おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「差別と日本人」 野中広務・辛淑玉著

2009年11月06日 | な行の作家
「差別と日本人」 野中広務・辛淑玉著 角川新書 
 
 インパクトあるタイトルだし、それ以上にインパクトある2人の執筆者。新書コーナーにはしばらく前から平積みされていたので、この本の存在自体は知っていましたが、あまりに重そうな中身に躊躇して、手に取ってみることはありませんでした。

 本屋でもらった「新刊ニュース」という雑誌の中で、敬愛する立川談四楼師匠(すみません、いまだに、落語は一度も聞いたことがありません)の書評が連載されており、たまたま、この本を取り上げていたのです。師匠曰く「タイトルに怯む人もいるのではないでしょうか。しかし、そのインパクトに比べ、読みやすい本です」。

 師匠の推薦の言葉に背中を押され、早速、購入。おっしゃる通り、確かに、重たい内容ではあるのですが、予想以上に読みやすかったです。

 差別されてきた当事者が、平易な言葉で、あらいざらいに経験や思いを語っているのが、ある意味、新鮮でした。もちろん、著者2人は、被差別者として語り尽くせないほど辛い経験をしているわけですが、だからと言って、うらみつらみばかりで埋め尽くされているわけではなく、差別を客観視する強さがあるから、こういう本を出版できたのだと思います。

 そして、本論とは直接関係ないかもしれませんが、野中広務という政治家の凄味を感じました。戦争に行き、特攻隊の仲間を送り出し、終戦後は鉄道会社でバリバリ仕事し、被差別出身という出自を真正面から受け入れるために敢えて地元に戻って地方議員となり、首長を経験し…。そりゃぁ、ナントカ政経塾出身のお坊っちゃま、風の流れに上手く乗った○○チルドレンとは格が違うのは当然ですね。

 政治家のみならず、貧しい時代を這い上がってきた世代と、日本が豊かになってから生まれ、ぬくぬくと育ってきた世代とでは、逆境への耐性が全く違います。本の中で指摘されているように「差別が(差別する側にとって)快楽である」以上、すべての差別が根絶されることはないわけで、この本は、私たちのようなひ弱な世代がどう差別問題(や在日差別に限らず)と向き合うかという宿題を課しているようにも思いました。