Mutations that alter Arabidopsis flavonoid metabolism affect the circadian clock
Hildreth et al. Plant Journal (2022) 110:932-945.
doi: 10.1111/tpj.15718
フラボノイドは植物界のほぼ全ての種に存在する代謝産物の1グループである。細胞におけるフラボノイド生合成の主要部位は小胞体の細胞質側表面であることが示されているが、最近の研究から、核がもう1つの生合成の場として指摘されており、フラボノイド生合成酵素または最終生成物が直接的または間接的に遺伝子発現に影響を与えている可能性がある。米国 バージニア工科大学のWinkel らは、フラボノイド生合成経路の初期段階の酵素カルコンシンターゼ(CHS)が機能喪失したシロイヌナズナtt4-11 変異体と野生型植物の芽生えを連続光照射下で育成してRNA-seq解析に供試し、発現量が異なる163遺伝子(121遺伝子は変異体で発現量が上昇、42遺伝子は減少、CHS を除く)を見出した。この中には、ユビキチンリガーゼ遺伝子(12遺伝子)、エチレン応答/代謝遺伝子(17遺伝子)、トランスポーター遺伝子、タンパク質キナーゼ遺伝子などが含まれていたが、意外なことに、163遺伝子中10遺伝子は、概日時計のコア因子や時計関連タンパク質をコードする遺伝子だった。時計関連遺伝子のqPCR解析やCLOCK ASSOCIATED 1 (CCA1 )およびTIMING OF CAB EXPRESSION 1 (TOC1 )のプロモーター制御下でルシフェラーゼを発現するレポーターコンストラクトを導入した芽生えを用いた解析からもCHS 欠損による遺伝子発現量の変化が確認された。tt4-11 変異体では葉のクロロフィル含量の日周変動が観察されず、CHSやフラボノイドの喪失による時計関連遺伝子の発現量変化が光合成活性にも影響していることが示唆される。フラボノイド生合成経路においてケルセチンやその誘導体の生合成に関与しているフラボノイド-3'-ヒドロキシラーゼ(F3'H)の変異体tt7-5 においてもCCA1 やTOC1 のプロモーター活性の変化やクロロフィル含量日周変動の喪失が観察された。したがって、CHSタンパク質の欠失やフラボノイド前駆体量の増加ではなく、フラボノイド生合成経路の生成物、特にケルセチンやそれらの誘導体のようなジヒドロキシル化フラボノイドがtt 変異体の時計機能に影響を与えていると考えられる。tt4-11 変異体にケルセチンを添加することで、CCA1 プロモーター活性が野生型植物と同等の変化をするようになった。よって、ケルセチンおよびまたはその誘導体は概日リズムの調節に積極的に関与していることが示唆される。MYB転写因子が異所的に過剰発現して内生フラボノイド量が増加するpap1 変異体もtt4-11 変異体やtt7-5 変異体と同じようにクロロフィル含量の日周変動が喪失していた。したがって、シロイヌナズナの時計活性を最適化するフラボノイド濃度が存在し、フラボノイドの持つ抗酸化力や光遮断性といった効果が時計機能に影響しているのではないと考えられる。以上の結果から、フラボノイドは植物の時計機能の調節に関与していることが示唆される。
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