上の画像ではバラゴンが立っていますけど、劇中では四足歩行です。なんでこんなスチール撮ったんだろうね?
アメリカの映画制作プロダクション、ベネディクト・プロと東宝による、初の日米合作特撮映画です。
大々的に全米で公開するということで、意味も無く日本的な風景が挿入されていたり、登場人物が不自然な浴衣姿だったりと、御愛嬌なシーンが多々ありますが(笑)それはともかく。
冒頭、連合軍によるドイツ侵攻により、ドイツ国内の某研究所から、“死なない心臓”が運び出されます。
心臓はドイツ海軍のUボート(潜水艦)に積み込まれ、遥かインド洋上へ、そこで日本海軍の伊号潜水艦に引き渡されます。そして心臓は広島へ。
ここまでの展開はほとんどセリフがない。画だけで状況を淡々と、且つスリリングに観せていく。本多演出、冴えに冴えてます。
広島の病院で心臓の研究に当たる医師役に志村喬さん。このシーンにしか登場しません。贅沢な使い方してます。
そこへ今度は原爆投下…その後の心臓の行方は…と、ここまでで、映画の基本設定が全部観客にわかるようになっています。お見事ですねえ。
さて、それから15年後。広島で原爆症治療の研究を行っているアメリカ人医師、ボーエン博士(ニック・アダムス)とその助手の戸上(水野久美)、川地(高島忠夫)らによって、異常な生命力を持った浮浪児(古畑弘二)が保護されます。
この浮浪児こそが、かの“死なない心臓”が成長した、フランケンくんなんですね。
このフランケン。何故かどんどん巨大化していって、最終的には20メートルくらいの大きさになってしまいます。横暴なマスコミの対応によって逃げ出し、追われる身となってしまう。
折から地底怪獣バラゴンが出現。家畜から人間までも食ってしまう肉食で、このバラゴンが起こした事件まで、フランケンのせいにされてしまう。
水野久美演じる戸上女史と、フランケンとの心の触れ合いが描かれる一方で、高島忠夫演じる川地の、研究者としての冷徹な視点も描かれる。
本多演出はそのどちらが良いとも、どちらが悪いとも描いていないんですね。ひたすら淡々と、人間側のリアクションを描いて行く。本多演出がドキュメンタリー・タッチだと言われる所以です。
フランケンは、ナチス・ドイツによって開発された人工細胞、死なない細胞にから生まれた、いわば人造人間です。
その“死なない”秘密を探ることは、原爆症を劇的に改善させる契機となるかもしれない。
そこで問題になるのが、フランケンの扱いです。例え作られたものでも、「人間」として扱うべきなのか、それとも単なる「実験材料」として、例え殺してでも、その細胞さえ手に入れれば良しとするのか。
いずれにしろ、人間によって勝手に生まれさせられたフランケンにとっては、迷惑な話です。
それは命を「弄ぶ」ことの罪深さということでしょうか。
すべての源には戦争があり、原爆がある。これは東宝怪獣映画に一貫してあった、本多作品共通の、反戦への想いなのでしょう。
戦争は、あらゆるものを狂わせる…。
フランケンとしては、人間に危害を加えるつもりなどまったくないのですが、人間から見れば、フランケンは恐るべきモンスターです。追われる身となったフランケンは山中に隠れ棲む他なかった。
そこへ現れる地底怪獣バラゴン。人間をも食ってしまうこの怪獣は、たとえ一時のせよ、自分を世話してくれた人間の敵。フランケンは命懸けでバラゴンと戦います。
この両者の対決シーンが凄まじい。フランケン役の古畑弘二は、顔に特殊メイクを施した以外はほぼ裸です。それで怪獣に思いっきりぶつかっていく。
古畑氏は身体能力が相当高いようで、本当に人間離れといっていいような見事なアクションを見せてくれ、それに対するバラゴン(演・中島春雄)もまた激しくぶつかっていく。
中島さんは怪獣“スーツ”を着ていますからまだしも、古畑氏は素肌ですから、生傷が絶えなかったでしょうね。
ご苦労様です。
ラストシーン。突如大地が割れ、地底深く飲み込まれていくフランケンとバラゴン。
果たしてフランケンは死んでしまったのか、それとも…。
いずれにしろ…。
このフランケンが地上に残した細胞から、さらに2体の怪獣が生まれることになります。
この2体、後にこう呼称されることになります。
「サンダ」と「ガイラ」。
『フランケンシュタイン対地底怪獣〈バラゴン〉』
制作 田中友幸
脚本 馬淵薫
音楽 伊福部昭
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎
出演
高島忠夫
ニック・アダムス(声・納谷悟郎)
水野久美
古畑弘二
土屋嘉男
佐原健二
田崎潤
沢井桂子
高橋厚子
沢村いき雄
小杉義男
伊藤久哉
中村伸郎
大村千吉
中島春雄
藤田進
志村喬
昭和40年 東宝映画
はい、次は「サンダ対ガイラ」です。お楽しみ~。