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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)PINタンパク質の可逆的リン酸化による細胞内局在の制御

2010-06-23 22:56:19 | 読んだ論文備忘録

Phosphorylation of Conserved PIN Motifs Directs Arabidopsis PIN1 Polarity and Auxin Transport
Huang et al.  The Plant Cell (2010) 22:1129‐1142.
doi:10.1105/tpc.109.072678

シロイヌナズナのオーキシン排出キャリアPIN-FORMED(PIN)タンパク質は、細胞膜に局在するPIN1型(PIN1、2、3、4、7)と小胞体膜に局在するPIN5型(PIN5、6、8)に分類される。PIN1型タンパク質は細胞膜上に不均等に分布し、細胞から細胞へ一定方向のオーキシン極性輸送を行なっている。PINタンパク質の極性を持った局在は、タンパク質中央部の親水性ループ(PINHL)の可逆的なリン酸化によって制御されており、これにはPINOID(PID)Ser/ThrキナーゼとPP2Aフォスファターゼが関与している。オランダ ライデン大学のOffringa らは、PIN1タンパク質のPIN1HLに存在する20箇所のリン酸化されると推測されるアミノ酸残基のうち、17の部位について12の合成ペプチドを作成してin vitroでのPIDによるリン酸化が起こるかを調査した。その結果、6箇所はPIDによってリン酸化されることを見出した。そこで、他のPINタンパク質においても保存されている親水性ループ内の3つのTPRXS(N/S)モチーフのSer残基、Ser-231(S1)、Ser-252(S2)、Ser-290(S3)について詳細な解析を行なった。これらのSer残基をAla残基(A)に置換したリン酸化変異PIN1タンパク質のPIDによるin vitroリン酸化試験から、モチーフ中央部のSer残基はPIDによりリン酸化されることが確認された。次に、これらのSer残基をAla残基もしくは擬似リン酸化状態としてGlu残基(E)に置換したPIN1を野生型シロイヌナズナで発現させて形態観察を行なった。その結果、Ser残基をGlu残基に置換したPIN1 (S1,2,3E)、S3をAla残基に置換したPIN1 (S3A)を発現させた形質転換体ではほぼ正常な成長をしたが、S1をAla残基に置換したPIN1 (S1A)、S1とS3の2箇所をAla残基に置換したPIN1 (S1,3A)を発現させた芽生えではリン酸化変異PIN1 の発現量に応じて子葉が1-4枚となる形態変化が見られ、これはpid 機能喪失変異体芽生えの子葉が3枚となる変化と類似していた。3つのSer残基をAla残基に置換したリン酸化変異PIN1(S1,2,3A)では形態変化がさらに強く現れた。リン酸化変異PIN1をpin1 変異体で発現させると、S1E、S3E、S1,3Eを発現させると正常なPIN1 を発現させた場合と同様にpin1 変異の形態異常が相補され、S1A、S3Aを発現させると部分的にpin1 変異が相補された。しかし、S1,3A、S1,2,3Aを発現させるとpin1 変異体の形態異常がpin1 pid 二重変異体のようにさらに強くなり、花序茎頂部の細胞においてS1,3A、S1,2,3Aはpid 変異体におけるPIN1のように基部側に局在していた。S1,2,3Eは正常なPIN1と同様に細胞の頂端側に局在していたが、pin1 変異体の形態異常を相補しなかった。PID を過剰発現させた芽生えの根の細胞ではPIN1が地上部側に局在するために根端部でのオーキシン極大が形成されず根端分裂組織がつぶれてしまうが、S1,3Aを発現させるとこれが細胞の根端側に局在するためにPID 過剰発現による根端の異常が相補された。以上の結果から、PIN1HLにおいて保存されているSer残基のPIDによる可逆的なリン酸化は、PIN1の細胞内局在の決定にとって必要であり、形態形成を導くオーキシンの不均等分布にとってきわめて重要であることが示唆される。

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