墨汁日記

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木村実という名のもう一組のヒーロー

2006-08-08 19:42:05 | 駄目
 時は西暦2018年。

 俺の名前は木村実。
 なんだけど。

 じつは俺って1人じゃないんだ。
 俺は5人いる。
 いつつごなのだ。
 いっぺんに「オソマツ君」みたくにボロボロと5人そろってお袋の子宮から産まれた。

 その上に、うちはどういうわけだか大家族で、俺たちが産まれる前にすでに兄弟だけで野球チームがひとつ出来るほどの人数がいたので、親父ももう名前をつけるのがめんどうになったのか、俺たち5人みんなまとめて「実」と命名した。
 さらに、俺たちの後にも弟が1人と、双子の妹が1組いるので、すでに野球なら対戦が出来るほど兄弟がいる。
 この少子化の時代に、信じられないほどの繁殖力の親父とお袋だ。
 そんでもって、お袋は今も妊娠中なので、近い将来は兄弟だけでサッカーの対戦が出来そうだ。

 俺たち5人は、「クローンみたいにそっくりね」とよく人に言われるが、一卵性五生児なのでほぼクローンみたいなもんだ。

 あまりの兄弟の多さに、親父はすでに我が子の個人識別をあきらめ「コラ」とか「お前」ですませている。お袋は、それでもなんとか識別しようとしているが、俺たち5人に対してだけは識別が出来ないようだ。

 ものごころついたガキの頃に、お袋から色のついた布を渡された。
 
「赤が、赤い実ちゃん。
 緑が、緑の実ちゃん。
 青は、青い実ちゃん。
 黄色は、黄色の実ちゃん。
 白が、白い実ちゃん。
 ね、あなた達は5人で1人じゃなくて、本当はひとりづつなの。
 この布を外しちゃ駄目、この色があなたなのよ!」

 それ以前は、俺も残りの4人も全く同じ俺だと思っていた。
 お袋のくれた布で色分けされてから、5人は同じ1人じゃないんだなとなんとなしに俺たちも徐々に理解した。