長い療養生活 Long hospitalization
せんにひどく容態の悪かつたころ。 Some time ago, I was ill in very bad condition.
深夜にふと目がさめた。私はカーテンの左のはづれから I awoke incidentally at midnight.
白く輝く月につよく見つめられてゐたのだつた。 Outside from the window on the left side of the courtain, the whitely shining moon strongly looked at me.
まためさめる。矢張りゐた。今度は右の端に。 I awoke again. The moon existed just as I thought. This time, it was on the right side.
だいぶ明け方近い黄色味を帯びてやさしくクスンと笑つた。 It was fairly near dawn. The moon became like yellow and tenderly chuckled.
クスンと私も笑ふと不意に涙がほとばしり出た。 I chuckled too. Then I suddenly burst into tears.
《感想》
詩人の死の年に発表された。
(1)
病院のベッドから、窓の外の空が見える。
深夜、白く輝く月が、彼を見つめる。
月は公平だ。夜、誰にも等しく白く輝く。
月は不死だ。彼と違い、死ぬことがない。
月が彼を見つめる。公平で不死の崇高な存在が、彼に注目する。
(2)
月の公平さは慈悲だ。その月が、彼を見つめる。彼は感謝する。
月が「やさしくクスンと笑つた」。
嬉しくなり「クスン」と彼も笑う。
だが、彼は月の不死と、自分の死を対照させ、悲しくなり突然泣く。
彼は、きっと、じき死ぬのだ。
(3)
不思議に平穏な光景に、死の悲しみが隠れていた。
せんにひどく容態の悪かつたころ。 Some time ago, I was ill in very bad condition.
深夜にふと目がさめた。私はカーテンの左のはづれから I awoke incidentally at midnight.
白く輝く月につよく見つめられてゐたのだつた。 Outside from the window on the left side of the courtain, the whitely shining moon strongly looked at me.
まためさめる。矢張りゐた。今度は右の端に。 I awoke again. The moon existed just as I thought. This time, it was on the right side.
だいぶ明け方近い黄色味を帯びてやさしくクスンと笑つた。 It was fairly near dawn. The moon became like yellow and tenderly chuckled.
クスンと私も笑ふと不意に涙がほとばしり出た。 I chuckled too. Then I suddenly burst into tears.
《感想》
詩人の死の年に発表された。
(1)
病院のベッドから、窓の外の空が見える。
深夜、白く輝く月が、彼を見つめる。
月は公平だ。夜、誰にも等しく白く輝く。
月は不死だ。彼と違い、死ぬことがない。
月が彼を見つめる。公平で不死の崇高な存在が、彼に注目する。
(2)
月の公平さは慈悲だ。その月が、彼を見つめる。彼は感謝する。
月が「やさしくクスンと笑つた」。
嬉しくなり「クスン」と彼も笑う。
だが、彼は月の不死と、自分の死を対照させ、悲しくなり突然泣く。
彼は、きっと、じき死ぬのだ。
(3)
不思議に平穏な光景に、死の悲しみが隠れていた。