杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・「はだしのゲン」を閲読制限~松江市教育委員会

2013-08-18 01:01:52 | 教育
原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」を子供が自由に閲覧できない「閉架」の措置を取るよう

松江市教育委員会が市内の全市立小中学校に求めていたと言うことが報じられています(16日)。

市教委によると、首をはねたり、女性を乱暴したりする場面があることを理由に
昨年12月に学校側に口頭で要請した。
これを受け、各学校は閲覧に教員の許可が必要として、貸し出しは禁止する措置を取った、とのことです。

報道によれば
市教委の古川康徳副教育長は
「作品自体は高い価値があると思う。ただ発達段階の子供にとって、
一部の表現が適切かどうかは疑問が残る部分がある」と話しているとのこと。

「はだしのゲン」は漫画家中沢啓治さん(2012.12死去)が自身の被爆体験を基に描いた作品で
戦争の被害をわかりやすく伝えられる優れたものです。
とりわけ、被害の実態を語る体験者が少なくなる中で、子どもたちに事実を伝える
数少ないツールだと思っていました。


「首をはねたり、女性を乱暴したりする場面があること」を理由とするようですが
子どもの目に入る残虐な描写や性的描写は、例えばネット情報なのでいくらでもあります。
「はだしのゲン」の中にそのような描写があるのは、単に好奇・扇情というのではなく
全体の流れの中で見れば十分に意味のある描写であり、
むしろそれが過激であるというなら、過激な事実があったということなのです。

これを教育の場から遠ざけるということは、教育の自殺です。


一部の市民から、作品の歴史認識をめぐって学校の図書館から作品の撤去を求める陳情があったとのこともあります。
いろんな意見はあるとしても、子どもの教育に責任を持つ立場にある教育委員会は
毅然とした態度をとるべきです。

この閉架の扱いは変更すべきです。



いま、Change.org上で"松江市教育委員会: 「はだしのゲン」を松江市内の小中学校図書館で子どもたちが自由に読めるように戻してほしい。" というキャンペーンをしています。
おかしいと思われる方は、その声を結集すべきかと思います。

キャンペーンのリンクです:

http://www.change.org/ja/キャンペーン/松江市教育委員会-はだしのゲン-を松江市内の小中学校図書館で子どもたちが自由に読めるように戻してほしい?share_id=XyyBBQTeBc&utm_campaign=signature_receipt&utm_medium=email&utm_source=share_petition


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3 コメント

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自分がするのはいいけれど、やられるのは(略 (鉄甲機)
2013-08-20 00:06:38
教育委員会の判断もそうだけど、それに唯々諾々と従うっていうことは学校がもう自信を失っちゃってるんじゃないかな。

>これを教育の場から遠ざけるということは、教育の自殺です。

実際「はだしのゲン」を教材に使って授業したことありますけど、教材としては非常に使いづらいものではあります。
何より長いし内容盛り沢山なので、何を授業の主題にするにしても、結局はこちらの都合のよいところを切り貼りしたものになっちゃう。1コマ2コマの授業では子どもたちの思考が深まらないんです。

いや、一直線でこちらの用意したゴールに辿りつけばいいというのなら簡単ですけど。

だからこそ、もう「教育の場で活用しよう」なんて変な教師根性出さないで、児童生徒が自由に読めるようにしておいて、子どもたちが自分で自分の情緒・心情を耕せるようにしておくべきですね。

もちろん「はだしのゲン」だけじゃなく、いろいろな反戦平和物語も子どもたちの手の届くところに置いておくべきでしょう。他にも森田拳次氏の中国引き揚げ漫画や「竹林はるか遠く」など授業ではストレートに取り上げにくい事実が書かれているものも、自由に読ませるべき。

つくる会教科書も非常に読みやすく編集されているので、採用していない市町村も学校図書館に入れてほしいですね。

日本では思想信条の自由が保障されています。「 正 し い 歴史認識」などという戯言はゴミ箱にでも捨てといて、学校は子どもたちが正確な知識と論理的思考を獲得できるように努力すべきなんです。
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松江市教委の閲読制限は不当 (ルビイ)
2013-08-23 23:03:42
松江市教育委員会の閲読制限は、不当そのものです。
原爆や戦争の悲惨さを伝えているのが気に入らない、政府が日本を戦争が出来る国にしようとしているのにその妨げになるといった恣意的なものを感じます。
「はだしのゲン」は、原爆の悲惨さ、戦争の悲惨さを的確に描いた優れた作品です。
作者の中沢啓治さん死去の翌年ということもあり、閲読制限がニュースになったこともあり、はだしのゲンの売れ行きが好調とのこと、ぜひ多くの人に読んでもらいたい作品である。
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追記と思ったこと (鉄甲機)
2013-08-25 00:25:50
どうも「唯々諾々」だったわけじゃなく、教育委員の単なる勉強不足と危機対応能力の欠如だったようですね。
http://togetter.com/li/552852
はだしのゲン閉架問題取材報告by朝日新聞・武田肇記者

詳しくは引用先を読んでいただくとして、学校への要請を決めた市教委幹部は元々「はだしのゲン」を平和教材として高く評価していたそうです。教材として授業で使ったことのある方もおられたとか。ですから最初は「ゲン」を図書室から撤去せよとの陳情は断固拒否するつもりでした。

しかし、彼らは「はだしのゲン」を第五巻までしか読んでいませんでした。少年ジャンプ掲載分の原爆投下前後のところですね。市教委を批判しているほとんどの人がおそらく「はだしのゲン」として認識している部分。

で、市教委の人は今回初めて第六巻以降も読んでショックを受けたと。
>「これが、同じゲンかと思った」

実際、別作品だと私は思いますけどね。掲載誌が子どもたちに原爆や戦争への怒りを伝えるとともに正義や友情の大切さを伝えなければならない少年週刊誌の場合と、そんな縛りもなくひたすら原爆戦争世間人間への怒りを書き連ねてよい左派系機関紙の場合とでは、作品も当然変質するでしょう。
あ、私は後半も嫌いじゃないですけどね。中沢先生の怒りが狂気寸前まで昇華して描かれた画面には、心奪われるものがあります。

それはともかく、市教委はパニクって全巻閉架としちゃったわけで。ちょこっと調べて冷静になれば、五巻までと六巻以降は作品が違うと判断ついたでしょうに。
衝撃の新事実(笑)を知った人が極端に走るパターンですね。「知らなかった!日本軍はこんなに酷いことを中国韓国に!」とか「日本は戦争でアジアに酷いことをしたと教えられていたのに、嘘だった!」とか「原発は安全だと教えられt(略」とか。
やっぱり正確な知識と冷静な論理的思考力が必要だ。

この騒動で「はだしのゲン」がまた売れているそうです。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。六巻以降も。
そうなれば中沢先生が伝えたかったことは、皆が思っているような薄っぺらい反核反戦や反日なんぞではないということに気づく人も増えるでしょう。
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