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論文)光によるトマトのわき芽成長制御

2023-05-27 09:26:33 | 読んだ論文備忘録

HY5 functions as a systemic signal by integrating BRC1-dependent hormone signaling in tomato bud outgrowth
Dong et al.  PNAS (2023) 120:e2301879120.

doi:10.1073/pnas.2301879120

光はわき芽の成長を制御しており、赤色光受容体フィトクロムB(PHYB)の欠損や、赤色/遠赤色(R/FR)光量比が低いことによるPHYBの不活性化により、わき芽の成長が阻害される。一方で、植物ホルモンや糖がわき芽の成長を制御していることが知られており、中国 浙江大学Yu らは、トマトにおいて、ブラシノステロイド(BR)シグナル伝達を担う転写因子BRASSINAZOLE RESISTANT1(BZR1)が分枝の主要抑制因子であるBRANCHED1BRC1 )を直接転写制御してわき芽成長を促進していることを報告している。そこで、わき芽成長制御におけるBRと光の関係を解析した。トマトに各種R/FR光量比の光を照射したところ、低R/FR比光はBRC1 転写産物量を増加させ、わき芽成長を抑制するが、この時、BR生合成遺伝子(DET2DWF )の転写産物量、ブラシノライド(BL)含量、BZR1タンパク質量が減少していることを見出した。低R/FR比光は、野生型植物ほどではないが、dwf 変異体やbzr1 変異体でもわき芽の成長を抑制し、BRC1 転写産物量を増加させた。これらの結果から、トマトのわき芽成長の光による制御には、BR依存性とBR非依存性の両方のシグナル伝達経路が関与していることが示唆される。次に各種光受容体の変異体の白色光下でのわき芽成長について解析を行なった。FR光受容体の変異体であるphyA 変異体は、わき芽の本数と長さが増加し、BRC1 転写産物量が減少していた。phyB1B2 二重変異体では、わき芽の数と成長が抑制され、BRC1 転写産物量が増加していた。青色光受容体の変異体であるcry1a 変異体は、わき芽の数と成長が抑制されてBRC1 転写産物量が増加し、CRY1a 過剰発現(CRY1a-OE)系統ではわき芽の成長が促進されてBRC1 転写産物量が減少していた。したがって、光受容体はわき芽の伸長制御に積極的に関与しており、この制御はBRC1 転写産物量の変化と密接に関係していることが示唆される。光受容体の下流で作用している転写因子としてLONG HYPOCOTYL 5(HY5)が知られているので、HY5とわき芽成長について解析を行なった。低R/FR比の光条件下では、わき芽のHY5 転写産物量とHY5タンパク質量が減少していた。また、HY5 転写産物量とHY5タンパク質量は、白色光下で育成したphyB1B2 変異体、cry1a 変異体で減少し、phyA 変異体、CRY1a-OE系統で増加していた。HY5-RNAi系統やhy5 変異体ではわき芽の数と成長が抑制されてBRC1 転写産物量が増加し、HY5 過剰発現(HY5-OE)系統ではわき芽の数と長さが増加してBRC1 転写産物量が減少していた。CRY1a-OE系統でHY5 の転写を抑制すると、CRY1a 過剰発現が誘導するわき芽成長促進とBRC1 転写産物量増加が抑制された。これらの結果から、HY5は光受容体の下流で作用し、トマトのわき芽でのBRC1 発現を抑制してわき芽成長を促進していると考えられる。brc1 変異体はわき芽の数と長さが増加し、brc1hy5 二重変異体はbrc1 変異体と同等の表現型を示した。brc1 変異体やhy5 変異体は、野生型植物と異なり、わき芽の数と成長においてR/FR光量比の影響を受けなかった。また、hy5 変異体はR/FR光量比によるBRC1 転写産物量の変化が見られなかった。HY5-RNAi系統では、DET2DWF の転写産物量とBL含量が減少し、HY5-OE系統では増加していた。これらの結果から、HY5は、トマトの光によるわき芽の伸長制御において、BRC1およびBRの上流で機能して伸長を促進していると考えられる。トマトのBRC1DET2DWF の各遺伝子プロモーター領域には幾つかのHY5結合モチーフが含まれており、解析の結果、HY5はこれらの領域に結合してBRC1 の発現を抑制、DET2DWF の発現を促進することが判った。よって、HY5はBRC1 の転写とBR生合成の制御に直接関与していると考えられる。BRC1 の下流に位置するターゲットと制御ネットワークを解析するために、RNA-seq解析を行なった。その結果、野生型植物とbrc1 変異体との間で発現量が異なる遺伝子として、サイトカイニン(CK)とジベレリン(GA)の生合成や異化に関与する遺伝子が含まれていることが判った。qRT-PCR解析で確認したところ、brc1 変異体のわき芽ではCK生合成遺伝子LOG4 の転写産物量が増加し、CK異化遺伝子CKX7 、GA異化遺伝子GA2ox4GA2ox5 の転写産物量が減少していた。また、brc1 変異体のわき芽ではCK含量と活性型GA含量が増加していた。一方で、オーキシンやアブシジン酸の含量に変化は見られなかった。これらの結果から、トマトのbrc1 変異体ではCKとGAの蓄積量が増加し、わき芽成長の促進に寄与していることが示唆される。解析の結果、BRC1は、プロモーターに直接結合することでLOG4 の発現を抑制し、CKX7GA2ox4GA2ox5 の発現を活性化させることが確認された。これらの遺伝子のBRC1による発現制御がトマトわき芽の成長を制御しているかを確認するために、野生型植物においてLOG4CKX7GA2ox4GA2ox5BRC1 プロモーター(pBRC1)制御下で発現させる、もしくはこれらの遺伝子をVIGSによって発現抑制して表現型を観察した。その結果、pBRC1-LOG4系統はわき芽成長が促進され、pBRC1-CKX7系統では抑制された。また、LOG4 のサイレンシングは、わき芽の成長を抑制し、CKX7 のサイレンシングやGA2ox4GA2ox5 の共サイレンシングは、わき芽成長を促進した。これらの結果から、BRC1はLOG4CKX7GA2ox4GA2ox5 遺伝子の転写制御を通じてCKおよびGAシグナル伝達経路に影響を与え、トマトのわき芽成長を抑制していると考えられる。わき芽のBRC1 転写産物量は、夜間よりも昼間の方が少なく、茎の伸長とは対照的に、わき芽は夜間よりも日中の方が相対的な成長率が高かった。hy5 変異体は、野生型植物よりも日中のBRC1 転写物量が多く、夜間も日中と同程度の転写産物が蓄積していた。わき芽のHY5タンパク質量、HY5 転写産物量は、夜間よりも日中の方が多かった。しかし、わき芽のBZR1タンパク質量やBZR1 転写物量は昼と夜で実質的な差は見られなかった。わき芽の成長に対してショ糖は促進的に作用し、わき芽のショ糖蓄積量は日中に高くなる。このショ糖蓄積の日変化は、野生型植物と比較して、HY5-OE系統で大きく、HY5-RNAi系統では小さかった。ショ糖を葉面散布すると、わき芽の伸長を有意に促進し、HY5と活性型BZR1の両タンパク質量が増加し、BRC1 転写産物量は減少した。これらの結果から、HY5はトマトのBRC1 転写物の蓄積とわき芽の成長速度の日内変動に寄与していると考えられる。hy5 変異体やHY5-OEを用いた接ぎ木試験から、HY5は、トマトわき芽の成長制御において、葉からわき芽に移動する全身的なシグナルとして作用することが確認された。以上の結果から、トマトにおいて、光シグナルはHY5およびブラシノステロイドに依存した両方の経路を介してわき芽の伸長を制御しており、HY5はBRC1 の転写を直接およびBR生合成を介して間接的に抑制してわき芽成長の微調整を行なっていると考えられる。

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