Novel and multifaceted regulations of photoperiodic flowering by phytochrome A in soybean
Lin et al. PNAS (2022) 119:e2208708119.
doi:10.1073/pnas.2208708119
ダイズは日長に敏感な短日作物で、開花のタイミングは緯度によって大きく異なる。高緯度のダイズ品種は、2つのフィトクロムA遺伝子PHYA3(E3) 、PHYA2(E4)とマメ科植物特有の花成抑制因子E1 の作用を阻害することで長日条件での花成に適応している。しかしながら、phyAとE1による花成制御機構については殆ど判っていない。中国 広州大学のKong らは、ダイズ品種Williams 82(W82)のPHYA 遺伝子、PHYB 遺伝子をCRISPR-Cas9 法を用いてノックアウトし、各植物体の開花時期を調査した。その結果、PHYA2 、PHYA3 のノックアウトは長日条件下での花成を促進し、PHYB のノックアウトは花成促進に対して僅かな効果しか示さないことが判った。phyA2 phyA3 二重変異体では、長日条件でE1 とそのホモログのE1la 、E1lb の発現量が著しく低下しており、ダイズの主要なFLOWERING LOCUS T (FT )ホモログであるFT2a 、FT5a の発現量が増加、花成を制御している概日時計遺伝子のLUX 、J 、LHY 、TOF1 、TOF12 の発現量が減少していた。これらの結果から、phyA2とphyA3はE1 ファミリー遺伝子やフロリゲン遺伝子の発現を制御し、概日時計遺伝子の発現にも影響を与えて光周期花成を制御していると考えられる。phyA3、phyA2の各種光条件下での安定性を調査したところ、phyA3はphyA2よりもすべての光条件下で安定していることが判り、phyA3はphyA2よりも光周期花成を制御する主要な機能を有していることが示唆される。phyA2とphyA3は光条件に関係なくLUX1、LUX2と相互作用をし、この相互作用はLUXタンパク質の26Sプロテアソーム系による分解を誘導することが判った。LUXは、E1 ファミリー遺伝子のプロモーター領域に直接結合してその発現を抑制する花成促進因子として機能する。phyA2 phyA3 lux1 lux2 四重変異体は、phyA2 phyA3 二重変異体よりも花成遅延するが、lux1 lux2 二重変異体と同程度であった。したがって、PHYA2 とPHYA3 による花成制御は、完全にではないがLUX に大きく依存していると考えられる。phyA3はE1 遺伝子プロモーター領域のLUX結合配列(LBS)モチーフ近傍と相互作用をするが、この相互作用はlux1 lux2 二重変異体では見られなかった。よって、phyA3ははLUXタンパク質によってE1 遺伝子プロモーター領域にリクルートされると考えられる。これらの結果から、phyA2およびphyA3によるダイズの花成遅延は、phyA-LUXタンパク質複合体がE1 遺伝子のプロモーターに直接結合し、phyAがLUXの分解を仲介してLUXを含む複合体(evening complex)によるE1 ファミリー遺伝子の転写抑制を減少させることによって行われると考えられる。phyA2、phyA3はE1ファミリータンパク質と相互作用をすること、phyA2 phyA3 二重変異体ではE1タンパク質の26Sプロテアソーム系による分解が促進されることから、phyA2およびphyA3は、E1ファミリータンパク質と相互作用をして安定化し、E1によるFT 遺伝子の発現抑制を高めて花成遅延をもたらしていると考えられる。E1 ファミリー遺伝子、PHYA2 、PHYA3 の機能喪失変異を組み合わせた解析から、PHYA2 、PHYA3 によるダイズの花成制御はE1 ファミリー遺伝子に依存していることが判った。以上の結果から、phyA2およびphyA3は、evening complexの重要な構成要素であるLUXタンパク質に直接結合してLUXタンパク質の分解を誘導することでE1 遺伝子の発現を促進することと、E1タンパク質と直接結合して安定化させることで、花成抑制の中核をなすE1ファミリーを転写および転写後レベルで二重に制御し、ダイズの光周期花成を調節していると考えられる。
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