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論文)アブシジン酸の異化を抑制することで乾燥耐性をもたらす転写因子

2014-02-28 05:35:05 | 読んだ論文備忘録

bHLH122 is important for drought and osmotic stress resistance in Arabidopsis and in the repression of ABA catabolism
Liu et al.  New Phytologist (2014) 201:1192-1204.
DOI: 10.1111/nph.12607

塩基性へリックスループへリックス(bHLH)ファミリーは真核生物に共通して見られる転写因子で、シロイヌナズナにはbHLH因子をコードする遺伝子が160以上存在する。しかしながら、機能が知られているものはその中のおよそ30%程度である。中国農業科学院 作物科学研究所のLi らは、シロイヌナズナbHLH 遺伝子の発現パターンを公的データベースを用いて調査し、ストレス応答に関すると思われるbHLH122 (At1g51140)に着目して詳細な解析を行なった。マイクロアレイデータから、bHLH122 転写産物量は浸透圧ストレスや塩ストレスによって大きく増加するが、乾燥ストレスでは変化が見られないことがわかっている。しかしながら、RT-PCRを行なうと乾燥ストレスによってもbHLH122 の転写産物量が増加することが確認された。これはマイクロアレイとRT-PCRでは乾燥処理条件が異なることに起因していると考えられる。乾燥ストレスによって転写産物量が増加する遺伝子の中にはアブシジン酸(ABA)の蓄積が関与しているものがあるが、bHLH122 の発現量はABA処理による変化は見られず、ABA欠損変異体(aba2-1 )やABA非感受性変異体(abi4-1 )においても乾燥処理によってbHLH122 の転写産物量は増加した。したがって、bHLH122 の発現にABAシグナルは関与していないと考えられる。bHLH122 の転写産物は、根、葉、茎、花を含むシロイヌナズナの様々な組織で検出され、bHLH122 プロモーター制御下でGUS を発現させて組織学的に発現部位を観察すると、芽生えでは子葉、根の維管束や根端、葉では維管束系や孔辺細胞、そして花や長角果において発現が見られた。また、bHLH122タンパク質は核に局在することがわかった。35S プロモーター制御下でbHLH122 を恒常的に過剰発現させた形質転換体は乾燥耐性を示し、乾燥処理後の再潅水による回復が野生型よりも高くなっていた。そこで、bHLH122 過剰発現個体の気孔開度を野生型と比較したところ、通常条件では両者の気孔開度に差は見られなかったが、乾燥条件での気孔開度はbHLH122 過剰発現個体は野生型よりも40-63%低くなっていた。また、bHLH122 過剰発現個体の切り葉は野生型よりも水分の減少が遅くなっていた。シロイヌナズナはストレスに応答して葉にアントシアニンを蓄積するが、bHLH122 過剰発現個体は乾燥ストレス後のアントシアニン蓄積量が野生型よりも75%少なくなっていた。以上の結果から、bHLH122 過剰発現個体は野生型よりも乾燥ストレスに対する耐性が高く、bHLH122 は乾燥耐性に関与していることが示唆される。bHLH122 過剰発現個体は塩ストレスや浸透圧ストレスに対しても耐性を示した。bHLH122 遺伝子にT-DNAが挿入された機能喪失bhlh122 変異体は、野生型と比較して乾燥耐性に差は見られなかったが、塩ストレスと浸透圧ストレスに対する感受性は高くなっており、bHLH122はこれらのストレスの耐性に関与していると考えられる。bHLH122 を介したシグナル伝達を明らかにするために、bHLH122 過剰発現個体と野生型との間でマイクロアレイ解析を行なったところ、非ストレス条件下で214の遺伝子の発現量に差が見られた。このうち87遺伝子は発現量が増加しており、127遺伝子は発現量が減少していた。そして、発現量が増加している遺伝子の92.0%、発現量が減少している遺伝子の94.5%はプロモーター領域にbHLH転写因子の結合部位とされているG-box(CACGTG)またはE-box(CANNTG)を含んでいることがわかった。bHLH122タンパク質がこれらのシスエレメントと相互作用をするかを、ゲルシフトアッセイとクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイを行なって調査したところ、bHLH122タンパク質はG-boxとE-boxの両方のシスエレメントと相互作用を示すことがわかった。野生型とbHLH122 過剰発現個体で発現量の異なる214遺伝子の中にはABAの異化に関与しているABA 8'-ヒドロキシラーゼをコードするCYP707A3 が含まれていた。CYP707A3 遺伝子のプロモーター領域にはG-boxが2つ、E-boxが6つ含まれていたことから、この領域からクローニングしたG-boxを1つ含むDNA断片を用いてゲルシフトアッセイを行なったところ、bHLH122タンパク質はこの断片と結合することがわかった。また、ChIPアッセイからもCYP707A3 はbHLH122のターゲットであることが確認された。マイクロアレイのデータではCYP707A3 はbHLH122によって発現抑制される遺伝子であることが示されている。CYP707A3 の発現はbHLH122 過剰発現個体では野生型よりも約60%低く、bhlh122 変異体では約3倍高くなっていた。cyc707a3 機能喪失変異体は野生型よりもABA含量が高いことが報告されていることから、bHLH122 過剰発現個体のABA含量を調べたところ、野生型よりも高いことがわかった。以上の結果から、bHLH122はCYP707A3 の発現を抑制することでABA含量の増加をもたらしており、このことによってbHLH122は乾燥、塩、浸透圧ストレスに対する正の制御因子として機能していると考えられる。

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