夏にすっかり乾いて心配していた
敷地の北側を縁取るように流れる
小川だが、続いた大雨のおかげで
水嵩が戻った。
雨は川底に落ちた枯れ草や枝を押し
流していった。
小川が延びた先の方で、水が溢れて
村道が冠水した。
道の下に土管が横切り、川はその先へ
続いているのだが、土砂で詰まって
しまった。
以前にも同じことがあったが、
その時の台風は村全体に甚大な
被害を及ぼし、橋が壊れてしまった。
だから冠水くらいで済んでよかった
とほっとしたのだった。
村のシルバー事業団のおじさんが
やってきて、なんとかしようと
していたのだが、いかんせん
スコップとホースと小さなポンプ
くらいの圧では山砂は流れない。
そこでカメ先生は放っておけず
マイユンボで出動された。
大きな鉄の手でちょちょっと土砂を
掻き出すと、土管の中は貫通し、
勢いよく流れが戻り、道路の水が
引いた。
おじさんたちも喜んだ。
ついでに転がってきた大きな
岩石を片付けたりしてカメ先生と
ユンボ君はよく働いた。
しかし作業は見ているより難儀で
ユンボには負担がかかったようで
キャタピラが傷んでしまった。
くくく…笑っているわけではない、
がっかりの方だよ。
こういう時、電話してすぐに来て
くれる村人(農機具販売業兼農家)
の親父さんと息子二人組が、
いやーやっちまったな、といい
新品で片方30万くらいだかんな
どうする、どうする、と迫る。
どうもこうも、やがて積雪の季節、
除雪機よりよほど役立つこれが
ないと、一歩たりとも進めないので
仕方が無いのである。
雪が降る前に直せてよかったない、
そうおっさんは言った。けんど、
おらは稲刈りがあっからよ、
こっちの都合でしか直せないぺ、
いいが。とニッコニッコして
言うのであった。
やろっこはちまき、だー。
ここいらじゃ、やろっこだ。
そう言ってナツハゼの実を
つまんで、うめえな、
知ってっか? やろっこ。
知らないよ、やろっこ。
ハチマキって何?
ほ〜ら、この実のぐるりに
筋が入ってるべ、これ、ほら。
ああ、それ、そういうこと?!
やろっこはちまき、ね。
へえええええええ。
という会話をして、おっさんは
帰っていった。
30万円は、やろっこはちまきで
しばし忘れた。
山暮らし20年も、中古ユンボの
おかげで、いや、カメせんせが
操作しないと動かないんであるが、
藪と木立の原野が庭に変わった。
やろっこを摘まみながら、ええなー
ここは来るたんび、良くなってくべ
夏は一番いいべ、だろ? と
おっさんに言われるまでもなく
何にも代えがたいどこにもない
美しい場所だと思う。
しかし、今ここで成る木の実は、
3.11以降は放射能測定所でベクレって
いないかを確認しないといけない。
だから去年まで食べていない。
おっさんは、なんの200年も生きる
わけじゃあるめ、かまわん。と言う…
笑って応じながら、かまわんかも
しらんが、ナツハゼちゃんは
元の体に戻りたいと思うよ、な、
心でつぶやきながら一粒食べた。
甘酸っぱい。
赤く色づいた落ち葉と、
雨に濡れて緑が栄える苔。
柔らかな土を踏んで歩きながら
少し、樹々の傷が癒えてきたのを
感じる。
人もまた、それならいいのだが
なかなか人は立ち直れない。
自然を傷つけた報いを背負って
善良な人の方がよけいに苦しむ。
5年、6年、7年、時は過ぎ、
人の罪が露わになっていくばかりだ。
はちまき、します。
敷地の北側を縁取るように流れる
小川だが、続いた大雨のおかげで
水嵩が戻った。
雨は川底に落ちた枯れ草や枝を押し
流していった。
小川が延びた先の方で、水が溢れて
村道が冠水した。
道の下に土管が横切り、川はその先へ
続いているのだが、土砂で詰まって
しまった。
以前にも同じことがあったが、
その時の台風は村全体に甚大な
被害を及ぼし、橋が壊れてしまった。
だから冠水くらいで済んでよかった
とほっとしたのだった。
村のシルバー事業団のおじさんが
やってきて、なんとかしようと
していたのだが、いかんせん
スコップとホースと小さなポンプ
くらいの圧では山砂は流れない。
そこでカメ先生は放っておけず
マイユンボで出動された。
大きな鉄の手でちょちょっと土砂を
掻き出すと、土管の中は貫通し、
勢いよく流れが戻り、道路の水が
引いた。
おじさんたちも喜んだ。
ついでに転がってきた大きな
岩石を片付けたりしてカメ先生と
ユンボ君はよく働いた。
しかし作業は見ているより難儀で
ユンボには負担がかかったようで
キャタピラが傷んでしまった。
くくく…笑っているわけではない、
がっかりの方だよ。
こういう時、電話してすぐに来て
くれる村人(農機具販売業兼農家)
の親父さんと息子二人組が、
いやーやっちまったな、といい
新品で片方30万くらいだかんな
どうする、どうする、と迫る。
どうもこうも、やがて積雪の季節、
除雪機よりよほど役立つこれが
ないと、一歩たりとも進めないので
仕方が無いのである。
雪が降る前に直せてよかったない、
そうおっさんは言った。けんど、
おらは稲刈りがあっからよ、
こっちの都合でしか直せないぺ、
いいが。とニッコニッコして
言うのであった。
やろっこはちまき、だー。
ここいらじゃ、やろっこだ。
そう言ってナツハゼの実を
つまんで、うめえな、
知ってっか? やろっこ。
知らないよ、やろっこ。
ハチマキって何?
ほ〜ら、この実のぐるりに
筋が入ってるべ、これ、ほら。
ああ、それ、そういうこと?!
やろっこはちまき、ね。
へえええええええ。
という会話をして、おっさんは
帰っていった。
30万円は、やろっこはちまきで
しばし忘れた。
山暮らし20年も、中古ユンボの
おかげで、いや、カメせんせが
操作しないと動かないんであるが、
藪と木立の原野が庭に変わった。
やろっこを摘まみながら、ええなー
ここは来るたんび、良くなってくべ
夏は一番いいべ、だろ? と
おっさんに言われるまでもなく
何にも代えがたいどこにもない
美しい場所だと思う。
しかし、今ここで成る木の実は、
3.11以降は放射能測定所でベクレって
いないかを確認しないといけない。
だから去年まで食べていない。
おっさんは、なんの200年も生きる
わけじゃあるめ、かまわん。と言う…
笑って応じながら、かまわんかも
しらんが、ナツハゼちゃんは
元の体に戻りたいと思うよ、な、
心でつぶやきながら一粒食べた。
甘酸っぱい。
赤く色づいた落ち葉と、
雨に濡れて緑が栄える苔。
柔らかな土を踏んで歩きながら
少し、樹々の傷が癒えてきたのを
感じる。
人もまた、それならいいのだが
なかなか人は立ち直れない。
自然を傷つけた報いを背負って
善良な人の方がよけいに苦しむ。
5年、6年、7年、時は過ぎ、
人の罪が露わになっていくばかりだ。
はちまき、します。