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論文)bHLHタンパク質による細胞伸長の制御

2013-01-29 20:04:46 | 読んだ論文備忘録

A Triantagonistic Basic Helix-Loop-Helix System Regulates Cell Elongation in Arabidopsis
Ikeda et al.  The Plant Cell (2012) 24:4483-4497.
doi:10.1105/tpc.112.105023

植物の細胞伸長はさまざまな因子によって制御されている。PREサブファミリーに属するbHLHタンパク質のPACLOBUTRAZOL RESISTANCE1(PRE1)は、ジベレリンによって発現誘導され、細胞伸長に対して促進的に作用する。また、bHLHタンパク質のILI1 binding bHLH1(IBH1)は細胞伸長に対して抑制的に作用し、IBH1 を異所的に発現させたシロイヌナズナはわい化する。ブラシノステロイド(BR)シグナル伝達に関与しているBRASINAZOLE-RESISTANT1(BZR1)はPRE1 の発現を活性化し、IBH1 の発現を抑制する。IBH1 過剰発現個体でPRE1 を過剰発現させると、わい化する表現型が抑制されることから、PRE1はジベレリンおよびBRシグナルに応答してIBH1による細胞伸長抑制を阻害していることになるが、その詳細な分子機構は明らかではない。独立行政法人 産業技術総合研究所の高木らは、CRES-T 法を用いて細胞伸長制御機構の解析を行なった。SRDXリプレッションドメインを付加したIBH1IBH1-SRDX )を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナ(Pro35s:IBH1-SRDX )は、わい化し、葉が丸みを帯び、葉色が濃くなり、葉柄、長角果、根が短くなり、側根が減少した。この表現型はBR非感受性変異体であるbri1 と類似しており、暗所育成芽生えの胚軸伸長も抑制されていた。この形質転換体のわい化は細胞伸長が抑制されているために起こっていた。形質転換体芽生えをブラシノライド(BL)処理をしても胚軸伸長が起こらないことから、この個体はBR非感受性となっていることが示唆される。この形質転換体ではXTH 遺伝子やEXP 遺伝子のBL処理による発現量の増加が起こらず、IBH1はBRによる遺伝子発現も制御していることが示唆される。IBH1 を恒常的に発現させた形質転換シロイヌナズナ(Pro35s:IBH1 )は、Pro35s:IBH1-SRDX 個体と同じ表現型を示すことから、IBH1は転写抑制因子として機能していると考えられる。IBH1 のRNAiをIBH1 プロモーター制御下で発現させた個体(ProIBH1:IBH1RNAi )は、Pro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体とは逆の表現型を示し、野生型よりも大型化し、胚軸や葉が長くなり、EXP8 遺伝子の発現量が増加していた。よって、IBH1は転写抑制因子として機能してBRシグナル伝達と器官伸長を負に制御していると考えられる。IBH1タンパク質のアミノ酸配列にはリプレッションドメインに分類されるようなモチーフが見られない。したがって、IBH1は受動的な抑制因子として機能していると考えられる。一般的に、受動的抑制因子は直接的な抑制活性を有しておらず、他の転写因子とシスエレメントへの結合を競合して機能している。しかしながら、IBH1タンパク質はDNAに直接的にも間接的に結合しないことがわかった。また、IBH1タンパク質のbHLH領域は典型的なbHLHタンパク質とは異なっており、bHLHタンパク質がDNAのE-box(CAGCTG)やG-box(CACGTG)に結合するために必要なアミノ酸残基が欠けていた。このようなDNA非結合型のbHLHタンパク質は、他のbHLH型転写因子とヘテロ二量体を形成することが知られている。そこで、酵母two-hybrid 法によってIBH1タンパク質と相互作用をする転写因子の探索を行なったところ、22の陽性クローンが得られ、このうち16はbHLH型転写因子をコードしていた。この中には、bHLH049、bHLH074、bHLH077といった転写因子や、PREサブファミリーのPRE1、PRE3、PRE4、PRE5が含まれていた。系統樹解析によると、bHLH049、bHLH074、bHLH77は同じサブファミリーに属しており、このサブファミリーに属する12のbHLHタンパク質についてIBH1との相互作用を見たところ、CRYPTOCHROME INTERACTING BASIC-HELIX-LOOP-HELIX1(CIB1)とCIB5もIBH1と相互作用をすることがわかった。さらにBiFCアッセイによって、bHLH049、bHLH074、bHLH077、CIB5はIBH1と核でヘテロ二量体を形成することがわかった。そこで、bHLH049、bHLH074、bHLH077をそれぞれACTIVATOR FOR CELL ELONGATION1(ACE1)、ACE2、ACE3と命名した。ACEとCIB5にSRDXリプレッションドメインを付加して恒常的に発現させたところ、ACE1-SRDXACE2-SRDXCIB5-SRDX を発現させた個体はPro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体と類似した表現型を示し、ACE3-SRDX を発現させた個体は野生型と類似した表現型を示した。ACE およびCIB5 を恒常的発現させた個体は胚軸が僅かに長くなり、ACE1ACE2CIB5 を発現させた個体の子葉は細長く、葉色が淡くなって、Pro35s:IBH1-SRDX 個体やPro35s:IBH1 個体とは逆の表現型を示した。ACE1CIB5 を発現させた個体の花弁とがく片は野生型よりも大きくなり、IBH1 を発現させた個体の花は野生型よりも小さくなった。ACE1CIB5 を発現させた個体での花弁の拡大は、細胞伸長が増加したことによるものであった。したがって、ACE1、ACE2、CIB5は転写活性化因子として機能し、細胞伸長を正に制御していることが示唆される。ACE1タンパク質がCIB1結合エレメント(CIBE)に結合することを指標として、IBH1がACE1の活性に対してどのように影響しているのかを見たところ、IBH1はACE1の転写活性化活性を阻害するが、CIBEへの結合に対してACE1と競合はしていなことがわかった。また、ゲルシフトアッセイからもIBH1は添加する濃度に応じてACE1-CIBE複合体形成を抑制し、IBH1自身はCIBEに結合しないことが確かめられた。これらの結果から、IBH1はACE1とヘテロ二量体を形成することでACE1のCIBEへの結合を阻害していると考えられる。PRE1は細胞伸長の正の調節因子として機能し、IBH1と相互作用をすることが知られている。IBH1がACE1の転写活性化活性を抑制する際に、同時にPRE1が存在するとACE1の活性が回復した。よって、PRE1はIBH1のACE1に対する負の効果を相殺していると考えられる。ゲルシフトアッセイの結果から、PRE1およびPRE1-IBH1複合体はCIBEに結合しないこと、PRE1はACE1-CIBE複合体と相互作用をしないことがわかった。また、PRE1とACE1は相互作用をしないことが確認された。これらの結果から、PRE1はIBH1のACE1に対する負の効果を阻害することでACE1の活性を促進していると考えられる。ACE1はEXP8 遺伝子プロモーター領域のG-box様エレメントに結合し、EXP8 の発現を直接活性化するが、この活性化はIBH1によって抑制させれ、IBH1による抑制活性はPRE1によって阻害された。したがって、EXP8 の発現は3種類のbHLHタンパク質、典型的なbHLH型転写活性化因子であるACE1と2種類のDNA非結合bHLH型阻害因子のIBH1とPRE1によって制御されていると考えられる。BRはIBH1 の発現を抑制しているが、ACE1CIB5ACE2 の発現はBR処理によって変化することはなかった。したがって、BRはBZR1を介したIBH1 の発現抑制によって細胞伸長を誘導していると考えられる。野生型植物でのIBH1 の発現は、茎の基部、完全に展開した古い葉や長角果といった成長の止まった器官で高くなっていた。PRE1 の発現は、IBH1 とは逆に、伸長過程にある器官において高くなっていた。ACECIB5 の発現パターンには、成長過程やIBH1 の発現量との相関は見られなかった。以上の結果から、細胞伸長はbHLHタンパク質による三敵対的な機構によって制御されていると考えられる。bHLH型転写活性化因子のACEやCIB5は細胞伸長に関与する遺伝子の発現を直接活性化することで細胞伸長を促進している。IBH1はACEとヘテロ二量体を形成してACEのG-box結合を抑制することで細胞伸長を負に制御している。PRE1はIBH1とヘテロ二量体を形成してIBH1によるACE活性の阻害を抑制し、細胞伸長を正に制御している。ジベレリンやブラシノライドのシグナルによる細胞伸長もこれらのbHLHタンパク質を介してなされていると思われる。

産業技術総合研究所のプレスリリース

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