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Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)シスに作用する非コードアンチセンス転写産物による種子休眠の制御

2016-12-23 09:21:51 | 読んだ論文備忘録

Control of seed dormancy in Arabidopsis by a cis-acting noncoding antisense transcript
Fedek et al. PNAS (2016) 113:E7846-E7855.

doi: 10.1073/pnas.1608827113

シロイヌナズナのQTL解析から種子休眠を制御しているDelay of Germination 1DOG1 )遺伝子が同定された。種子休眠におけるDOG1タンパク質の機能は不明だが、DOG1 の発現量と種子休眠の強度には相関がある。DOG1 の発現は種子特異的であり、休眠が確立する種子成熟の間に発現量が最大となる。DOG1 転写産物は、3つのエクソンからなる長いmRNA lgDOG1 と2つのエクソンの短いmRNA shDOG1 のポリアデニル化部位が異なる2種類のmRNAが存在している。shDOG1 は翻訳され種子休眠に関与していることが確認されているが、lgDOG1 は生体内では翻訳されす、dog1 変異体の弱い種子休眠を相補しない。ポーランド科学院生化学生物物理学研究所Swiezewski らは、アブラナ科植物のDOG1 遺伝子の塩基配列を比較し、第3エクソンと第2イントロンに保存性の高い領域があることを見出した。しかしながら、第3エクソンがコードするポリペプチド配列には保存性は見られなかった。したがって、DOG1 の第2イントロンから第3エクソンにかけての領域はDNAレベルで進化的に保存されおり、何らかの機能があるものと推測される。DOG1 遺伝子を詳細に解析したところ、アンチセンス鎖に幾つかのポリアデニル化部位が存在し、5’RACEから、DOG1 遺伝子第2イントロン内から転写が始まりキャップ構造を持ったアンチセンス転写産物asDOG1 を発見した。asDOG1 の転写開始点は、shDOG1 のポリアデニル化部位と一致しており、前述した第2イントロンから第3エクソンにかけての保存領域にあった。asDOG1 の3’末端はDOG1 センスmRNAの転写開始点まできており、シスに作用する機構によってDOG1 遺伝子の発現を制御する可能性が推測される。asDOG1 の半減期は約46分で、タンパク質をコードしている半減期の短い転写産物と同程度であり、ncRNAとしては比較的長い。DOG1 のアンチセンスとセンスの発現プロファイルは相反しており、asDOD1 は種子での発現よりも芽生えでの発現が高くなっていた。DOG1 遺伝子のセンスプロモーター領域およびアンチセンス側のプロモーター領域と推測される第2エクソンから第3エクソンまでの領域にレポーターとしてLUC 遺伝子を融合したコンストラクトを導入した形質転換体でLUCシグナルを観察したところ、両プロモーターともそれぞれの転写産物の発現プロファイルと同じパターンでLUCシグナルが検出された。したがって、DOG1 遺伝子下流領域ではアンチセンス鎖の転写が行われ、独立したプロモーターを有していることが示唆される。DOG1 遺伝子センスプロモーター領域にT-DNAが挿入された機能喪失変異体dog1-3 は、センス転写産物量が減少しているが、asDOG1 転写産物量は野生型と同等であった。よって、センスプロモーター活性はアンチセンスプロモーターによる転写には影響しないと考えられる。これらの結果から、DOG1 アンチセンス転写産物は独立したプロモーターによって転写されており、このプロモーター領域において塩基配列が保存されていることは、このプロモーターが進化的に保存されていることを示唆している。dog1-5 変異体は機能獲得変異体で、shDOD1 転写産物量とDOG1タンパク質量が野生型よりも多くなっている。dog1-5 変異体はDOG1 遺伝子の第3エクソンにT-DNAが挿入されており、新鮮種子中のasDOG1 転写産物量が野生型よりも少なくなっていた。したがって、dog1-5 変異体での強い種子休眠の表現型、shDOG1 転写産物量の増加は、DOG1 アンチセンスの機能喪失の二次的な効果であると推測される。種子成熟過程におけるDOG1 遺伝子の発現を経時的に追ったところ、shDOG1 転写産物もasDOG1 転写産物も種子が成熟するにつれて徐々に増加し、shDOG1 は種子が成熟しただ段階で転写産物量が最大となりその後急速に減少したが、asDOG1 は長角果の成熟後期まで増加が継続した。shDOG1 転写産物量は種子を浸漬させることで減少するが、asDOG1 も同様の変化を示した。dog1-5 変異体の種子成熟過程ではasDOG1 転写産物量の増加が殆ど見られず、成熟後期の転写産物量は野生型の1/5程度になっていた。一方、shDOG1 転写産物量は野生型の5倍に増加していた。LUC 遺伝子を完全長のDOG1 ゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(pDOG1-LUC::DOG1 )とDOG1 アンチセンスプロモーター領域を欠いたゲノム遺伝子で発現させるコンストラクト(psDOG1::DOG1 )でLUC の発現量を比較したところ、psDOG1::DOG1 の方がpDOG1-LUC::DOG1 よりもはるかに高い発現を示した。したがって、T-DNAの挿入やプロモーター領域の欠失によってasDOG1 の発現が抑制されるとDOG1 センス転写産物が増加する。よって、asDOG1DOG1 発現の負の制御因子として作用し、種子休眠を抑制していると考えられる。dog1-5 変異体と野生型とのヘテロ接合F1種子はdog1-5 変異体よりも僅かに種子休眠が弱くなった。したがって、野生種親由来のアンチセンス転写産物が存在していても変異体由来の種子休眠は強く作用していることが示唆される。dog1-3 変異体とdog1-5 変異体とのF1種子は、shDOG1 の発現量がdog1-5 変異体の半分以下にはなっておらず、センスDOG1 遺伝子が1コピー欠失した際に推測される転写産物量とほぼ一致していた。また、asDOG1 をトランスに発現させた系統でセンスDOG1 の転写産物量に変化は見られなかった。したがって、別の対立遺伝子からトランスとして発現したasDOG1 はセンスDOG1 転写産物量を低減させる能力はなく、asDOG1 はシスに作用し、転写そのものがセンスDOG1 の転写制御にとって重要であると考えられる。

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