杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・サバイバーからの聞き取りに配慮 ~ 従軍慰安婦事件にかかわって

2009-02-05 15:21:41 | 従軍慰安婦
 海南島戦時性暴力事件(いわゆる従軍慰安婦事件)について、日本国を被告に裁判を行っている弁護団に加わっています。
2001年に提訴し、現在控訴審が08年12月25日に結審し、3月26日の判決を待つ状態です。

私が、最初に被害女性たちと出合ったのは、提訴前ですから、すでに10年近く彼女たちと関わっていることになりますが、ここまで関わってきて、最近、私が慚愧に耐えない思いでいることがあります。

 それは、被害女性に対する事実の聞き取りについて、もっと早い時期に彼女たちの心に配慮をした保護の体制を取るべきだったということです。
 当初、書物などで、いわゆる従軍慰安婦の概略だけを学んで彼女たちに会いました。すべて一から話してもらいました。またこちらの被害に対する認識も浅く、今思えば“強姦被害の程度の重いもの”くらいの理解でした。彼女たちは話し始め、必ず嗚咽するのですが、その悲しみ苦しみの深さも知らず、二重通訳の隔靴掻痒もあり、その後も何度も調査を繰り返し、同じことを何度も質問してきました。

 彼女たちのその時の精神状態にも、通訳にも影響されるのでしょうか、裁判においては重要な日時、期間、場所などが、聴取するたびに微妙に違い、聞き取る私たちも疲労しました。

 でも、今思うと、私たちがやっていたのは、発掘された遺跡にいくつもの探険隊がルールも決めずに入り込み、それぞれが勝手に調査と称して手をつけて、遺跡を浸食していたのと同じではないか。遺跡を守る側がいて、一定の調査能力を備えることを条件にして、調査回数を限って調査を許す。そんな保護が必要だったように思います。

 彼女たちは、抵抗することもできずに、出合うたびに苦しい過去を思い起こさせられる苦痛に耐えてきていたのでしょう。10年かかって、私たちは彼女たちに何をしてきたのか。
 戦後補償を訴える意義はあると思いますが、結局戦中も、戦後も苦しい思いを強いてしまっただけではないか。裁判に勝つことの難しさを痛感しながら、自分が被害女性たちに対して何もできない無力感以上の罪悪感を感じます。せめて、被害調査にあたる際の何らかのルールづくりと、擁護者の設置などを提言しなければならないと強く思っています

これは、従軍慰安婦に限らず、重大な被害から回復されようとする方に対しては心がけなければならないことで、このことを遅ればせながらでも学習した以上は、今後に行かしたいと思うのです。

 諸外国では、近時、被害者や子ども、障がいのある方などから、何度も話を聞き取らないでもいいような、初期の適切な聞き取り方法が確立されてきていて、先日私もその仕方の講義(「司法面接」)を受けました。

本人にとって何度も聞かれることが辛いだけでなく、供述、つまり体験したことを記憶して、思い出して、話すという過程に、悪影響を与えてしまい(真実でない記憶が付け加わってしまったりすることになります)、体験事実を歪めてしまうことがあるという問題もあるわけです。

 などなど、いろいろ考えると、反省することばかりなわけです。

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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
現在進行形の国家による酷い人権侵害は他にあるでしょ? (省港旗兵)
2009-02-05 20:19:47
司法面接の方法論のお話なら結構だが、なぜ日本国が被告なのか不思議。
慰安婦をあつめて売春させた女衒やら置屋を訴えるのなら筋が通るがなぜ日本国?
真の責任者ではなく、とりやすいところからとるというのならミナミの帝王の萬田銀次郎とロジックは同じだ。
不祥事に業者より先に許認可権をもつ行政を訴えるのはおかしくないか?

そんな昔のことの裁判を訴えるよりも現在進行形の国家による人権侵害を是正する裁判を手伝ったらどうでしょう?
アメリカの押し付けた法律によって、難病認定されている被告に対し、国家がその治療も苦しみの緩和すらも禁止し、重病人を逮捕して懲役に掛けようなんていうとんでもない人権侵害ですよ。

http://ameblo.jp/iryou-taima/

60年以上前のことに熱心になるのも結構だが、現在、そしてこれからも続いて起こりうる人権侵害ですよね。
人権派の弁護士が大挙して弁護団を作るべきなのに、自由法曹団とかも知らん振りなのかな?
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