墨汁日記

墨汁Aイッテキ!公式ブログ

平成マシンガンズを読んで 8

2006-08-28 20:55:29 | 

 いつの間にかテレビをつけっパで寝ていた。

 テレビから流れる歓声にまじって、小さなカチリという音がする。私は目を覚まし耳をすます。時計を見ると11時半。

 あぁ、お父さんが帰って来たんだ。

 ガチャ、ギー、バタン。

 お父さんが帰って来た!

 パタ、パタ、パタ。

 玄関から居間までのわずかの距離の足音も聞き逃さない。
 私は飛び起きて正座して散らかしてあった本を開いて読んでいたふりをする。

「ただいま、みのり」

「お帰りなさい、お父さん!」

 お父さんが私に言う。

「みのりは毎日おそくまで勉強で大変だね、今日はごほうびにおみやげを買ってきたよ」

 お父さんのお土産は、お母さんがいなくなってから毎晩のことなので、たまにはガッカリ3年モノのお土産もあるけど、たいていは食べ物か飲み物なので嬉しい。今日は何かな?

「今日はすごいよ。ジャーン! 便所の電球だ!」

 段ボール紙に包まれた便所電球。
 仕事以外には無頓着なくせしてトイレの電球が切れていた事に気がついていたんだ。そして今夜も家に帰ってくるつもりで、どっかで思い出して電球を買ったんだね。
 なにより、今夜もちゃんと帰って来てくれた。

「ありがとうお父さん。タングステン燃え尽きるまで大切につかうよ!」

 お父さんが残業の日は、たいてい会社で6時前に夕ご飯をすませるので家でご飯を食べない。そして、お父さんはほとんど毎日のように残業か接待か飲み会な上に朝も早いので、家じゃ休日以外はご飯を食べない。

「とくに何か他に必要な物はないか?」

「とくにない」

 千円札をピタンとちゃぶ台に置く。

「これで足りる?」

「大丈夫だよ!」

 お母さんがいなくなってから、お父さんは毎日かかさずに食費だと千円くれる。大丈夫だよ、私はそれで問題ないよ。


平成マシンガンズを読んで 7

2006-08-28 19:56:03 | 

 洋子と別れてから、マックの横にある「スーパー・アマイケ」で買い物して家路に付く。
 少しマックでお金をつかいすぎて今夜の食費は300円くらいしか残っていない。「モヤシ・ミックス野菜」110円と、2?のミネラル・ウォーターをアマイケで買って帰る。

 駅から10分ほどで我が家だ。
 玄関の横に置きっぱなしてで、土ぼこりをかぶった「マーク・ツー」の横を通り、ポッケの中の鍵で玄関の戸を開ける。
 閉め切った家の中はモワンと熱気がこもっているからすぐに居間に行ってリモコンでクーラーをつける。
 その次は、もちろんテレビをつける。
 まだ4時前なんで、なんとかサスペンス劇場の再放送とかやっている。
 まだ4時前かぁ。一日は長いなぁ。

 尿意を覚えてトイレの戸の前に立って、大事な事を忘れていた事に気がついた。トイレの電球をまたも買い忘れた。
 暗闇でようをたすのはイヤなのでアケッパでするが私以外には誰もいないから問題ない。

 干しといた洗濯物を取り込んで、居間の隅に重ねて置く。お父さんが欲しいもんは探すから別にたたんでしまわなくても良いよと言うので、とりこんだ洗濯物はみんな部屋のすみに積み上げておく。私の下着だけタンスにしまう。

 まだ少し早いけど、夕飯の支度をしよう。
 フライパンにサラダ油を注いでアマイケで買ってきた「ミックス野菜」をジュッとやる。あじ塩コショーで味付けする。炒めた野菜の半分を食パンにのせて挟んで食べる。残りの半分を2枚目の食パンにのせて今度は中濃ソースをたっぷりかけて食べる。デザートは買い置きしといたバナナだ。
 バナナの皮をむいているうちに6時になっていた。

 お中元にもらったカルピスに氷を浮かべてクーラーの効いた居間で飲みながらテレビを観ているうちにお風呂が沸いたので入浴。これでやっと8時。

 かって、お母さんがいつも酔いどれて横になっていた居間が、私の住空間となったのはつい最近の事だ。
 居間はいい。
 なにより私の部屋にはないテレビやクーラーがある。トイレも台所もお風呂場も目の前だ。

 居間は6畳の和室なんだけど、カーペットがしかれて部屋の真ん中にちゃぶ台が置いてある。冬はちゃぶ台がこたつに変わる。
 今は夏なんでちゃぶ台が置いてあって、ちゃぶ台の下には、私の夏休みの宿題や参考書とか本でいっぱいだ。

 居間の隅には仏壇がある。
 仏壇には、亡くなったおじいさんとおばあさん。そして、死んだ兄の写真が飾られている。兄は私が物心つく前に4歳で死んだので、私の記憶にはいない。
 立川に住む直美オバさんが言うには、お母さんがおかしくなったのは私の兄が死んだ頃からだと言うが、だとすると私にはお母さんの変化は分からない。

 お母さんが今年4月に入院してから今の生活がはじまり、しばらくコンビニ弁当とカップ麺ばかり食べていた。
 ところが、そんなのばかり食べ続けていたら、何を食べても吐くようになって、どうもなんだかコンビニ弁当とカップ麺は私の体質にあわないと思い、最近はスーパーで買ってきたお惣菜とか、あるいは、材料を買って来て自分でおかずをつくって食べている。
 ご飯は嫌いじゃないんだけど、お父さんは全く食べないし、1人じゃ食べきれない、となると、とぐのも炊くのもめんどうだから炊かないので、現在の私の主食は食パンだ。

 あぁ、こんなこと考えちゃいけないんだろうが、少しだけお母さんがいなくなってホッとしている。なんて事を思う私はいけない子なのだろうか。
 いつまでこんな生活が続くのか、来年は「高校受験」だ。
 掃除洗濯をしながら、毎食のご飯のことを考えながらでも、高校に受かるんだろうか。
 でも、その方が気がねなくやれるなと思いつつも、本当は1人ぼっちのさびしさでいっぱいで、私にはなんだか私の心が分からない。

 とにかく、お父さん早く帰って来てと願う。そして、チラリと仏壇をながめ、お母さんを駄目にしたという兄を恨む。