楽的色彩を豊かに洗練した。
(クーラの2017年インタビューより)






≪レビューより≫

「ダニエラ・デッシーと、アルゼンチンのテノールであるホセ・クーラは、スピントの歌のカラーとスタイルをすでに示している。決して容易ではない2つの役柄、イリスと大阪として優れている。」
(「ElPais」1996年1月)

「視覚と音と想像力がすべてうまく結合するケースはめったにない。私自身にとって、このウーゴ・デ・アナによるイリスは、最も重要なイベントの1つだった。そして、ホセ・クーラの個性があり、時々調子のムラはあるものの、しかし、リリックテノールの希少で堅実な音色をもっている。」
(「Corriere della Sera」)

「クーラは素晴らしく、その役柄のうちに合っている。鮮やかな発声、そして華麗な「開放的な」音色がある。」
(「Opera」)

「このレコーディングは、クーラが並外れたクオリティをもち、そしてさらに大きく約束された歌手であることを説得力を持って示している。」
(「Gramophone」)





≪共演したデッシーを悼んで≫

この時、主役のイリスを歌ったソプラノ歌手ダニエラ・デッシーは、惜しくも2016年にガンのために亡くなりました。
クーラはFBで、デッシーを追悼し、マスカーニのイリスで初めて共演、その後も多く共に舞台に出演したエピソードにふれて、深い哀悼を表明しました。





――私がこれを書いている時、20年以上にわたって友人であり同僚であったダニエラ・デッシーの死を知った。
ダニー、友人はそう呼ぶが、彼女は私のリューではなかったけれど、コンサートや貴重な録音のパートナーであった以上に、私の最も偉大なデズデモーナであり、トスカ、マッダレーナ、マノン、イリスの1人だった。
私は彼女の思い出にこのプロダクションを捧げる。
   ホセ・クーラ 2016年8月21日 マドリードにて
(2016年リエージュでのトゥーランドットのクーラによる演出メモより)



≪オペラ全編の録画≫


こちらは全編の録画です。さらに画質、音質が悪いのが残念です。いつまで見られるかわかりませんが、リンクをおいておきます。
できればDVDやCDの復刊などがされるとうれしいのですが・・。


Mascagni - Iris ( José Cura, Daniela Dessí, Nicolai Ghiaurov ) 1996






ローマ歌劇場



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