Different Lepidopteran Elicitors Account for Cross-Talk in Herbivory-Induced Phytohormone Signaling
Diezel et al. Plant Physiol. (2009)150:1576-1586.
doi:10.1104/pp.109.139550
植物は病原菌の感染や草食昆虫の食害を受けると様々な防御応答を示し、それにはサリチル酸(SA)、ジャスモン酸(JA)、エチレンといった植物ホルモンの生成とそれらのシグナルのクロストークが関与している。マックス・プランク化学生態学研究所のBaldwin らのグループは、野生タバコNicotiana attenuata を実験材料に用いて、2種類の鱗翅目幼虫の食害に対する植物の応答を調べた。このタバコは自生地においてスペシャリストであるタバコスズメガ(Manduca sexta )とゼネラリストであるシロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua )の食害を受ける。タバコスズメガの食害を受けたタバコは一過的にJAとエチレンを生産するが、SA量はそれほど大きな変化を示さなかった。一方、シロイチモジヨトウの食害を受けるとSA生産が大きく増加し、JAとエチレンの生産はタバコスズメガの食害の際と比べると少なかった。この植物ホルモン生産パターンの違いは、それぞれの幼虫の口内分泌物を傷害葉に処理しても観察された。幼虫の口内分泌物に含まれるエリシターの違いにより植物ホルモン応答が異なることが知られている。タバコスズメガの口内分泌物には脂肪酸-アミノ酸縮合体(FAC)がシロイチモジヨトウ口内分泌物よりも多く含まれており、これはJAとエチレンの生産を誘導するが、SAの生産には影響しない。シロイチモジヨウトウ口内分泌物はタバコスズメガ口内分泌物よりもグルコースオキシダーゼ(GOX)活性とGOXの基質であるグルコース含量およびこの反応により生成される過酸化水素含量が高く、GOX活性(おそらくこの反応の生成物である過酸化水素)がSAの生産を誘導していることが確かめられた。熱処理をしたイチモジヨトウ口内分泌物は、非熱処理のものよりもJAとエチレンの誘導量が多くなることから、GOX活性はJA、エチレン生産を抑制していると考えられる。また、JA合成を抑制したタバコやエチレン合成や受容を抑制したタバコにFAC処理をするとSA誘導量が増加することから、JAとエチレンはタバコスズメガ口内分泌物の誘導するSA生産を抑制していると考えられる。以上の結果は、鱗翅目昆虫の口内分泌物に含まれるFACとGOXという異なるエリシターに対してタバコはサリチル酸とジャスモン酸のクロストークおよびサリチル酸とエチレンのクロストークにより防御応答を変化させていることを示している。
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