Differential TOR activation and cell proliferation in Arabidopsis root and shoot apexes
Li et al. PNAS (2017) 114:2765-2770.
doi:10.1073/pnas.1618782114
発芽した芽生えのシュートと根の成長は、異なる環境シグナルが制御しており、シュートは光が、根は栄養が成長パターンを決定する要因となっている。暗所で発芽させたシロイヌナズナ芽生えは胚軸が黄化して本葉を形成しないが、明所で発芽させた場合には光形態形成を示して本葉を形成し、胚軸が短くなる。一方、芽生えに栄養としてグルコースを与えると、光条件に関係なく主根の成長が促進される。中国科学院 上海生命科学研究院 上海植物逆境生物学研究中心のXiong らは、細胞分裂レポーターとしてpCYCB1;1::GUS を導入した芽生えの根とシュートの分裂活性を調査した。その結果、根分裂組織は光条件に関係なくグルコース処理によって活性化され、茎頂の分裂活性化にはグルコースと光の両方が必要であり、グルコースもしくは光の単独処理では茎頂の活性化は僅かであることがわかった。したがって、グルコースと光は茎頂の活性化において2つの異なるシグナル伝達経路を誘導しているものと思われる。茎頂でのpCYCB1;1::GUS の活性化は、15分の光照射で引き起こされた。青色光受容体の変異体cry1cry2 および赤色光受容体の変異体phyAphyB では、青色光および赤色光による本葉の発達が野生型よりも大きく低下していた。これらの結果から、光は本葉の発達を促進する直接のシグナルとして機能していることが示唆される。よって、根分裂組織の活性化にはグルコースのみが必要で、本葉形成のための茎頂の活性化には光シグナルとグルコースの両方が必要である。著者らの過去の研究で、グルコースは根分裂組織の細胞分裂活性化に関与しているプロテインキナーゼTOR(target of rapamycin)シグナルを制御していることを見出している。そこで、TORシグナルが茎頂の細胞分裂も制御しているかを調査した。TOR活性を阻害するラパマイシンもしくはトリン2の添加、およびエストラジオール誘導tor 変異体では、光とグルコースによる本葉形成が抑制された。したがって、TOR活性は茎頂での細胞分裂に必要であることが示唆される。グルコースは根端のTORキナーゼを活性化させたが、茎頂のTORキナーゼは光もしくはグルコースの単独処理では活性化されず、両者を処理した場合のみ強く活性化された。したがって、植物はシュートの発達においてTORキナーゼ活性を制御するために光シグナルとグルコースシグナルを統合していると考えられる。植物ホルモンのオーキシンは、細胞分裂に必要であり、TORシグナル伝達に関与していることが知られている。さらに、光はオーキシンシグナルを活性化する上流シグナルの1つとなっている。そこで、グルコースと共にオーキシンを与えたところ、茎頂のTORキナーゼが活性化された。よって、オーキシンはTORの活性化において光シグナルの下流で作用していると考えられる。オーキシン単独では茎頂のTORキナーゼや細胞分裂は活性化されないことから、TORキナーゼの活性化にはグルコースとオーキシンの両方が必要であると考えられる。オーキシンの添加は根の分裂活性を高めなかったが、これはおそらく根端では内生のオーキシンシグナルで飽和している為であると思われる。DII-VENUS導入個体を用いてオーキシン量を調査したところ、光は茎頂のオーキシン蓄積量を増加させるが、根端のオーキシン量には影響しないことがわかった。光はオーキシン生合成遺伝子のYUCCA (YUC )の発現を促進することが知られており、芽生えに光照射することで茎頂のYUC2 、YUC4 、YUC7 の発現量が増加した。YUCCA特異的阻害剤ユカシンは、光による茎頂の細胞分裂の活性化を抑制し、この抑制はオーキシン添加によって打ち消された。したがって、光シグナルはオーキシンの生合成と蓄積を促進することでシュートの活性化を引き起こしていると考えられる。ユカシン処理は、グルコース処理した根分裂組織のオーキシン蓄積と細胞分裂についても抑制した。よって、オーキシンは根分裂組織の細胞分裂の制御においても重要であると考えられる。これらの結果から、オーキシンシグナルはTORキナーゼを活性化するもう1つの制御因子であり、グルコースとオーキシンの両方が活性化に必要であることが示唆される。根分裂組織では、比較的オーキシン濃度が高いので、グルコースの存在によって暗所でTORキナーゼが十分に活性化されるが、茎頂ではTORを活性化させるためのオーキシン蓄積に光が必要となる。植物の様々な成長過程を制御しているRho of Plants(ROP)GTPase ROP2の恒常的活性型(CA-ROP2)を発現しているシロイヌナズナは、暗所において光形態形成の表現型を示す。また、ROP2 とTOR は共に茎頂で発現している。これらの事実から、ROP2が光-オーキシンシグナルを伝達してTORキナーゼを活性化していることが推測される。共免疫沈降試験から、ROP2とTORは直接相互作用をすることが確認された。ユカシン処理はTORキナーゼ活性を阻害するが、オーキシン処理やCA-ROP2発現はTORキナーゼを再活性化させた。したがって、オーキシンはROP2を活性化してTORキナーゼ活性を活性化していることが示唆される。明所で育成した芽生えのROP2活性は暗所で育成した芽生えよりも高く、グルコースはROP2の活性化に対して効果を示さなかった。ユカシン処理をすることで、光によるROP2の活性化は見られなくなり、暗所で育成した芽生えをオーキシン処理するとROP2が活性化された。これらの結果から、光によるROP2の活性化はオーキシンに依存していることが示唆される。CA-ROP2を35Sプロモーター制御下で恒常的に発現させた芽生えは、暗所においても茎頂でのpCYCB1;1::GUS の発現が活性化しており、本葉が発達した。CA-ROP2による暗所での本葉の発達はラパマイシンやトリン2によって阻害された。よって、TORキナーゼはCA-ROP2シグナルの下流に位置していることが示唆される。また、CA-ROP2においてもTORキナーゼと茎頂の活性化にはグルコースが必要であった。これらの結果は、CA-ROP2はTORキナーゼ活性と細胞分裂の活性化において光-オーキシンシグナルの代替となるが、グルコースシグナルの代替とはならないことを示している。TORキナーゼは、S期遺伝子を活性化する転写因子のE2FaとE2Fbをリン酸化した。E2Fa は主に根で発現しており、根分裂組織の活性化に関与している。E2Fa とE2Fb の単独変異体は茎頂の発達に変化は見られないが、E2Fb の発現量が50%低下したe2fa E2Fb RNAi 変異体は、光とグルコース処理による本葉の発達が抑制され、茎頂でのS期遺伝子の発現量が減少していた。したがって、TORキナーゼシグナルの下流では様々な転写因子が機能していると思われるが、茎頂の活性化に関してはE2FaとE2Fbが重要であると考えられる。以上の結果から、茎頂および根端での細胞分裂活性はTORキナーゼによって制御されており、光シグナル、オーキシンシグナル、栄養シグナルの統合によって活性化されたTORキナーゼが転写因子のE2FaとE2Fbを直接リン酸化し、このことによってS期遺伝子の転写活性が促進され細胞分裂が活性化すると考えられる。
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