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論文)フィトクロムBは光だけでなく温度も感知する

2016-12-11 15:42:37 | 読んだ論文備忘録

Phytochromes function as thermosensors in Arabidopsis
Jung et al. Science (2016) 354:886-889.

DOI: 10.1126/science.aaf6005

Phytochrome B integrates light and temperature signals in Arabidopsis
Legris et al. Science (2016) 354:897-900.

DOI: 10.1126/science.aaf5656

PERSPECTIVE
Light-sensing phytochromes feel the heat
Karen J. Halliday, Seth J. Davis Science (2016) 354:832-833.

DOI: 10.1126/science.aaj1918

植物は温度に応答して成長を調節する能力を持っている。シロイヌナズナでは、暖かい条件では花成や伸長成長が促進されることが知られているが、どのようにして温度シグナルを受容しているのかは明らかとなっていない。Science誌11月18日号に、フィトクロムB(phyB)が温度を感知するとうい報告が2報出された。

英国 ケンブリッジ大学Wigge ら[Jung et al. Science (2016) 354:886-889.]は、フィトクロム活性が欠失しているシロイヌナズナphyABCDE 五重変異体の芽生えは12℃や17℃といった低い温度でも胚軸の伸長抑制が起こらないことを見出した。phyABCDE 変異体と野生型植物を22℃もしくは27℃で育成し、1日の転写産物の変化をRNA-seqで調査し、転写産物を日変化パターンから20のグループに分類した。温度形態形成は主に夜に起こり、フィトクロム相互作用因子4(PIF4)やPIF5が関与しているとされている。PIF4 は20のグループの中のクラスター20に属し、27℃育成条件の夜間に発現量が高くなっていた。クラスター15および16に属する遺伝子は、27℃の夜間に発現量が高い上にphyABCDE 変異体で強く発現誘導されており、ここにはホルモンシグナルや伸長成長に関与する遺伝子が含まれていた。したがって、27℃の夜間に発現している遺伝子はフィトクロム活性の影響を受けていることが示唆される。主成分分析の結果、夜間に温度に応答して発現が変化する遺伝子とphyABCDE 変異に応答して発現が変化する遺伝子の間には正の相関があり、この関係は日中には失われることがわかった。アミノ酸置換によって恒常的に活性型となったphyB を発現するYHB 系統は、27℃の夜間に発現する遺伝子の発現が抑制されており、温度に応答した胚軸伸長も殆ど見られなかった。温度によって発現が変化する遺伝子の79%は、phyABDE 変異体、YHB 系統もしくは両者で発現量変化を示していた。ChIP-seqから、phyBは100以上のサイト(およそ95のプロモーター領域)に結合し、27℃よりも17℃の方が結合するターゲットが多いことがわかった。そして多くのphyBターゲット遺伝子は温度に応答して夜間にphyB活性が低下した際に発現し、日中にはそのような関係は見られなくなっていた。phyBが結合する部位の多くにB-boxが含まれており、PIFタンパク質が結合する部位と重複していた。先のRNA-seq解析で、PIF4のターゲット遺伝子が属するクラスターの転写産物量はPIF4 の発現とは対応しておらず、フィトクロムシグナルに対して高い応答性を示していた。したがって、フィトクロムは温度に依存してPIF4活性を制御し、活性型フィトクロム(Pfr)がPIF4活性を抑制することでターゲット遺伝子の発現が抑制されると考えられる。活性型phyBの暗反転速度は温度によって変化し、22℃でのPfrの半減期が2.09時間であるのに対して、27℃では1.53時間であった。これらの結果から、Pfrの暗反転速度は温度差に応答した成長制御に関与していると考えられる。


アルゼンチン ルロワール研究所財団 ブエノスアイレス生化学研究所Casal ら[Legris et al. Science (2016) 354:897-900.]は、温度が高くなるにつれて活性型のPfr phyB量が減少して不活性型のPr phyB量が増加する熱反転についてin vitroin vivo で解析を行ない、Pfr:Prヘテロ二量体からPr:Prホモ二量体への移行速度は温度が上昇するにつれて速くなることを明らかにした。Pfr phyBは核内で顆粒の構造体を形成するが、顆粒の大きさは温度によって変化し、20℃の時に最大となった。そして高温は光条件に関係なくPfr:Pfrホモ二量体を減少させた。これらの結果は、phyBの活性は温度が上昇するに連れて低下することを示している。シロイヌナズナ芽生えの胚軸伸長について、野生型、phyB 変異体、アミノ酸置換により熱によるPfrからPrへの反転が抑制されたphyBを発現する系統を用いて、様々な光条件や温度条件で解析した結果、phyBは温度変化による胚軸伸長に関与しており、この関与は低光照射下で大きいことがわかった。以上の結果から、温度はphyB Pfr:Pfrホモ二量体の量を制御しており、phyBは光受容体に加えて温度センサーとしても機能していると考えられる。

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