おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

桂川連理柵 @ 内子座文楽

2010年08月24日 | 文楽のこと。
桂川連理柵 @ 内子座文楽(愛媛県内子町)

 ついに… 文楽のために本州の外に出てしまいました。我ながら、クレイジーと反省しつつ、でも「やっぱり文楽は私のエネルギー源♪」と幸せな気持ちになって帰ってきました。

地元のお大尽たちがお金を出し合って作ったという芝居小屋は、「大正ロマン」な雰囲気がそのままに残っていて、本当に、ステキ。ただ、観劇する環境は超過酷でした。小さなマス席に6人ギューギュー詰めで、足を延ばしたり、自由に動かしたりすることもできず…まるで修行のよう。舞台正面で人形はよ~く見えましたが…両端や最後列の2等席=椅子席が、ちょっとだけ羨ましくもありました。

私的に、内子座公演のMVPは桂川連理柵の前を語った呂勢さんです!! 呂勢さん、最近、聴くたびにどんどん魅力を増しているように思いますが、今公演では一段とノリノリで「もう、このまま最後まで語っちゃって!」と思うくらいの勢いがありました。「やっぱり、床の力って大きいなぁ」と改めて思いました。もちろん、勘十郎さまもステキでしたが、でも、今回に関しては、物語の世界に連れていってくれたのは呂勢さんです。

圧巻は、帯屋の乗っ取りを企む長右衛門の義理の弟・儀平が、しなのやの丁稚・長吉をおちょくり、馬鹿にして笑いが止まらなくなる場面。観客席も笑いにひっぱりこまれ、何度も何度も拍手が起こりました。きっと「笑い薬をやらせるなら、呂勢さんで!」という日がきっときっとやってくると確信しました。もちろん、清治さんの三味線も、相変わらず、清々しく、気持ちの良い音で、本当に最高でした。

それにしてしも、桂川は、あまりにも現代人からすると突っ込みどころ満載すぎるストーリー。だいたい文楽のチャラ男はロクデナシばかりだけれども、長右衛門はスジガネ入り。旅先で丁稚・長吉に言い寄られたお半が「おじさん、助けて~」と言ってきたのを、「すんごい眠かったので、深く考えずに布団に入れてかくまってやった」らしい。でも、眠かった割には、ちゃっかり致すことは致したというから恐れ入ります。

最後には「実は、昔、品川の女郎と心中しようとしたけれど、女が川に身を投げたのを見たら恐くなって逃げちゃったんだよね~」と大胆告白。 それって、現代なら、立派な保護責任者遺棄致死って罪状が付いて、逮捕されちゃいますよ!

そんでもって、「お半は、その女郎の生まれ変わりかもしれない。これも運命、今度こそは…」と心中を決意する。お半に義理だてするのはいいけれど、こんなバカ夫に自虐的に尽くしてくれた妻のお絹は、放っておいていいわけ??? 

お絹・和生さん、お半・清十郎さん。それぞれ重要な役どころのわりにイマイチ印象に残らず。実は、この演目って、ヒールの儀平・簑二郎さん、おとせ・勘寿さんの方がおいしい役どころだったのかもしれません。お二人とも大好演でした。

9月の東京公演では、勘十郎・長右衛門に簑助・お半。簑師匠のお半は、「子ども」であることを武器にしたあざとい女なんだろうなぁ…と勝手に妄想を膨らませます。

ところで、この演目とは関係ないのですが…舞台が始まる前の「演目紹介」は咲甫さんでした。ストーリーを理解しやすいようにあらすじをかいつまんで説明するのですが、イマイチ要領を得ず、取り立てて面白いわけではなく、パッとしない解説だなぁ~と思って聞いていました。

でも、後になって、その理由がわかりました。だって、咲甫さん、公演では出番ナシなのです、ただ、解説のためだけに、内子まで来ていたのです。いや、もちろん、師匠の浄瑠璃を聴くのも勉強のうちなのかもしれません。でも、咲甫さんと言えば、次世代を担うホープの一人なのに、こんな無駄な使い方、誰が考えるの? それに、同世代の呂勢にいい役がついて、あんなに活き活きと語っているのに、それを、指を加えてみていなきゃいけないのって、キツイと思います。私は、いずれ呂勢&咲甫時代が来ると思っているので(そのちょっと後には芳穂時代!)、こんなヒドイ待遇に、ちょっと、いたたまれない気分というか… かなり納得いか~ん!! と思いました。 




「日本振袖始」 夏休み文楽特別公演 @ 文楽劇場

2010年08月07日 | 文楽のこと。
日本振袖始  夏休み文楽特別公演@文楽劇場

 舞台は奥出雲、素戔鳴尊が八岐大蛇を退治する神話をベースとした作品。なんと、本公演では1883年以来の再演という、極めて珍しい作品。岩長姫・勘十郎さまに、素戔鳴尊・玉也さん。夏祭でヘトヘトなハズのお二人が最後の演目でも再び大立ち回りで、お疲れ様でございます。

 でも、ラブな勘十郎さま&玉也さんのことが気になってチラ見しつつも、私は完全に清治さんにくぎ付け。再演にあたっては、清治さんが補綴・補曲されていて、とにかく曲がめちゃめちゃカッコイイのです。文楽の配役は、基本的には大夫中心に決まっているので、人間国宝の清治さんが、意外に端場のチョイ役であることも多く、「もっと清治さん聞きたい~」とフラストレーションを感じることがしばしばなのですが、今回はたっぷり楽しめました。しかも、さすが、ご自分で作曲しただけあり、清治さんの魅力が存分に発揮されるようなエッジの効いた、勢いのある曲調。 若手の皆さんも、ビシッと揃っていて、カッコイイ!(最近、清治さんと清志郎さんが並んでいると、どうも親子に見えてしまうのは私だけ?) 大夫も三味線の勢いに負けずに、競い合い、響き合う感じ。特に、呂勢さん、咲甫さん、相子さんは、すごく近いところのネクスト・ジェネレーションとして清治親分に応えているように感じました。まさに、鶴澤清治プレゼンツ・ロックコンサート!!

 で、その洗練された床に比べると、舞台は、まだまだ、発展途上なのかもしれません。昨年のテンペストもそうでしたが、清治さんの才能輝き、床が勝ってしまっているのですが…ま、そもそも、大したストーリーがあるわけでもなし、たまにはこんな風に楽しむ作品があるのも悪くないです。ブラボ~ 清治さん!



「菅原伝授手習鑑」寺入り・寺子屋 @文楽劇場

2010年08月07日 | 文楽のこと。
寺子屋 夏休み文楽特別公演@文楽劇場

 本当は「なるべくネガティブなことは書かないようにしよう」と思っているのに、結局は、いつもヒドイことを書いている私。
 
 もともと夏休み公演をパスするつもりだったのは… 今年の相生座で拝見した寺子屋があまりにも素晴らし過ぎて、「この素晴らしい記憶に上書きされたくない」と思ったからです。

 そして、実際に、その通りでした。いや、取り立てて不出来というわけでもないと思うのですが、相生座で拝見した時のような、千代や松王の哀しみが客席まで激しく押し寄せてくる感じはなかったです。唯一の救いは、津駒さんと寛治師匠の床が素晴らしかったこと。

 毎度思うのですが…清二郎さんの「ハッ」「ヨッ」「ヤッ」とかいう、掛け声だか相の手は、ちょっとうるさすぎませんか? 頻度が多すぎる。その上に、大夫より声がデカい。と、そもそも、何のための相の手なのかがイマイチ、私にはよくわからない。なんか、ストーリーの流れとまったく関係なく、特に、場面が転換するようなところでもないような気がするんですよね。何人もの連れ弾きで、ビシッと合わせる必要があるでもなし…。それとも、自然と気合が入ってしまっているだけなのだろうか?寛治師匠にしろ、清治さんにしろ、本当に要所でしかお声を発していないと思うのですが…。

 文雀師匠の左は、人形だけでなく、師匠も動かさなきゃいけないんですね。段差があるところで、ひっぱりあげているのが見えちゃいました。

「夏祭浪花鑑」 夏休み文楽特別公演@文楽劇場

2010年08月06日 | 文楽のこと。
夏祭浪花鑑  夏休み文楽特別公演@文楽劇場
 
 諸般の事情から夏休み公演はパスする予定だったのですが… ストレスフルな日常生活から逃げ出したくなって、突然、往復バスの弾丸ツアー敢行! 行ってよかった~♪

 「夏祭」は、2009年の相生座公演で、クライマックスシーンの「長町裏の段」のみ観たことがありました。その時の配役は、勘十郎さまの団七に、玉也さんの義平次。私は、この義平次を拝見して以来、玉也さんにハマってしまったのです。団七をいたぶるネチっこさといい、性根の腐りぶりといい、これ以上はないだろうと思うほど、キャラクターが作り込まれていて、勘十郎さまとの息もピッタリ。最高に素晴らしい舞台でした。
 
 今回の公演では、団七・勘十郎、義平次・玉女。団七は二世勘十郎の当たり役だったと言うし、団七は玉男さんがよく遣われた役なので、それはそれで納得な配役ではあります。でも、内心「義平次は玉也さんがよかったな~」と思っていました。

 ところがです… 玉也さんが遣われた一寸徳兵衛が、実に、いい男なのです。団七とは義兄弟のような厚い友情で結ばれていて、フィナーレではひと芝居打って、団七の窮地を救う重要な役柄。舞台の上にいい男2人。かなりウキウキした気分で楽しめました。勘十郎さまも、玉也さんも、大きな人形をよりスケール大きく遣われるので、この2人の競演はダイナミックで、とっても、楽しい♪

 ストーリーは、団七の妻がかつて奉公していた玉島家のバカ息子・磯之丞が女にだらしないせいで、みんなが振り回されるという、いかにも文楽チックな展開。

 団七たちは、磯之丞がいれあげた傾城琴浦を、追手の男から守り匿う。それもこれも、磯之丞が恩ある人のご子息なのだからなのだが…。磯之丞ったら、町人に身をやつして道具屋に奉公しているうちに、店の娘のお中と恋仲になり、お中に惚れていた番頭とトラブルをお起こし、ついには人殺しまでした挙句、お中を連れて逃げる。おいおい! 傾城琴浦はどうするの? その上「据前と鰒汁喰わぬは男のうちじゃない」とか開き直っているし…。

 それでも、団七一派は、恩ある人の息子である磯之丞さまが大切。磯之丞の殺人事件をもみ消し、その上、安全なところに落ち延びさせようとする。磯之丞は、単なる女にだらしない若造で、とても尽くす甲斐がある人間には思えないのだけれど…。結局、徳兵衛の妻・お辰が磯之丞を預かって故郷に連れ帰るという話がまとまるのだけれど、なにしろ女たらしの磯之丞さまのこと。美しいお辰と間違いがあっては、磯之丞さまに申し訳が立たない(という発想からして、もう、理解不能)ということになり、お辰は火鉢の中の鉄弓を顔に押し当てて火傷をして美貌を台無しにし「これで、色気もなくなったから大丈夫でしょ!」と、啖呵を切る。簑師匠のお辰はめちゃめちゃカッコイイ。出番はそれほどたくさんあるわけではないのですが、存在感は抜群。ちょっとした仕草からも気風のよさが伝わってくる。実写版なら、間違いなく、岩下志摩です!

 お辰といい、琴浦を匿っている釣船屋のおかみさん・おつぎと言い、完全に「極道の妻たち」ワールドです。琴浦が磯之丞の浮気に腹を立てていると、おつぎは「磯さんは、罪を逃れるために身を隠さなきゃいけないから2年、3年会えないかもしれない。暇乞いと仲直りの汗を一度にかいておきなさい」って~、昼日中から、なんともストレートな物言い。実写版なら高島礼子で! ちなみに、ここ、笑う場面かと思ったのですが、誰も笑っていないので…ちょっと寂しかった。それから、こういうしょうもない会話をしながら、おつぎは魚を焼いているのだけれど… いかにも、美味しいそうに焼き上がっている風情で煙がモクモク。ドライアイスかと思いきや、客席にも、かすかに香ばし匂いが漂ってきたので、きっとドライアイスではない何か…。気になりました。

 クライマックスシーンの長町裏の段。団七の義理の父親・義平次は、カネのために、団七にとって大事な磯さまを陥れようと暗躍。義理人情を大切にする団七は、磯さまも大切だけど、義理の父も大事なので我慢に我慢を重ねるが、義平次の嫌がらせが我慢の限界に達して、ついに、カチッとスイッチが入ってしまい義平次をめった刺しに。

 女殺油地獄、一つ家、夏祭… 私は、勘十郎さまがラリッてめった刺しにする場面が大好き。正直、テンション上がります。これが、人間が演じて、血のりが飛び散ったりすると生々しすぎてついていけないと思うのですが… 究極的に抽象化されている文楽では、美しくすら感じる。義平次を殺したあとに、井戸の水を何度もかぶり、刀について血を洗い流すところなんて、ゾクゾクっとしてしまう。

ところで、団七の動きがストップモーションになっている演出は、江戸時代からなのだろうか? フィルム作品では、見せ方の工夫として早回し・遅回しを使うのは当たり前のことだけど、もしも、江戸時代からストップモーション演出をしていたとしたら、その発想はごとから生まれてきたのだろう。とっても不思議。

 そして、この段の床がめちゃめちゃ良かったです。松香・義平次、千歳・団七に三味線は清介。松香&千歳の息が詰まるような激しいやりとり。まさに、クライマックスに相応しい、大夫の技量と技量のぶつかりあいでもあり、鬼気迫るものがありました。勘十郎さまのララリった団七に床の松香&千歳&清介は「味濃い目」の濃厚演技。玉女さんの義平次は、やや薄味・さっぱり系な印象。「ああ、やっぱり、玉也さんで見たかったなぁ…」と、再び無い物ねだり。ま、我ままなファンの勝手な物言いでございます。

 暑さのせいもあるのでしょうが… この演目に限らず、ベテラン勢、若干、お疲れ気味でしょうか。住師匠の声にも伸びがないように思いました。その半面、ネクストジェネレーション、ちょっとハラハラする場面もあったけれど、頑張ってました。寛太郎さん、希さんが、単独で、あれほど長い場面を務められたのは、私は、初めてみたような気がします。寛太郎さんの三味線、なんか、とっても伸び伸びしていて気持ちよかった。将来に期待! 文字久&富助 芳穂&喜一郎 という、これまであまり見たことのなかった組み合わせも、超私好みで嬉しかったです。
 
 全体としては、なんの尽くし甲斐もない磯さまの不行状をとりつくろうために、みんなが苦労して、人が殺されたり、さらなる罪を犯したりと、まったくもって身も蓋もないストーリーなのですが、それでもなお、なんでこんなに楽しいんだろう? 任侠モノは、今も、昔も、庶民にとっては、恐いけれど覗いてみたいアナザー・ワールドということなのでしょうね。ま、私的には、勘十郎さま&玉也さん満喫という時点でかなり幸せでした♪


最強の「菅原伝授手習鑑」寺入り&寺子屋 @相生座

2010年06月11日 | 文楽のこと。
菅原伝授手習鑑 @ 相生座

 相生座は山奥にあります。チケットは本公演よりもずっと割高です。それでも、やっぱり、来て良かった――と心から思いました。

 「寺入り」「寺子屋」は、これまでも何度か見たことはありました。これが「名作」と呼ばれていることは、もちろん、情報として知っていましたが、では、今まで、心から感動していたか-というと、そうでもなかったのです。むしろ、「名作なんだし、感動しない私って、不感症?」と、ややプレッシャーに感じているところがありました。

 今回、相生座の舞台で見て、寺子屋が「名作」であることを、心の底から納得しました。

 「寺入り」は、若手の皆さんが弾けていて楽しかったです。子どもたちが悪ふざけ、イタズラする様子、いかにも「悪ガキ~!」という風情が出ていて何度も笑ってしまいました。しかも、悪ふざけっぶりは、過去に拝見したどの「寺子屋」よりもエスカレートしてました♪

実は、幕が開く前に、向こう側で「大丈夫か」「しっかりやれ」など小さな声が聞こえてきて、大先輩たちはちょっとハラハラしていたのかもしれませんが、でも、若手の皆さん、本当に伸び伸びと演じているのが伝わってきました。

 そして、「寺子屋」。前は呂勢さん&宗助さん、切が嶋師匠&燕三さん。呂勢さん、めちゃめちゃ乗ってました。もう、私は、呂勢さんのところから、ジワッ~と涙が溢れてきてしまいました。

 源蔵は、いつもは悪役商会の玉也さん。もちろん、玉也さんの悪役は本当にスカッと楽しいですが、でも、悪役以外の役もめちゃめちゃステキなんです。ご本人は常にポーカーフェースなのに、人形に感情が乗っているのは、実は、一番、玉男師匠譲りなんじゃないかと思います。私は、映像の中でしか玉男さんを拝見したことがないのですが、でも、クールな表情・熱い魂は、相通ずるものを感じます。

 清十郎さんの戸波もよかったです。5月公演で遣われていた久松は、かなりイマイチな印象でしたが…清十郎さんは、やっぱり、女形の方がしっくりきます。

 でも、なんと言っても、簑助師匠の千代、勘十郎さまの松王は、鳥肌が立つほど凄かった。今、思い出して書いているだけでも、心がざわざわして涙が浮かんでくる。

 文楽の作品は何百年にも渡って繰り返し演じられている上に、プログラムにも粗筋が書いてあって、みんなが、この演目が悲しい物語だということを知っている。でも、千代が登場した瞬間に、情報として「悲しいことがこれから起こることを知っている」のではなくて、千代が舞台に運んでくる空気が、これから起こる不幸を予感させてくれるのです。

 だから、千代が追いすがろうとする小太郎を叱りつける場面も、そうしながら、後ろ髪ひかれて去っていくのも、胸が締め付けられるほど切ない。

 そして、松王。今まで、毅然とした悲しみを表に出さない人だと思っていました。勘十郎さまの松王は、どんなに抑えようとしても、悲しみが溢れてきてしまう。もちろん、取り乱したりはしない。毅然と振舞おうとしても、心が乱れるのはどうにもできないことが伝わってくる。

松王がうつむいている時も、カッと目を見開き、絶対に涙をこぼすまいと必死になっている。多分、松王の目の動きが見ることができるのは、最前列特権かもしれません。でも、勘十郎さまは観客に見せるためにそうしているのではなくて、松王として悲しみに耐えているのだと思いました。そして、勘十郎さまと響きあうように、嶋師匠&燕三さんの床も最高潮に。終わった瞬間、一瞬、拍手するのも忘れるほどに、悲しみの波が押し寄せてきました。

「名作」が「名作」たるは、最高の舞台と最高の床が響き合い、高めあい、観客とシンクロしてこそなのだというこがわかりました。

素晴らしい舞台を有り難うございました。でも、今回、この「寺子屋」を見てしまったことは、ある意味、不幸かもしれません。これ以上の組み合わせって、そう簡単には実現しないような気がしてしまいます。とりあえず、目先、夏休み公演の大阪遠征の気力が大幅に低下中です。


団子売  @ 相生座

2010年06月07日 | 文楽のこと。
団子売 @ 相生座

 5月本公演と同じ演目。しかも、杵造は5月と同じ幸助さん。始まる前は「既視感ありすぎて、テンション上がらないかも…」と心配していましたが、いえいえ、十分に楽しめました。

 簑二郎さんのお臼が弾けていて、とっても、可愛かったです。簑二郎さんは、5月公演の「碁太平記白石噺」での「どじょう」役も好演されていましたが、なんともいえない茶目っけがあって、観ている人の肩の力を抜いて下さるのです。本公演の一輔さんのお臼は、ちょっとお上品で色っぽい系、簑二郎さんはおきゃん系と、それぞれに、味わいがありました。

 そして、床がまたよし。杵造は芳穂さん&燕三さん。芳穂さんの声って、絶対、こういう楽しい演目に向いているんです。そして、本当に楽しそうに語っている芳穂さんのお顔がまた、ステキなのです。満足、満足。 


曲輪文章

2010年06月07日 | 文楽のこと。
曲輪文章 @ 相生座

 ごめんなさい。最前列の特等席にも関わらず、途中、何度も気を失いました。勘十郎さまが主役の伊佐衛門なのに、萌えない……。

以前に、本公演でこの演目を見た時にも、あんまり、のめり込めなかったような記憶があります。何がいやって、伊佐衛門のウジウジっぶりが鬱陶しい。「マズい、寝ちゃった!」とハッと目覚めても、相変わらずウジウジウジウジ。

 きっと、この演目、ちょっと私は苦手みたいです。

めちゃめちゃ楽しい「釣女」 @ 相生座

2010年06月05日 | 文楽のこと。
◆めちゃめちゃ楽しい「釣女」 @ 相生座

 今年も来てしまいました。3年目の相生座。恒例の鏡割り、今年も最前列のポールポジションだったのに、升をゲットすることはできず…。三度目の正直を果たせませんでしたが、鏡割りを見に行ったわけではなく、文楽を観に行ったのだから、良しとしよう(と、自分を慰める)

 昨年までご出演だった千歳さん、清志郎さんを、日付がバッティングした「寛治を聞く会@奈良県」に取られてしまったことが、寂しくもあり、痛手でもあり。でも、床チーム的には、寛治師匠に指名されたら、当然、断れないというか…名誉なことでもありましょうし…致し方の無いことですね。

 さて、最初の演目は「釣女」。初見です。 狂言の「釣針」を、昭和初期に文楽用にアレンジしたもの。なんとも他愛ないストーリーなのですが、これが、めちゃめちゃ楽しいのです。

 大名と太郎冠者が連れだって西宮戎神社にお参りに行く。2人の願いは「美人と結婚できますように」。昔も、今も、結婚祈願は神社参りの定番かということか?

 大名は戎さまから授けられた釣竿を使って、お嫁さんを釣り上げる。最初から分かっているのだけれど、お嫁さんが被布を取った瞬間、会場からは、「ああ、やっぱり美人さんだぁ」という感じで「ほっ~」とため息が漏れる。

 美男美女カップルの誕生に焦った太郎冠者が、「自分にも釣竿で嫁を釣るぞ」と意気込む。果たして、針にかかったのは… 被布を被った赤姫。有頂天の太郎冠者は「比翼の鳥、連理の枝のように一生添い遂げよう」とかなんとか調子のいいことを言い、赤姫ちゃんはうっとり。でも、観客には、被布の下におてもやんのような真っ赤なほっぺが透けて見えるから、もう、会場は大爆笑。もう、このあたりから、舞台の上は吉本新喜劇のように見えてくる。

 被布をとった後の、太郎冠者の言いようが酷い。「フグに等しき醜女」「鬼か化け物か、消えてなくなれ~」。嫌がる太郎冠者に「何言っているの、さっき、夫婦ずっと離れずにいようって言ってくれたでしょ」とスリスリしようとする。嫌がる太郎冠者、それに気付いているのかいないのか、らぶらぶオーラを出しまくるおてもやん。なんか、山田花子みたい♪ 勘十郎さまと、簑師匠の滑稽なやり取りに、もう笑いが止まらない。

 太郎冠者は往生際悪く、大名のお嫁さんの美人さんにちょっかいを出して、連れて逃げようとする。「我が妻を連れていくな~」と追いかける大名。さらに、太郎冠者の振舞いにキレたおてもやんが「腹がたつ、喰い咲いてやる~」と追いかける。会場中、和やかな笑いに満ちて幕。

こんな、楽しい演目なら、本公演でも大爆笑なのにと、思いましたが…。きっと、無理なんでしょうね。こんなに笑いが止まらないのは、勘十郎さまと簑師匠がやるからこそ、一つ一つの動作、表情が生き生きしていて見えるからなんですよね。でも、本公演では、景事にスーパースター2人も投入できないわけで。もちろん、若手でやっても、ほどほどに楽しいとは思いますが、ここまでは、大爆笑にはならないだろうなぁ…。

文楽5月公演・祇園祭礼信仰記録 @国立劇場

2010年05月29日 | 文楽のこと。
◆祇園祭礼信仰記 @ 国立劇場
 
 5月公演は、私的には超大満足な配役♪ 一部も二部も勘十郎さま&玉也さんが主役(級?)を張っていて、ウキウキ。というわけで、重苦しい場面でも、なぜか、デヘェ~と顔の筋肉が緩みまくってしまうのでした。

 しかも、やっぱり私は清治さんの三味線が大好き。聴くたびに「太棹ってロックだ!」と思う。めちゃめちゃカッコイイです。「大夫」を中心にして出番が決まっていくから、いつも清治さんがいい場面で出ていらっしゃるとは限らない。4月の大阪の妹背山は、あまりにも清治さんの出番が少なくてガックリでしたが、今回は、たっぷり楽しませて頂きました。
 
 で、ストーリーはいかにも文楽的な支離滅裂ぶりだし、「さっきは別の人物になりすましたけれど、実は…」と後になって本当の身分を明かすズルイ展開もありなのですが、でも、最初から最後まで「お楽しみ」満載な舞台なので、細かいことは気にしない。

 なんといっても、松永大膳! 玉也さんが遣われるお人形は、大きくって、狼藉モノという役どころが多いように思いますが、今回は、悪役商会でも、色情狂系でした。 何度も「抱いて寝る」を連発するのもいかがなものかと思いますが、「布団の上で極楽責め」は笑えました。いったい、どんな、めくるめく世界を見せようというの??? そして、そんなエロ大膳を玉也さんが超クールに遣われているのがますます楽しくなってしまうのです。

 「金閣寺の段」では、大膳にほとんど動きがなく、顔の向きを変えるぐらいで、大半の時間が座布団の上に座ったまま。ということは、その間、ずっと玉也さんは大きな首を支え、手首をロックした状態。なのに、ピクリともしない。

 かたや、大膳が「抱いて寝たい」雪姫は勘十郎さま。大膳に斬りかかった罰として縄で桜の木に縛り付けられる。色々な意味で、このシーンが見せ場。身体の自由が利かなくなった雪姫を遣うために、勘十郎さまも右手を腰に当てて、動かすのは左手のみ。なんか、このシーンが二重の意味でエロチックでした。縛られた雪姫も、それを遣われる勘十郎さまもセクシー。(でも、よく考えると、ここまでしておいて何の手出しもしない大膳は、意外と奥手?) そして、縛られたまま、足で集めて桜の花びらをキャンパスとして、ネズミの絵を描く雪姫。描かれたネズミが見えるわけではないけれど、飛び散る花びらから、絵が出来上がっていく様子を想像できる。

 そして、圧巻だったのは東吉が金閣寺の最上階に幽閉された慶樹院を救い出す場面。とにかくセットが素晴らしい。限られた空間の舞台なのに、工夫を凝らして、東吉が高い塔を上がっていくように見えるのです。アカデミー美術賞とはいえないまでも、大道具さんに功労賞を! で、せっかくステキな演出で高い塔を上ったのに…救出の仕方があまりにもアクロバティック。竹の“しなり”を利用して、遠くに飛ばすなんて、年寄りをそんな扱いにしてよいのか???

連獅子 @ 国立劇場

2010年05月24日 | 文楽のこと。
連獅子 @ 国立劇場
 
 歌舞伎でお馴染みの連獅子。といっても、私はテレビでチラと見たことがあるだけだし、しかも、毛振りの場面のみ。だから、毛振りに至るまでに、意外と長い前振りがあったことが新鮮。しかも、文楽では雌獅子が出てくるのか-というのも新鮮。
 
 さすがに、毛振りは、歌舞伎の豪快さに比べると、ちょっと小ぢんまりと見えてしまうのは致し方の無いことですね。でも、父母子3人(3匹?)揃ってブンブン振り回し、反対回りまでサービスして頂くと、やっぱり、自然と拍手したくなってしまいます。

 個人的には毛振りが始まる前の舞いの部分の方が、文楽らしい美しさを楽しめました。勘彌さんの雌獅子、母性を感じさせるゆったりした雰囲気があってステキ。

 あと、気になったのは、子獅子が「谷底に突き落とされる」場面。私の浅薄な知識によれば、子獅子は「突き落とされる」はずなのですが、どうしても「飛び降りている」ようにしか見えない。それって、子獅子よりも人形遣いを見過ぎってことでしょうかね?どうも、主・左・足の3人が「飛び降りる」瞬間が気になってしまって…。しかも、結構、高い位置から飛び降りているのに、何の音もしないのは何でなんだろう? 低反発マットとか敷いているのかな…?  と、いらぬことを考えてしまうのでした。
 
 床は呂茂大夫さんが退座したために大夫4人、三味線5人の不規則編成だろうか。というのはいいとして、英さんが1人で語るパートは、声量が小さいせいか、三味線5人に負けてしまって若干聞きとりづらい印象。今回、相子さんの出番が少なかったのも、少々、不満。