Brassinosteroid, gibberellin and phytochrome impinge on a common transcription module in Arabidopsis
Bai et al. Nature Cell Biology (2012) 14:810-816.
DOI: 10.1038/ncb2546
ブラシノステロイド(BR)とジベレリン(GA)は多くの成長過程について類似した促進作用を示すが、両者のシグナル伝達経路の関連については不明な点が残されている。米国 カーネギー研究所のWang らは、シロイヌナズナBR欠損変異体det2-1 やBR非感受性変異体bri1-5 、bri1-119 はGA処理による胚軸伸長が起こらないことを見出した。det2-1 にBRを与えるとGAに対する応答性が回復したが、BR非感受性変異体ではBR添加によるGA応答性の回復は起こらなかった。よって、GAによって誘導される胚軸伸長にはBRシグナルが必要であると考えられる。BRシグナル伝達に関与するBZR1が恒常的に活性型となっている優性の機能獲得変異のbzr1-1D は、GA欠損変異体ga1-3 やGA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)処理した野生型植物の胚軸が短くなる表現型に対して部分的な抑制作用を示した。同様の作用はBZR1のホモログBZR2(BES1)の機能獲得変異bes1-D においても見られた。よって、BRもしくはBRによって活性化されたBZR1/BZR2はGAによる胚軸伸長促進に必要であることが示唆される。一方、GA欠損変異体ga1-3 、GA非感受性変異体shy1-10 、PAC処理した野生型植物はBR処理に応答して胚軸伸長を起こした。GAとPACはdet2-1 変異体やbri5-1 変異体の胚軸伸長に対して影響を及ぼさなかったが、det2-1 変異体のBR処理による胚軸伸長促進に対しては、それぞれ促進的、抑制的に作用した。したがって、GAはBRに対する応答性を強めることで細胞伸長を促進していると考えられる。GAはDELLAタンパク質の分解を介して成長を促進しているが、della 五重変異体はBRに対する応答性が非常高く、DELLAタンパク質の1つであるGAIの蓄積量が増加するGA非感受性gai-1 変異体はBR応答性が僅かに低下していた。det2-1 やbri1-116 といったBR変異体やBR処理した野生型植物ではGA処理によるDELLAタンパク質(RGA)の分解が正常に起こることから、BRはGAによるDELLAタンパク質の分解には関与しておらず、BR非存在下での胚軸伸長促進はDELLAタンパク質の分解だけでは不十分であると考えられる。以上の結果から、DELLAタンパク質はBRによって活性化されるBZR1もしくはそれよりも下流に位置する因子を抑制し、GAが誘導するDELLAタンパク質の分解はこの抑制を解除すると思われる。DELLAはタンパク質-タンパク質相互作用によって転写因子の活性を阻害することが知られている。酵母two-hybrid アッセイにより、BZR1およびbzr1-1Dタンパク質はRGAと相互作用をすることがわかった。N末端側にあるDELLAドメインを欠いたRGAはBZR1と相互作用をすることから、C末端側のGRASドメインがBZR1と相互作用をしている。GRASドメインはさらに5つのモチーフに分かれており、LHR1モチーフもしくはSAWモチーフの欠損によってBZR1との相互作用が失われた。LHR1はRGAの二量体形成に関与しており、LHR1とSAWはDELLAタンパク質の成長抑制機能に関与していることが知られている。よって、BZR1との相互作用と機能抑制にはDELLAタンパク質の二量体形成とSAWモチーフが必要であると思われる。RGAはBZR1のDNA結合ドメインを含んでいるN末端側と高い親和性を示し、リン酸化されていない活性型BZR1とのみ相互作用を示すことがわかった。DELLAタンパク質がBZR1活性を阻害し、GAがその阻害を解除するのであれば、GAはBZR1のターゲット遺伝子の発現に影響を及ぼすはずである。GA非感受性ga1-3 変異体と野生型植物の間で発現量が異なる1194の遺伝子のうち、419遺伝子(35%)はbri1-116 変異体においても発現量が変化し、そのうちの296遺伝子は光によっても発現制御を受けた。bri1-116 変異体とga1-3 変異体の両方によって発現制御を受ける遺伝子のうち、387遺伝子(92.3%)は同じ方向の制御を受けていた。光もbir1 やga1 と同様の効果を示し、BRとGAが光応答を抑制するという知見と一致している。したがって、GAとBRは共通の発現制御を受ける遺伝子に対してDELLAとBZR1活性を介して同じような効果を示すことが示唆される。GAによって発現制御を受ける3570遺伝子のうち、BRが欠損した状態でも発現する遺伝子は1187(33%)のみであり、GAに応答する遺伝子の多くはBRを必要とすることが示唆される。BRに依存せずにGAによる発現制御を受ける遺伝子の約半分(549遺伝子)はbzr1-1D 変異体において発現の変化が見られないことから、これらの遺伝子はJAZ1やEIN3といったDELLAと相互作用を示すBZR1以外の因子よって発現制御を受けていると思われる。BZR1に依存してGAによる発現制御を受ける遺伝子のオントロジーを見ると、細胞壁合成のような細胞伸長に関連する遺伝子の発現が誘導され、光合成や葉緑体関連の遺伝子は発現が抑制されていた。DELLAとBZR1はPIF4とも相互作用を示し、PIF4とBZR1はともに共通のターゲット遺伝子のプロモーター領域に結合する。GAによる発現制御を受ける遺伝子は、高い比率でPIF4やBZR1による制御を受ける遺伝子を含んでおり、BZR1とPIF4の両方による発現制御受ける遺伝子は高い比率でGAによる制御を受ける遺伝子を含んでいた。よって、BZR1とPIF4の共通のターゲット遺伝子はGAによる制御も受けるものが多く含まれている。暗所で育成した芽生えのGA処理による胚軸伸長促進はBR生合成阻害剤のプロピコナゾール(PPZ)を同時添加することによって抑制されるが、bzr1-1D 変異が入ることで抑制が解除された。また、ここへさらにPIFの四重変異pifq が加わると抑制解除が喪失した。したがって、BZR1を介したGA応答にはPIFタンパク質が必要であることが示唆される。PIFタンパク質が分解される明所で育成した芽生えの場合、bzr1-1D 変異とPIF4 の過剰発現によってPPZ存在下でのGAによる胚軸伸長が起こった。よって、GAによる胚軸伸長促進にはBZR1とPIF4のヘテロダイマーが関与しているものと思われる。GA、GR、オーキシンはPREファミリーHLHタンパク質の発現を誘導し、PREタンパク質は細胞伸長を促進することが知られている。PRE1 、PRE2 、PRE5 、PRE6 はGAによって発現誘導されるが、bri1-119 変異体ではGAによる誘導が抑制され、bri1-119 bzr1-1D 二重変異体ではGAによる誘導が回復した。よって、GAによるこれらの遺伝子の発現誘導にはBZR1が必要である。同様に、BRによるPRE1 、PRE5 、PRE6 の発現誘導はgai-1 変異体では低下しており、BRによる発現誘導はGAIの蓄積によって打ち消されると考えられる。よって、PRE はGAによる胚軸伸長の正の制御因子であり、DELLA-BZR1-PIF4の下流において作用していることが示唆される。以上の結果から、DELLA、BZR1、PIF4はGA、BR、光シグナルによる成長制御を調節する重要な転写調節因子であると考えられる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます