秋の日 An Autumn Day
磧(カハラ)づたひの 並樹の 蔭に
秋は 美し 女の 瞼(マブタ)
泣きも いでなん 空の 潤(ウル)み
昔の 馬の 蹄(ヒヅメ)の 音よ
Along a river, there are trees planted in a long line.
In their shades, autumn is beautiful like eyelids of a woman.
The sky seems to begin to cry as it is wet.
I longingly remember sounds of hooves of a horse walking long ago.
長の 年月 疲れの ために
国道 いゆけば 秋は 身に沁む
なんでも ないてば なんでも ないに
木履(カッコ)の 音さへ 身に 沁みる
I have become tired because of making efforts for a long time.
Then, autumn makes me sad while I am walking on a national road.
I deeply think, but I can't find any reason
why I am sad even when I hear sounds of wooden clogs.
陽は今 磧(カハラ)の 半分に 射し
流れを 無形(ムギョウ)の 筏(イカダ)は とほる
野原は 向ふで 伏せつて ゐるが
The sun is now lighting a half of a riverside
while a raft that I can't see moves on a stream.
On the other hand, a field of grass widely lies over there.
連れだつ 友の お道化た 調子も
不思議に 空気に 溶け 込んで
秋は 案じる くちびる 結んで
My friend walking with me is conducting in a funny way.
But it looks to curiously conform to the atmosphere.
Autumn is in anxiety with its lips tightly shut.
《感想1》
詩人が、友と連れだって歩く。
男同士だ。
相手はお道化た調子。
たまたま用事かなにかで、一緒に行くことになったのだろう。
《感想2》
詩人は、やや憂鬱でセンチメンタルな気分。
①秋は美しい。「女の瞼(マブタ)」のようだ。
②空は潤んで、泣き出しそうだ。詩人が泣きたいのだ。
③「昔」とは、懐かしいということ。馬の蹄の音が、懐かしく響く。
《感想3》
④詩人は、長の年月の疲れを感じる。成功しない失意だ。かくて「秋は身に沁む」。
⑤なんでもないのに「木履(カッコ)の/音さへ/身に/沁みる」。詩人の心が、感情を、情景の属性とする。
《感想4》
午後だ。
秋の陽は短く、すでに傾き始め、磧(カワラ)の半分だけ射す。
筏(イカダ)は姿が見えない。筏の上の人だけ見えるのだ。
「半分」そして「無形(ムギョウ)」と、詩人は、未完成、無情の気分だ。
《感想4ー4》
ただし、「野原は/向こふで/伏せつて/ゐる」から、詩人には、「雌伏の時だ」と自分を定義する元気が、まだある。
《感想5》
詩人の失意、疲れ、憂鬱が、少し和む。
彼は、友のお道化た調子に、いらだたない。
その調子が「不思議に/空気に/溶け/込んで」いる。
《感想5ー2》
詩人は、気を取り直しつつある。
その彼を、「秋は/案じる」。
季節は、彼に優しい。
しかし、秋の心配は大きい。だから秋は「くちびる/結んで」厳しい表情だ