FLOWERING LOCUS T Regulates Stomatal Opening
Kinoshita et al. Current Biology (2011) 21:1232-1238.
DOI:10.1016/j.cub.2011.06.025
青色光受容体キナーゼのフォトトロピンは、細胞膜H+-ATPaseの活性化を介して気孔を開口させることが知られており、シロイヌナズナphot1 phot2 二重変異体は葉が下向きに巻き、光照射をしても気孔が開かない。しかしながら、フォトトロピンからどのようなシグナル伝達がなされて気孔の開口が引きこされるのかは明らかとなっていない。名古屋大学の木下らは、phot1 phot2 二重変異体を変異原処理をして葉が平らになった復帰突然変異体の気孔の開閉を調査し、気孔が開口するscs (suppressor of closed stomata phenotype in phot1 phot2 )変異体を単離した。scs1-1 変異体は劣性の変異体で、開花が早まる表現型を示した。よって、SCS1 は葉の平板化、気孔開口、早期花成を抑制する因子であると考えられる。scs1-1 変異体の気孔は暗所でも開口しており、アブシジン酸(ABA)の添加やH+-ATPaseの阻害剤であるバナジウム酸やエリスロシンBの添加することで閉口した。scs1-1 変異体の孔辺細胞プロトプラスト(GCP)ではH+-ATPaseが常に高い活性を維持していた。マップベースクローニングによって、SCS1 遺伝子座の同定を行ない、scs1-1 変異体ではEARLY FLOWERING 3 (ELF3 )に一塩基置換が生じてスプライシング変異が起こっていることがわかった。elf3 変異体は短日条件下で早く花成する変異体として同定されており、ELF3はフロリゲンをコードするFLOWERING LOCUS T (FT )の転写抑制因子であることが知られている。よって、elf3 変異体は葉のFT 転写産物量が増加して花成が早まる。さらに、FT 過剰発現個体は、花成が早まる上に、葉が上向きに巻くことが知られている。したがって、scs1-1 変異体の葉の平板化と気孔の開口といった表現型はFT の過剰発現によってもたらされている可能性がある。FT は葉の孔辺細胞で発現しており、scs1-1 変異体GCPは野生型やphot1 phot2 二重変異体の50倍のFT 転写産物があった。また、phot1 phot2 二重変異体でFT を過剰発現させた形質転換体は気孔が開口しており、ABAやH+-ATPase阻害剤の添加によって気孔が閉口した。このことから、FT はH+-ATPaseの活性化因子として機能し、FT の過剰発現は気孔の開口を誘導していることが示唆される。花成していない個体(4週)も花成している個体(6週)も光照射による気孔開口は同じように起こり、FT の発現誘導量も同程度であった。ft-1 変異体やscs1-1 ft-1 (elf3-101 phot1 phot2 ft-1 四重)変異体では光照射による気孔開口が小さく、ft-1 変異体GCPでは青色光照射によるH+-ATPaseの活性化とリン酸化が阻害されていた。ft-1 変異体をH+-ATPase活性化物質のフシコクシン処理をすると、H+-ATPaseの活性化が誘導され、気孔が開口した。ft-1 変異体GCPのH+-ATPase含量、フォトトロピン含量は野生型と同等であることから、ft-1 変異体では孔辺細胞での青色光シグナル伝達が欠損/不活化しており、FT はこのシグナル伝達に関与する因子の調節因子として、もしくはシグナル伝達因子本体として機能していると考えられる。scs1-1 変異体やft 変異体の葉のABA含量は野生型と同等であることから、これらの変異体での気孔開閉の変化は内生ABA量の変化によるものではない。花成に関与している因子の転写産物(PHYA 、PHYB 、CRY1 、CRY2 、GI 、CO 、FD 、TFL1 、AP1 、FUL )は野生型およびphot1 phot2 二重変異体の孔辺細胞で確認されたが、scs1-1 変異体孔辺細胞ではFT のアンタゴニストであるFD とTFL1 の発現量が大きく低下していた。花成においてFT の下流で機能しているAP1 をphot1 phot2 二重変異体で発現させると気孔が開口することから、FT は孔辺細胞においてAP1 を介して気孔開口を誘導していると思われる。しかしながらap1-10 機能喪失変異体では気孔開閉が正常であり、ap1-10 変異体ではFUL のような他のMADS-ボックス転写因子がAP1 の機能喪失を相補しているものと思われる。ELF3は光シグナルの概日時計への伝達に関与しているので、気孔開閉に見られる概日リズムはELF3を介したFT の日変化によって引き起こされていると思われる。孔辺細胞は周囲の細胞との間でプラズモデスマータを介した連絡がないことから、FTタンパク質は孔辺細胞において生成され機能していると考えられる。
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