SCFTIR1/AFB-auxin signalling regulates PIN vacuolar trafficking and auxin fluxes during root gravitropism
Baster et al. The EMBO Journal (2013) 32:260-274.
doi:10.1038/emboj.2012.310
根の重力屈性はオーキシン輸送の変化によって生じる。オーキシン排出キャリアPINタンパク質の細胞内での局在と量の変化によって引き起こされるオーキシンの不均等分布が上側と下側の細胞の間で起こり、両者の成長量の違いから根の屈曲が起こる。重力屈性に関与しているPINタンパク質のうち、PIN2は表皮細胞の上(シュート)側に局在して根端部から伸長領域へのオーキシン極性輸送を仲介しており、根に重力刺激を与えると下側の細胞の細胞膜上のPIN2タンパク質が増加する不均等分布を示す。また、PIN2はユビキチン-プロテアソーム系によって分解され、翻訳後制御を受けている。ベルギー VIB-ゲント大学 植物システムバイオロジーのFriml(2013年4月よりInstitute of Science and Technology Austria)らは、シロイヌナズナ芽生えを水平に配置して重力刺激を与え、根が屈曲する際のPIN2タンパク質量の変化を調査し、下側の細胞の細胞膜のPIN2タンパク質量が一過的に増加し、上側の細胞の細胞膜のPIN2タンパク質は液胞への輸送量が増加してタンパク質分解が進み、減少することを見出した。重力刺激を与えて4時間後には、PIN2タンパク質の細胞膜上の蓄積が再び始まり、12時間後には刺激を与える前に近いレベルになった。そして根の両側のオーキシンの流れが均等になり、垂直方向に根が伸長していった。重力刺激によって生じたオーキシン分布の変化は、細胞膜上のPIN2タンパク質量の変化に先行して起こっていた。根に重力刺激を与えた際の下側の細胞で起こっている現象としては、一過的なオーキシンの高濃度蓄積によってオーキシン結合タンパク質1(ABP1)を介したPINタンパク質のエンドサトーシスが抑制され、細胞膜上のPIN2タンパク質が一過的に安定化することが考えられる。その後のPIN2タンパク質の減少は、長時間オーキシンの作用を受けることによってPINタンパク質の安定性が変化して引き起こされているものと思われる。この長時間オーキシンの作用を受けている状態を再現するために、芽生えをNAA処理したところ、PIN2 遺伝子の発現量変化は起こらずに、根の細胞膜上のPIN2タンパク質が減少することがわかった。よって、オーキシンはPIN2タンパク質量を翻訳後制御していると考えられる。オーキシンによる細胞膜上のPIN2タンパク質量の減少は、PIN2タンパク質の液胞への輸送を強めることで引き起こされており、液胞でPIN2タンパク質は分解される。PIN2タンパク質の分解促進は、天然オーキシンであるIAAの他に、オーキシン応答を示す合成オーキシン類によっても引き起こされた。オーキシン受容体のtir1 afb1,2,3 四重変異体では、オーキシンによるPINタンパク質の減少が見られないことから、オーキシンによるPIN2タンパク質の分解にはSCFTIR1/AFB を介したオーキシンシグナル伝達が必要であることが示唆される。ABP1のオーキシン結合ドメインに点変異の入ったabp1-5 変異体でのPINタンパク質の分解は、野生型と同等であった。SCFTIR1/AFB を介したオーキシンシグナル伝達経路の下流においてPIN2タンパク質の液胞への輸送に関与する因子として、根分裂組織の表皮細胞で発現しているオーキシン応答因子(ARF)の機能喪失変異体を用いて解析したところ、ARF2が特にこの過程に関与していることがわかった。以上の結果から、重力刺激を受けた根の下側では、ABP1を介したPIN2タンパク質のエンドサイトーシスとSCFTIR1/AFB を介したPIN2タンパク質の液胞輸送の両方にオーキシンが影響を及ぼすことで、PIN2タンパク質を介した一過的なオーキシン転流の増加と、その後の重力刺激前のレベルへの減少が起こっていると思われる。重力刺激を受けた根の上側の細胞では、PIN2タンパク質の液胞輸送と分解によってPIN2タンパク質量が減少していると考えられる。このPIN2タンパク質量の減少がオーキシン量の低下が継続することによって生じているのかを確認するために、芽生えの地上部におけるオーキシン生産の場である茎頂と子葉を切除したところ、細胞膜上のPIN2タンパク質が減少して液胞への輸送量が増加することが確認された。また、この効果はオーキシンを添加することによって回復した。さらに、オーキシンアンタゴニストであるPEO-IAAを添加することによってもPIN2タンパク質の液胞輸送の増加が観察された。したがって、SCFTIR1/AFB を介したオーキシンシグナル伝達が低下すると細胞膜上のPINタンパク質の安定性が低下すると考えられる。以上の結果から、オーキシン量が適正値よりも低くても高くても細胞膜上のPINタンパク質が不安定化して液胞へと輸送されて分解されるものと思われる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます