二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

【短編】続・饗宴(星界の紋章SS)

2015-05-30 07:57:19 | 習作SS


ソビークと呼ばれる饗宴は8番目の月と年末の二回開かれるのを常としており、
そこには料理も酒もなく、今では絶滅している紙の本を販売し、奇妙な衣装を纏う。
地上人には理解できないが、星たちの眷族はソビークをかけがえのないものと見なしており、
人によっては帝宮を開放して行われる園遊祭並かそれ以上にこの饗宴を心待ちにしており、あるいはその準備に情熱を注いでいる。

だけど、徹夜して並ぶほどなのか?
長蛇の列に並んでいるジントはそう疑問を覚えた。

「これも伝統よ」
「伝統、ね」

委員長の誇りに満ちた回答にジントは苦笑を零す。
主計修技館に入学して2年目どうやら、まだまだアーヴへの理解が足りないようだ。

「でも案内書によると徹夜で並ぶのは禁止されているようだけど」

入館料も兼ねた分厚い紙の案内書に掲載されている禁止事項に指を指す。

「それを無視するのも伝統よ」

アーヴが弧状列島の文化を維持、
尊重をしているのは知っているがこうまで来るとジントは僅かに苦笑を禁じえなかった。

だがそう暢気に笑っていられる時間は直ぐに消滅した。
放送器具から電子音が音符に従って鳴り響くと同時に周囲に何ともいえない緊張感が走る。
委員長も急に真剣な表情で口を閉じ、ジントは周囲の変化も合わさって混乱したが次の放送内容で納得した。

「ただ今よりソビークが開催されます」

饗宴が始まったのだ。
が、ジントが感嘆に浸るより前に長蛇の列は一斉に入り口へ向けて駆けだした。

「ほら、ぼっとしないで!」
「え、うわぁ!?」

ジントは委員長に手を引っ張られる。
通常アーヴの世界では走るという行為はあまりない。
何故ならアーヴは無重力空間を好んでいるためである。
だが、ここソビークでは逆に自らの足で駆けることに意味を見出しているらしい。
前後で押し合う上に、アーヴ的な重力に肉体がすっかり慣れたせいでジントの肉体は直ぐに疲労を訴え出した。

そして気づけば委員長とは逸れてしまい、
これまでの人生のようにただ人ごみの中を流されるがままになってしまった。

こんな事なら来ないほうが良かったかも…!!

ジントは己の運のなさに嘆くがもう遅い。
戻ろうにも列から出ることは物理的に不可能であった。

「そこ、並ぶがよい!
 ええいそなたら走るな!」

「ラ、ラフィール?」

突然見知った声が聞こえ、戸惑いを含めた声でラフィールの名を呼ぶ。
ラフィールの方もジントに気づくと驚愕の表情を浮かべ、次に。

「失望したぞジント、まさかそなたがソビークの秩序を乱す徹夜組にいるとは!」

憤怒の表情を浮かべてラフィールは槍をジントに向けた。

「ええっと、これにはその理由があって」
「理由?まさか徹夜組ではなく転売組に組したわけではあるまいな?」

転売組という聞きなれない単語にジントは首を傾げるが、
どうやら何か許されない組織らしく王女殿下の眉が危険な角度に逆立つ。

「違うよ、ラフィール。ただ主計修技館の友人の付き合いで来たんだよ」
「嘘、偽りないな?知っていると思うが、わたしは騙されるのが嫌いだジント」
「本当だって!!」

執拗に絡むラフィールにジントは内心辟易する。
何か話題を変えないと――――そう思い、気づいた。

「ところでラフィール、その服装はなんだい?」

アーヴの衣類は大抵つなぎを基本に士族ならその上から短衣。
貴族なら長衣を纏うものだが、しかしソビークではかつて王女殿下に着せた、
「わんぴーす」など地上世界の服装を纏い仮装を楽しむことを前回学んだが今のラフィールの服装はジントの常識を凌駕していた。

何せ鎧兜姿と来た、胴色に輝く兜を被り、手には槍に同じく胴色に輝く大盾。
そして紅の外套を纏った姿は、ジントが昔歴史の映像資料に出たギリシャの戦列歩兵のようだ。

「伝統だ」

ジントの疑問にらフィールがきっぱりと言い切った。

「伝統か」
「これはソビークを管理する人間の伝統衣装だ、弧状列島以来のな」
「そっか」

どうして動きにくい鎧兜なのか、
色々追求したかった誇らしげに言うラフィールを前にとりあえずジントは黙っておいた。

「しかし、ジント。
 そなたがまたソビークに来るとは思わなかったぞ。
 前回は何も買って行かなかったが、何か買うのもでもできたのか?」

ラフィールが興味津々な表情でジントに問いかける。

「うん、付き合いもあるけど、その友人のお陰で今回は買うものができたよ」
「それは良いことだ、そなたはまた1つアーヴの文化を理解したようだ。で、何を買うのだ?」

漆黒の瞳がじっとジントを見る。
そんなの決まっている――ジントに迷いはなかった。

「ああ、『艦隊収集』のを買おうと思ってね」
「ほう、そなた『艦隊収集』に興味があったのか!!」

元は単純な遊戯で、過去に活躍した星界軍の艦艇を擬人化させた通称艦娘を指揮する遊戯であるが、
遊びやすさ等色々原因はあるが近年帝国(フリューバル)で大流行ししている作品をジントは狙っていた。

「では、そなたの戦果を期待しよう」
「ありがとう、ラフィール」

槍を掲げ武運を祈るラフィールにジントは微笑む。
徹夜で並んだ寝不足、疲労で心身が疲れていたが王女殿下の心からの祈りに少し気分が良くなった。

しかし、ジントはすっかり失念していた。
【艦隊収集】を題材とした作品は今年のソビークの流行で、
もっとも人が密集する激戦地であることを、再び並ぶ長蛇の列にジントは戦わなければならなかった。

だがジントが買い集めた品々、薄くてその割には値段が高い紙の本に、
ラフィールが羨ましがってくれたことでまたジントの苦労は報われた。













コメント
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