おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「銀二貫」 高田郁

2009年11月16日 | た行の作家
「銀二貫」 高田郁著 幻冬舎ノベルス (09/11/15読了)

 作者の高田郁さん、本当に、心の優しい方なんだろうなぁと思う。読み終えて、心がホッと温かくなりました。
 
 寒天問屋井川屋の主人・和助が、お茶屋で一服している時に、目の前で仇討が始まる。斬られた父親の傍らで呆然とする子どもまで斬られてしまうかもしれない-という時、和助は火事で焼失した天神さま再興のために寄進しようとしていた懐の「銀二貫」を差し出し、「仇討を買い取る」と申し出る。

 救われた鶴之輔は、松吉という新しい名を授けられ、武士の子の身分を捨て、商人として生きていく道を選ぶ。主人の和助は松吉の最大の理解者であり、松吉に対して「銀二貫」の返済を求める気など微塵もない。しかし、松吉にとっては「銀二貫」に落し前をつけることが、本当の意味で大人になり、自由になること。

 繰り返し、厳しい試練にさらされながらも、強く生きることで「銀二貫」を克服していく松吉の姿に、素直に心洗われる。そして、松吉をとりまく人たちが、優しく、温かい。

 細かいことを言えば、前半冗漫なわりに、後半の描写が妙にアッサリしていて、ちょっとアンバランス。章建ての見出しがちょっと陳腐な印象ではありしまたが…

 でも、完成度の高い作品です。単なるハッピーエンドではなくて、物語の結末が、物語の起点につながっていて、きれいな輪になっているのです。実は、ハッピーエンドまでは予想の範囲内でしたが、ミッシングリングがきれいに埋まることは、ポジティプサプライズでした。構成としても完璧だし、読んでいる人まで優しい気持ちにしてくれるストーリーでした。

 高田さん、今後、ますます期待してます!