杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・「障がいを持つ子の死は『複雑』」 の重さ

2009-06-06 09:04:31 | 障がい問題
 ある施設に入居されていた知的障がいのある43才の男性が亡くなりました。病死でした。息子さんを亡くした75才になるお母さんが、施設の保護者会にこられ、ご挨拶されました。
 
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わたしは、息子を先に逝かせて、見送ってから逝きたいと思っていましたが、実際に先立たれました。知り合いの障がいの子を持つ親御さんから「あなたが羨ましい」と言われて、それは本音だと思ったけど、でもとても複雑な思いでした。あの子は、自分の兄夫婦孝行をしていったのか、と思うと切ないです。
 43才の短い生涯でした。高校を出て作業所に通いました。兄が結婚する前後まで手がかからなかったのですが、そのあと荒れるようになり、家で見る限界を感じて施設に入れることを考えました。
 都内の施設に入ることはとても大変でした。福祉の方から「秋田にならある」といわれましたが、あまりに遠いので断わりました。作業所へ行っても暴れたりすると電話が来るので連れに行きました。
(入居していた)ここの施設に緊急の一時入所で3回お世話になったのですが、そのあと、親御さんたちが苦労して作られた、この施設に運良く入れていただくことができました。東北ではなく、私たち親が来ることのできる都内で本当に助けていただきました。

 あの子は、この施設が好きで、家に帰省をした後に施設に戻る時に嫌がったことがありませんでした。お風呂にこだわっていて、お風呂のことを「お、お」といっていました。

子どもに先立たれるということはほんとうに辛いことです。心にぽっかりと穴が空いています。あの子は、不自由ではありましたが不幸ではありませんでした。
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子どもさんが生まれて、障害があると分かった時に、どんな思いだったでしょうか。施設に入れて、別れて暮らさなければならないまでになる道のりはどれほど大変だったでしょうか。子どもを好きこのんで家庭から外の施設に入れることなど普通は考えられないのではないでしょうか。

都内に住む方に、「施設は『秋田』にある」と伝えることが、“ありうること”として受け止められる世界です。子どもが入院するのに、「秋田」というのは考えられないでしょう。基本が、障害があるならそれでも仕方がない、という発想があるわけです。

「兄夫婦孝行」の意味は分かるでしょうか?親が先になくなれば、障がいを持つ者の負担は、兄弟姉妹が負うことになるという事実です。

そして、私が一番胸に突き刺さったのは、「一日後に親が逝きたい、というけれど子どもを失うのは複雑な思いです」という言葉でした。
子どもさんを亡くされる方にお会いする機会はありますが、子どもを亡くすことはすべてを奪われること、と声を上げて嘆かれます。当然の苦しみであり、悲しみです。そのことを私たちは自分のことのように共感します。
でも、障害を持つ子どもさんについては、子どもの死は「複雑」な思いのひとつだというのです。どれほど大変なものを抱えていらっしゃったのか、と思い知らされます。

日本で知的障がいを持たれる方が数十万人います。そのご家族を入れれば100万人以上のかたが、障害の問題に関わることになります。
そのことから派生する問題(いじめ、犯罪被害、消費者被害、困窮など)にも視野を広げた時には、たとえば障害者支援、差別の禁止などもっと社会が取り組まなければならない問題だと思います。

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2 コメント

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安心社会のために (ken)
2009-06-06 11:11:31
 心身障碍の問題が自分や家族に起こることは誰にでもあり得ることです。大きな負担がある場合は本人や家族だけに負わせるのではなくて、社会全体で考えるべきことです。
 歳をとれば誰でもいろいろ障碍がでてくるでしょう。今は大丈夫でも将来自分がなっらたろか、子どもがとか、そんな心配がある社会より、そんなことになっても経済、生活の心配のない社会が誰にとっても安心できるよい社会でしょう。
 バリアフリーといって、駅などの施設が充実してきてそれはそれでいいことなのですが、昔の駅はもっとフラットでした。駅員が減って階段が増えてエレベーターやエスカレーターが設置されて、なんかお金の近い方がこれでいいのだろうかと思います。
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Unknown (大脇道場)
2009-06-06 15:19:11
こんにちわ。
TBありがとうございました。
時々訪問させていただき、障害を持つ人や犯罪被害者に対する瞳さんの優しいままざしに励まされています。

この話は、私の周りにはリアルにある話で、切ないものがあります。
一両日中に関連する記事を書こうと思います。

ありがとうございました。
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