酔ってしまいそうな香りがあたりに
漂って、いい気持ちになる。
ペネロープがたくさん花をつけた。
ムスクのようで、もっと甘い香り。
イギリスの田舎道によく咲いている
そうだ。
やわらかな花びらが
風になびき しなだれて
道行く人を慰めてくれる。
棘があるから手折りはしないだろう
けれども、秋につく赤い実を持ち帰り
家の庭で育てたりするかもしれない。
雨上がりの森
みどりが襲ってきそうだ
わかばの色が濃くなってきた
人の気より樹の勢いが勝っていて
居心地がいい 極上の場所
先週から仕事のあとは詩集を読んで
いる。 詩人の名は細田傳造。
ツイッターで話題になっていた。
細田氏の最新詩集「みちゆき」である。
選考会が延期になっているH氏賞の
候補になっている。
そういうことは、後で知った。
いろいろと知らずにまず読んで
びっくりした。
あまりに素晴らしくて。
すばらしいというのはこの詩集に少しも
似合わない褒め言葉なんだが、すごい
というのも変で、なんといえばいいのか、
心打たれてしまった。
それで、他の詩集も取り寄せた。
既刊詩集6冊が次々に届いたので、
「水たまり」を次に読んで、さらに
ガツンときた。
いま味わっている最中なので詳しくは
書けない。
ただ、細田氏にバラを贈りたい。
絹花 とあった。
「わたしの五月へ」という詩、
最後の行
「今年も五月の絹花があればと思う」
絹花はバラのことか、五月だから。
五月を待ち望んでいるのだから。
花の名前、人の名前、地名、
固有名詞が頻出する。
抽象的な感覚ではなく、すぐそこに
見えるように伝わるのは固有名詞の
はたらきだろう。
歴史を知らない者にはここで初めて
より生々しい歴史をかいまみることに
なり、周知された歴史よりもよほど
わかってしまうことになるだろう。
大きな歴史より個人史の方が肉薄
して伝わり考えさせられる。
隣のなんとかちゃんの話や担任の
先生に起きた事のほうが、説得力が
あってわかりやすいのと同じだ。
固有名詞が書かれているのは
珍しくないが、主体でありながら、
ごく自然に現れ、際立っている。
観念ではなく肉体を持つ名前と
風景がまざまざと目に浮かぶ。
そういう詩がぎっしりで、どれも休まる
ことはない。
けれども、沈鬱な重さではなく、
明るい軽みでもない、
何か空に抜けていくような
自由を勝ち取った人の言葉であった。
固く縛られた縄目を解き、縄をうち遣り
走りたいが、走らず歩いている。
そんな風だ。
怒り、悲しみはどこへ遣ったか。
悲しみに慰められる。
私が多くを知らないせいもあろうが
こういうバランスの詩に初めて
出会った。
驕らない人はいい。
それが本当の自由人だから。
まだこれからじっくりと読めるのが
うれしい。 よく考えたい。
細田傳造 詩集
「みちゆき」 書肆山田2019.5
「アジュモニの家」思潮社2018.3
「かまきりすいこまれた」2017.6
「水たまり」 書肆山田2015.1
「ぴーたーらびっと」書肆山田2013.5
「谷間の百合」書肆山田2012.6
漂って、いい気持ちになる。
ペネロープがたくさん花をつけた。
ムスクのようで、もっと甘い香り。
イギリスの田舎道によく咲いている
そうだ。
やわらかな花びらが
風になびき しなだれて
道行く人を慰めてくれる。
棘があるから手折りはしないだろう
けれども、秋につく赤い実を持ち帰り
家の庭で育てたりするかもしれない。
雨上がりの森
みどりが襲ってきそうだ
わかばの色が濃くなってきた
人の気より樹の勢いが勝っていて
居心地がいい 極上の場所
先週から仕事のあとは詩集を読んで
いる。 詩人の名は細田傳造。
ツイッターで話題になっていた。
細田氏の最新詩集「みちゆき」である。
選考会が延期になっているH氏賞の
候補になっている。
そういうことは、後で知った。
いろいろと知らずにまず読んで
びっくりした。
あまりに素晴らしくて。
すばらしいというのはこの詩集に少しも
似合わない褒め言葉なんだが、すごい
というのも変で、なんといえばいいのか、
心打たれてしまった。
それで、他の詩集も取り寄せた。
既刊詩集6冊が次々に届いたので、
「水たまり」を次に読んで、さらに
ガツンときた。
いま味わっている最中なので詳しくは
書けない。
ただ、細田氏にバラを贈りたい。
絹花 とあった。
「わたしの五月へ」という詩、
最後の行
「今年も五月の絹花があればと思う」
絹花はバラのことか、五月だから。
五月を待ち望んでいるのだから。
花の名前、人の名前、地名、
固有名詞が頻出する。
抽象的な感覚ではなく、すぐそこに
見えるように伝わるのは固有名詞の
はたらきだろう。
歴史を知らない者にはここで初めて
より生々しい歴史をかいまみることに
なり、周知された歴史よりもよほど
わかってしまうことになるだろう。
大きな歴史より個人史の方が肉薄
して伝わり考えさせられる。
隣のなんとかちゃんの話や担任の
先生に起きた事のほうが、説得力が
あってわかりやすいのと同じだ。
固有名詞が書かれているのは
珍しくないが、主体でありながら、
ごく自然に現れ、際立っている。
観念ではなく肉体を持つ名前と
風景がまざまざと目に浮かぶ。
そういう詩がぎっしりで、どれも休まる
ことはない。
けれども、沈鬱な重さではなく、
明るい軽みでもない、
何か空に抜けていくような
自由を勝ち取った人の言葉であった。
固く縛られた縄目を解き、縄をうち遣り
走りたいが、走らず歩いている。
そんな風だ。
怒り、悲しみはどこへ遣ったか。
悲しみに慰められる。
私が多くを知らないせいもあろうが
こういうバランスの詩に初めて
出会った。
驕らない人はいい。
それが本当の自由人だから。
まだこれからじっくりと読めるのが
うれしい。 よく考えたい。
細田傳造 詩集
「みちゆき」 書肆山田2019.5
「アジュモニの家」思潮社2018.3
「かまきりすいこまれた」2017.6
「水たまり」 書肆山田2015.1
「ぴーたーらびっと」書肆山田2013.5
「谷間の百合」書肆山田2012.6