やっほーやっほー、先を走る犬が裏山の小道を登っていく。
後ろを見、また走り、立ち止まり、今度は戻ってくる。
こちらが歩く分の三、四倍くらい彼は走っている。
一周して帰り道の終わり頃、彼の足取りがようやく
ゆっくりになって、すぐ前を歩いていく。
庭はそのまま森に続いているので、時には遠出をして
奥のほうへも行った。山を削った道は反対側は崖に
なっているので用心して真ん中を行く。
誰も通らないのでぼうぼうと茂ったままの草をかきわけ
どんどん行く。
犬が一緒なので怖くない。
というより、恐れないまま歩いていた。
楽しさばかりなのであった。
すべてが3.11前の話である。
失意のまま、4年半。
怖さを覚えてしまったので、山歩きが楽しさではなく
追憶になった。
森庭の続きなので天気のいい日は歩く。
でも、やっほーやっほーともう聞こえない。
聞こえないのは当たり前なんだが、聞きたい。
今年はらっきょうを
1kgほど買って漬けた。
甘酢に唐辛子が効いて、オトナ味に仕上がった。
大きなガラス瓶から二三日食べる分だけ取り出す。
らっきょうはガラス容器が似合う。小さな容器は
友人がくれた琉球ガラスの蓋付きの器。
暮らしの中の小さな楽しみは、襞々になって模様を作る。
そして、ある日。
何かの拍子に、襞の谷間に落ち込んでいた記憶が
溢れ落ちる。
その時から、時に胸騒ぎがし、時に睡眠を妨げ、
そして唐突に涙を誘う。
そのかけらを摘んで、問いかけでもしないと
情緒の波がいつになく荒れ続ける。
自分で己を知っているつもりでも、わかっていると
思っていても、それがどうしたとばかりにささくれの
一粒がどうにもならない。
瞑想はしなかった。
覚えがあるので、扉をあけて、そこへ入っていった。
何十年ぶりだろう。
自分で自分の声を聴く。
ほんとうの気持ちは隠しているのだと、他人事なら
言えるけれど、何が本当で何が良いことなのか、
決められないこと。
決められないことを、決めなければわたしはまた鍵を
かけてしまうだろうと、しばらく留まった。
わかったのは、幼いわたしが幼いからといって今よりも
聞き分けがなかったとは言えないということだった。
子どもの純真は、決められないという結論をそのまま
受け止めていただけだった。
どうにもならないし、できないということを、悲しむ
しかないということだったのだ。
じっとして、外へ行くと元気に笑った。
襞から盛り上がってぽろぽろと零れてきたのは、
小さかったわたしの、堪えていた涙だ。
わたしは、どうにかしてなだめてあげようと思った。
けれども何をどういおうと、誰かに責任をなすりつけて
悪者を決めて、気が済むわけではなかった。
どうしようもなく愚かな生き様を人は時に選んでしまう。
十歳かそこらで「諦め」を超えていくために、どう振る
舞えばいいかを考えていたというのか。
わからない。
そんな知恵があるはずもない。
ただ、そこを本気で超えたかったことは確かだ。
その感触だけは確かにわかる。
そうでなければ生きていくことができなかった。
毎日の時間がとても長く思えた。
過去は過去である。
過ぎ去ったことのなかに生きているわけではない。
目の前の今を生きる。
けれど、生きているのは、まるごとの自分である。
今を生きる自分自身のなかに過ぎ去った時もある。
なぜ神を知ったのか。
なぜ仏を求め、仏を諦め、神に出会ったのか。
青く曇ったガラス容器を眺め、静かに満ち足りた
暮らしがある。
けれど神を知らなかったなら、ガラスを美しいと
思うわたしであっただろうか。
刺さった悲しみの粒が化膿し、再び血を流したかもしれない。
神とは、人の世の不条理の先にあるものだ。
人情の罠、牢獄から解放される場所だ。
もしも今、わたしの中心にそれを抱いていなかったら、
襞を裂いて起き上がってきた、小さな私の悲しみが
少しづつわたしを壊していっただろう。
たいていの人がそうであるように、死にながら生きた
だろう。
神は求めなければわからない。
神様、神様、と怯えて呟いていた小さなわたしに、
だいじょうぶだよと、ようやく返事をすることが
できて、やれやれ、やっほー、だなと背伸びをした。
黒い毛皮の君にも、いっしょに遊んでくれてありがとう
慰めてくれてありがとうと、いまさらながらのお礼を
言った。
アホのうさこにようやく戻れる。
さて、本日は全国100万人大集合「戦争法案反対」デー。
傷めていた脚はもうちょっとだけど、10万分の1に
なりに行くとするか。少しでも参加したい。
あいにくな空模様だけど炎天下のアスファルトよりマシ。
国会議事堂前は色とりどりに染まり歌声が響く。
赤い服は持っていないのであるが、レッドカードもどきを
作った。あと、やっぱ水…、一口チョコも持って行こ。
紅葉の頃がすんばらしいのですよ、真冬はもう止めたほうがいいかも。きれいですが着くまでが気が気じゃないので。
挨拶したかったのですがずっとなにか読んでらしたのでエンリョしたんですが、ブログ読んで、すればよかったなあって。
でも、車じゃないんですね。
お元気で、いつかまた遊びに行きます。