昔男がいた。《「逢わない」とは言わず、気があるように見せる女》(「あはじともいはざりける女」)がいた。だが女はいざとなるとやはり「逢わない」。男(在原業平)はそんな女のもとに歌を詠んで贈った。
「秋の野にささ[笹]わけし朝の袖よりもあ[逢]はで寝(ヌ)る夜(ヨ)ぞひちまさりける」
※『古今集』恋三・業平では第4句は「あはでこし夜ぞ」(逢わないで過ごす夜)。 ※ひち:濡れる(漬つ)。
I hope I meet you at night and get back in the morning having my sleeves wet by dunes of bamboo leaves in a field in autumn. However, I can’t meet you. Lying in my bed at night, I shed lots of tears havng my sleeves wet heavier.
秋の野、あなたに会って露いっぱいの笹を分け歩いて帰る朝の袖よりも、あなたに逢えないでひとり寝る夜の方が悲しみの涙で袖がより多く濡れましたよ。
《感想1》男は残念なことに、ついに女に逢えない。だが実は男にとっては、実際に女に「逢う」ことが目的ではない。「色男」(在原業平)は「気を持たせる女」(小野小町)のもとに歌を贈る。恋の「言葉のかけひき」(歌の贈答)を男は楽しむ。女も楽しんでいる。
「色好みなる女」(小野小町)が歌を返す。
《感想2》「色好み」とは恋の情趣を楽しむの意だ。そして彼女(小野小町)はしばしば男を惹きつけるような態度をとる。男は、深草少将(小町のもとへ九十九夜かよいつめるが思いかなわず雪の中で死ぬ)のように真面目に小町に対してはいけない。
「みるめなきわが身をうらとしらねばや離(カ)れなで海人(アマ)の足たゆく来る」(『古今集』恋三・小野小町)
I don’t meet you. Don’t you know that I am indifferent to you? However, you try to meet me. You send me letters many times exhaustedly like a fisherman catching no seaweeds..
あなたに逢うこともしない(「見る目なき」;「海松布」と懸詞)私の身について、あなたは私がそのように不人情(「うら」、憂ら;「浦」と懸詞)と知らないからかしら、見切りをつけ離れることなく(「離れ」;「刈れ」と懸詞)、《海松布(ミルメ)が獲れないので得ようと何度も出向く海人》のように、足をだるそうにして(「足たゆく」)あなたは私にの所に来るのですね。(「来る」とはここでは男が歌を詠んで女に贈る意だ。)
(※「海松布」「浦」「刈れ」「海人」は縁語だ。)
《感想3》さすがに「色男」業平と「色好みなる女」小町との洒落た恋の駆け引きの歌だ。楽しそうな「贈答」だ。
《感想3-2》『古今集』にこの二つの歌は並んで載せられている。本来、無関係な業平の歌と小町の歌から、両者の歌の「贈答」の物語が作られたのだ。
「秋の野にささ[笹]わけし朝の袖よりもあ[逢]はで寝(ヌ)る夜(ヨ)ぞひちまさりける」
※『古今集』恋三・業平では第4句は「あはでこし夜ぞ」(逢わないで過ごす夜)。 ※ひち:濡れる(漬つ)。
I hope I meet you at night and get back in the morning having my sleeves wet by dunes of bamboo leaves in a field in autumn. However, I can’t meet you. Lying in my bed at night, I shed lots of tears havng my sleeves wet heavier.
秋の野、あなたに会って露いっぱいの笹を分け歩いて帰る朝の袖よりも、あなたに逢えないでひとり寝る夜の方が悲しみの涙で袖がより多く濡れましたよ。
《感想1》男は残念なことに、ついに女に逢えない。だが実は男にとっては、実際に女に「逢う」ことが目的ではない。「色男」(在原業平)は「気を持たせる女」(小野小町)のもとに歌を贈る。恋の「言葉のかけひき」(歌の贈答)を男は楽しむ。女も楽しんでいる。
「色好みなる女」(小野小町)が歌を返す。
《感想2》「色好み」とは恋の情趣を楽しむの意だ。そして彼女(小野小町)はしばしば男を惹きつけるような態度をとる。男は、深草少将(小町のもとへ九十九夜かよいつめるが思いかなわず雪の中で死ぬ)のように真面目に小町に対してはいけない。
「みるめなきわが身をうらとしらねばや離(カ)れなで海人(アマ)の足たゆく来る」(『古今集』恋三・小野小町)
I don’t meet you. Don’t you know that I am indifferent to you? However, you try to meet me. You send me letters many times exhaustedly like a fisherman catching no seaweeds..
あなたに逢うこともしない(「見る目なき」;「海松布」と懸詞)私の身について、あなたは私がそのように不人情(「うら」、憂ら;「浦」と懸詞)と知らないからかしら、見切りをつけ離れることなく(「離れ」;「刈れ」と懸詞)、《海松布(ミルメ)が獲れないので得ようと何度も出向く海人》のように、足をだるそうにして(「足たゆく」)あなたは私にの所に来るのですね。(「来る」とはここでは男が歌を詠んで女に贈る意だ。)
(※「海松布」「浦」「刈れ」「海人」は縁語だ。)
《感想3》さすがに「色男」業平と「色好みなる女」小町との洒落た恋の駆け引きの歌だ。楽しそうな「贈答」だ。
《感想3-2》『古今集』にこの二つの歌は並んで載せられている。本来、無関係な業平の歌と小町の歌から、両者の歌の「贈答」の物語が作られたのだ。