ドゥーチェ・アンチョビとナポリタンの楽しい戦車道
またもやガルパンのSSで、またIFを主題とした作品を紹介します。
今度は「もしもみほがアンツィオ高校に転校したら?」というものです。
10連覇を逃した結果、
自信喪失と自己嫌悪の中にいる妹を危惧した西住まほが中学時代に好敵手であったアンチョビ…。
もとい安斎千代美にみほを託し、参謀を欲していたアンチョビもこれに同意、みほはアンツィオ高校に転校が決定。
そしてみほはアンツィオ高校で「ナポリタン」という呼び名を得て、全国大会へ参戦。
仲間と共に勝利を味わいたい、という欲望と共についに決勝戦までたどり着いた………。
短編完結済みのSSです。
ぜひ見てください。
「姐さんはウチらに教えてくれた。
何かに打ち込み、一生懸命頑張って、疲れた後の料理の旨さを。
そして――挑んできたヤツらの鼻っ面をへし折り、勝つ時の祝杯の楽しさを!」
空気が沸き立っていくのを感じる。いつもと同じだ。
だけど一つだけ違うのは、私はただの観測者で、
当事者はペパロニと、残りのチームメイト全員だけであることだった。
「そんな姐さんが、頭を下げて頼んでいる。
勝ちたい、勝たなきゃ何も意味が無いって。
それはきっと今まで、姐さんが胸の中で押し殺していた一際熱い心なんだ。
勝つ気で頑張れ、楽しめって言いながら、ずっと飲み込んでくれていた、勝利だけを望む心なんだッ!!」
ああ、そうだ、そうだったよペパロニ。
ドゥーチェとして、私はお前たちに負けてもいいと思ってばかりいた。
勝とうと頑張って本気になった結果としてなら――負けを許容できる。
だって、それは無駄ではないから。
これから先、一年二年後に積み重なっていき、きっといつか大輪の花を咲かせる土壌になれるから。
でも。今この時だけは勝たなきゃ意味が無い。
今まで僅かに我慢していた、勝ちへの執着という欲望が。
高校生活最後の大会という後のない勝負と、西住まほという宿敵を前にして爆発したんだ。
「そんな姐さんを前にして……今一度、問う! お前たちは、何だッ!!」
「アンツィオ高校の戦車道選手ッ!」
「お前たちが誇るものは何か!」
「ドゥーチェ・アンチョビの気高き心と魂ッ!」
「お前たちが守るものは何か!」
「安斎千代美の限りなき愛と献身ッ!」
「なぁらばぁッ!!!」
ペパロニが叫んだその瞬間、全員が一斉に、私に向かい、姿勢を正し。
腕を前に真っ直ぐに伸ばし、手のひらを下にし、指先を伸ばした。
一糸乱れぬ、ローマ式敬礼(il saluto romano)。
「Viva la morte (犠牲を払え)!」
「Viva la morte (犠牲を払え)!」
そこから先は、カルパッチョが引き継ぐ。彼女も、泣いていた。
明朗ではっきりとしたイタリア語を発し、それを全員が、繰り返す。
「Noi tireremo diritto(我らは戦う)!」
「Noi tireremo diritto(我らは戦う)!」
「Credere, obbedire, combattere(信じ、従い、戦う)!」
「Credere, obbedire, combattere(信じ、従い、戦う)!」
いや、二人だけじゃない。
全員が泣いていた。チームだけでなく、周りで見ていた学生の娘たちも、全員が。
そして、叫んだ。かつてファシスト党で使われていた、団結と勝利のスローガンを。
「……安斎さん」
最後に、ナポリタンが涙を拭って微笑んだ。
「私たち、あなたがドゥーチェだから、
アンチョビだから、付いてきたんじゃないんです。
あなただから。他の誰でもない、あなただからこそ、ここまで来れたんです。
だから、最後も一緒に行きましょう。皆であなたを支えます。
だからあなたは――思い残すこと無く、戦って下さい」
その言葉に応じ、私は前に進み出る。
右手に鞭を、左手に二つのリボンを持って。
鞭はペパロニにくれてやった。
あいつにはお似合いのはずだ。
だらしない新入生の尻を思う存分引っ叩いてやれ。
リボンはカルパッチョに手渡した。
お前の綺麗な顔はこれからも煤まみれの油まみれになるだろうが、
それで少しでもいい、おしゃれを楽しんでくれ。
「お前たちぃ……お前たちぃぃ……」
空いた両手で、目を拭う。
コンタクトレンズを取るためだ。泣いてなんか居ない。
私は泣かない。泣くもんか。泣かないったら泣かないんだからなっ!
「どうぞ」
ナポリタンが丸眼鏡を差し出してくれた。
念の為にもう二三回手で目を擦ってから、取り付ける。
瞬間、私の心から雑念は消え去る。
感動している暇なんかない。
西住を倒す。そのためだけにこそ、心を絞り策を巡らせ。
集中しろ。
タンケッテにセモヴェンテが合わせて19両、P40が1両。
それを束ねて西住に勝つ。
あいつのティーガーを真っ赤に炎上させてやる。
「……行きましょう、皆さん」
ナポリタンが音頭を取った。皆歩き出す。
ペパロニが私の右手を取った。カルパッチョが左手を取った。
そのまま、私を引っ張っていく。ナポリタンはその正面で歩いている。
ああ、いいな。
昔と同じだ。
私はただ、一人の戦車乗りとして――西住に挑戦状を叩きつけられる。
そうだ、きっと、西住も――