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永井荷風『あめりか物語』(1908)(その1)①小さい島国、②日本人移民、③快楽、④黒人の娘、⑤男妾、⑥愛の永遠、⑦売春宿、⑧黒奴(ニツガー)!

2020-03-31 21:37:37 | 日記
※永井荷風(1879-1959)『あめりか物語』(1908、29歳)岩波文庫

(1)「船室(キャビン)夜話」(1903) 
横浜からシアトルへの航海途上、船室での3人の男の話。荷風は1903年(24歳)、銀行員としてアメリカへ向かった。航海中懇意になったハイカラ紳士柳田君(31or32歳)が言う。「学校卒業後、会社員となり、すぐ濠州へ赴任。大陸の文明、世界の商業を賞賛し、豆のような小さい島国の社会を批判し、洋行帰りとなった。ところが才色優れた貴族の令嬢との結婚もできず、会社でも翻訳係の安月給。再び亜米利加へ行くことになった。」(横浜の生糸商からの視察依頼!)もう一人は妻君や児供を日本に残し「アメリカの学校に行き免状を持って帰りたい」という岸本君。「書生上がりの学士さんに先を越される」のが耐えられなかったという。(ただし細君が財産持ち!)
《感想》出世するには「学士」になる必要がある。学士になるには親に「財産」があることが前提条件。財産がある者たちの間の競争も激しい。(Cf. 「財産」がないと、言わば人間以下で話題にならない。)

(2)「野路のかえり」(1905)
夫婦でアメリカに移民してきた日本人労働者(夫)が、他の日本人労働者3人に妻を強姦され、発狂する。彼は、タコマ郊外の精神病院に収容された。
《感想》アメリカへの日本人移民の痛ましい話だ。

(3)「岡の上」(1904)
「人生救済と社会改良」の道か、「快楽」(遊蕩・好色)の道かで、煩悶する渡野君の話を「岡の上」で聞いた。
《感想》「人生救済と社会改良」の道と、「快楽」の道が、二者択一で、相互に相いれないことはない。「快楽」において一致する妻を選び、また一定程度「節制」的生活を送り、「人生救済と社会改良」を漸進的に目指す道もある。(私見)

(4)「酔美人」
1904年夏、聖路易(セントルイス)万国博覧会に作品を出したアメリカ人画家S氏と会う。彼は「微酔の裸美人」(※黒人女性)という絵を出品した。その作品を見終わった時、S氏があるフランス紳士の話をした。その紳士は、女性から得られる快楽の研究に関心があった。彼は、黒人の血を持つ女に興味を持ち、彼女との快楽に熱中した。ところが彼はこの「動物の血を沢山に持っている黒人の娘」にすっかり見込まれてしまい、ついに別れることもできず、衰弱して熱病で死んでしまった
《感想》女性から得られる快楽の研究という「己の好む道」の途上でフランス紳士は死んだのだから本望だろうと、S 氏が感想を言う。荷風も同感のようだ。私見も同感だ。

(5)「長髪」
舞台はニューヨーク。伯爵家の放蕩者の長子が、富豪から不品行ゆえに離婚された夫人(大財産を持つ)の情夫となる。彼は、「男の身ながら、女の腕に抱かれ、女の庇護の下に、夢のような月日を送りたいという、俗に男妾とも称すべき境遇」に満足する。彼は夫人に命じられ「長髪」にした。「夫人が癇癪を起した時、彼はその長い髪を引き毮(ムシ)らせ、そして狂乱の女に一種痛刻な快味を与えしめる」。
《感想》金持ちの息子に生まれ、そして美男子だと、西洋婦人の高級な「男妾」の道もあるのだ。なるほど!

(6)「春と秋」
シカゴ(市俄古)とニューヨークの中間にある大学。3人の日本人学生が学ぶ。神学科の山田太郎、山里菊枝、二人は日本の教会から派遣された。そして政治科の大山俊哉。俊哉は資産家の息子だ。その俊哉が敬虔な山里菊枝を騙す。二年間、二人は共に生活するが、3年目、俊哉は突然、東部の大学に移り菊枝を捨てる。菊枝は絶望し自殺を試みるが、山田が菊枝を助け、その後二人は結婚した。
《感想1》荷風(俊哉)は、「遊び人」・「好色男」だ。女の純情を弄んでも平気。そもそも荷風(俊哉)は「愛の永遠」(Ex. 偕老同穴、共白髪)を信じない。「愛の永遠」を信じる山里菊枝に手を出すべきでなかった。
《感想2》「愛の永遠」を一時は信じても、破綻は起きる。「離婚」の制度は合理的だ。
《感想3》世慣れていれば、多くの女性は「愛の永遠」を信じない。工夫と計算と深慮遠謀によって「愛の永遠化」(ただし死ぬまで)をめざす。

(7)「雪のやどり」
紐育(ニューヨーク)在留の日本人の雑談会。ある一人が言った。「米国の女は教育があって、意志が強いから、日本の女のように、男に欺されたり、堕落したりする事は非常に稀である。」すると他の一人が言った。「十人が十人、皆そう確固(シッカリ)しているともいえない」と反論。「バッファローから何十マイルという田舎にいた娘が、紐育のある保険会社の役員という触れ込みで下宿していた男に、紐育見物に行かないかと誘われ、売春宿に売りとばされた。」「嘘だと思うなら、僕はいつでも、その当人を見せてやろう!」
《感想》米国は階級社会だ。他の一人の男の反論、「売春宿に売りとばされた娘」の話は事実だろう。

(8)「林間」(1906)
ワシントンには「醜い黒奴(ニグロ)」が夥しくいる。ある時、林の中で、荷風は若い白人の米兵と、年若い半分ほど白人の血を交えた黒奴の娘の別れ話を、立ち聞く。「後生だから」と女は泣いて米兵に取りすがるが、米兵は「もう会えない」の一点張りだった。荷風はその場を去る。ところが偶然再び、その米兵が別の米兵と話すのを立ち聞く。「男と遊ぶのが好きな黒奴(ニツガー)の娘がいる。容貌(キリョウ)は悪くねえ。俺が取り持ってやる」とその米兵が言う。相手が「何でもいいや。一文いらずで女一人が自由になりゃアこんな結構な事はねぇ」と言った。
《感想1》金持ちの荷風は、白人からアジア人に対する差別について、何も述べない。黒人については「醜い黒奴(ニグロ)」と荷風は白人の立場にたつ。
《感想2》男が性欲or情欲を満たすことが、男の人生の大きな部分を占める。強力だ。ただし別の米兵が言ったように、女に「余(アンマ)り夢中になられちゃア、後が煩(ウルサ)いぜ。」
《感想3》白人の米兵は、実に都合よく「黒奴(ニツガー)の娘」を解釈する。権力ある者or多数派の自分に都合よくかつ傲慢な論理だ。
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