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論文)サリチル酸受容体

2012-10-30 20:24:32 | 読んだ論文備忘録

NPR3 and NPR4 are receptors for the immune signal salicylic acid in plants
Fu et al.  Nature (2012) 486:228-232.
doi:10.1038/nature11162

植物に病原菌が感染すると、感染した細胞は過敏感反応(HR)と呼ばれるプログラム細胞死(PCD)を起こす。この局所的なPCDは、サリチル酸(SA)の生産を介して全身獲得抵抗性(SAR)を誘導する。シロイヌナズナにおいて、転写コファクターのnonexpressor of PR genes 1(NPR1)がSARに関与していることが知られている。NPR1タンパク質は通常の条件下ではオリゴマーを形成して細胞質に局在しているが、病原菌が感染するとモノマーとなって核へ移行し、転写因子のコファクターとして機能して防御応答遺伝子の発現を誘導する。よって、NPR1はSA受容体ではないかと考えられていたが、NPR1自体にはSA結合活性はない。NPR1はタンパク質相互作用に関与するBTBドメインを有しており、このドメインを持つタンパク質はクリン3(CUL3)E3リガーゼと相互作用をしてタンパク質分解に関与することが知られている。しかしながら、NPR1はプロテアソーム系によって分解される。分解されない変異NPR1を生成する個体もしくはCUL3 遺伝子の変異体は防御応答遺伝子の発現量は増加するが、SARの誘導は低下する。したがって、NPR1の核蓄積は防御応答遺伝子の発現に必要であるが、SARを起こすためにはその後のNPR1の分解が必要となる。米国 デューク大学Dong らは、NPR1のパラログのNPR3とNPR4がNPR1の分解に関与しCUL3のアダプターとして機能するのではないかと考えて解析を行なった。npr4 変異体、npr3 npr4 二重変異体はSA非存在下でNPR1タンパク質が野生型よりも多く含まれており、npr3npr4npr3 npr4 の各変異体はSA処理によるNPR1タンパク質の蓄積が野生型よりも早く起こった。変異体においてNPR1 転写産物量には変化が見られないことから、npr3npr4 変異によるNPR1タンパク質量の増加は転写後の制御によってなされていると思われる。野生型植物の粗抽出液にNPR1タンパク質を添加するとNPR1の分解が観察されたが、npr3 npr4 変異体の粗抽出液ではNPR1タンパク質の分解は見られなかった。また、プロテアソーム阻害剤MG115を添加することによって野生型粗抽出液でのNPR1タンパク質の分解が抑制された。in vitro プルダウン試験からNPR3とNPR4はCUL3と相互作用をすることが確認され、NPR4はNPR3よりも強くCUL3と結合した。形質転換体を用いた共免疫沈降試験から、NPR1とCUL3の相互作用にはNPR3、NPR4が必要であることがわかった。よって、NPR4、NPR3はNPR1の分解においてCUL3のアダプターとして機能していると考えられる。酵母two-hybrid(Y2H)法によってNPR1、NPR3、NPR4の相互作用を見たところ、NPR1とNPR4は相互作用示し、NPR1とNPR3の相互作用は弱かった。しかしながら、培地にSAやSAの機能的アナログの2,6-ジクロロイソニコチン酸(INA)を添加すると、NPR1とNPR4の相互作用が抑制され、NPR1とNPR3の相互作用が強まった。さらに、NPR3とNPR4はSAやINA存在下でヘテロ/ホモ二量体を形成した。よって、NPR3とNPR4はNPR1の安定性を制御するだけでなく、自己の制御も行なっていると考えられる。Y2Hの試験結果はin vitro プルダウンアッセイによっても確認された。以上の結果から、SAはNPR3やNPR4に直接結合してNPR1との相互作用を制御していることが推測される。そこで、NPR3とNPR4のSAとの親和性を測定したところ、どちらもSAと結合し、NPR3のSAとの親和性はNPR4よりも弱いことがわかった。また、NPR4には複数のSA結合部位があると考えられ、最初の結合によって他の部位への結合親和性が弱まる負の協同性があることがわかった。ゲルろ過解析から、NPR4は四量体を形成し、四量体にSA結合能があることが確認された。SARの正の制御因子であるNPR1のNPR3/4による分解の生物学的意義についてnpr3npr4npr3 npr4 変異体に病原菌を感染させて調査したところ、npr3npr3 npr4 変異体でのNPR1の安定化はSAR誘導性の低下をもたらし、これはcul3 acul3b 二重変異体の表現型と類似していることが明らかとなった。よって、NPR3、NPR4はCUL3を介したNPR1の分解とSARの誘導において重要であることが示唆される。また、npr3 npr4 二重変異体では菌感染によるPCDが起こらず、病原菌の生産するエフェクターに応答した抵抗性が弱くなっていた。この表現型はnpr1 npr3 npr4 三重変異体では抑制されていることから、npr3 npr4 二重変異体での抵抗性低下はNPR1の蓄積増加によって引き起こされていると考えられる。恒常的に核に局在するNPR1(C82A)とGFPとの融合タンパク質を発現させた個体に病原菌を感染させたところ、菌感染した細胞でのGFP蛍光は減少し、その周囲の細胞でのGFP蛍光は増加していた。よって、NPR1は抵抗性反応として引き起こされるPCDの阻害因子として機能していることが示唆される。以上の結果から、NPR3とNPR4はSAの受容体であると考えられる。菌感染していない状態では、CUL3-NPR4よってNPR1が分解されることで無用な抵抗性の活性化が抑制されるが、基底レベルのSAによってNPR1とNPR4の相互作用が妨げられことで、一定量のNPR1が維持される。病原菌が感染するとSA量は局所的および全身で増加し、感染部位から周辺部位へとSAの濃度勾配が形成される。そしてSA濃度の高い部位ではCUL3-NPR3によってNPR1が分解されてPDCが起こり、SA濃度の低い領域ではCUL3-NPR3相互作用が制限されることでNPR1が蓄積してSARが起こる。NPR3とNPR4によるSAの受容は、病原菌感染応答による細胞の生と死を決定する機構として機能していると言える。

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