
帝洋グループ総帥、権藤(『ゴジラVSキングギドラ』)
昭和29年、黒澤明監督の映画『七人の侍』に、百姓・利吉役で出演してした土屋嘉男さんは、同時期に撮影を行っていた映画『ゴジラ』に興味を持ち、黒澤監督に内緒でゴジラの撮影を見学していたとか。
黒澤映画の常連俳優として有名な方ですが、一方では大変な特撮好きとしても有名な方で、宇宙や宇宙人にも興味を持ち、昭和30年の特撮映画『地球防衛軍』(本多猪四郎監督)出演が決まったとき、自ら宇宙人の役を買って出たそうです。
終始ヘルメットを被っている役で顔が写らないと言われても、「顔を出すことだけが役者の仕事ではない!」と言って、宇宙人役を熱望したのだそうです。なんか、良い話ですよね(笑)

百姓・利吉(『七人の侍』)
宇宙人役が決まったことを黒澤監督に報告すると、「イノさん(本多猪四郎監督)のトコならいいよ」と快諾されたとか。黒澤監督と本多監督とは助監督時代からの大親友でしたから、黒澤監督も嫌な顔はしなかったようです。
この二人の監督の関係性もまた、面白い。

映画『地球防衛軍』より、宇宙人ミステリアン。真ん中の方が土屋さん。見事に顔がわからない。
その後昭和39年の映画『怪獣大戦争』では、やはり宇宙人・X星人役で出演。その他、昭和34年の映画『宇宙大戦争』や、昭和43年の映画『怪獣総進撃』では、宇宙人に操られてしまう人間を好演。特撮映画の中でも、割と「変わった」役を好んで演じられる方という印象が強いですね。

映画『怪獣大戦争』より、X星人統制官。多少は顔が分るかも。
平成3年の映画『ゴジラVSキングギドラ』では、バブル経済の立役者、権藤役で出演。この権藤という男、戦時中は南太平洋の小島、ラゴス島の守備隊長でした。
そのラゴス島で、権藤ら日本兵は、一頭の恐竜と出会い、心を通わせます。
その恐竜は、戦後のアメリカの核実験によって、ゴジラへと変貌してしまうのです。
今や日本経済の中心人物となった権藤の前に、東京の街を破壊しながらゴジラが現れます。
ビルの一室の窓際に静かに佇む権藤をゴジラが見つめます。動きを止めるゴジラ。
遠い日の記憶を思い出し、目に涙を溜める権藤。ゴジラは何かを思い出そうとするかのように目を閉じます。
やがてそのゴジラの目にも、うっすらと涙が……。
しばらく見つめあう両者。やがてゴジラは、なにかを振り払うかのように頭を一振りさせ、咆哮を上げると放射能熱戦を権藤に向けて吐き出します。
バブル崩壊、の瞬間でした。

ゴジラと権藤、静かに対峙する両者(『ゴジラVSキングギドラ』)
土屋さんならではの名演でした。
そんな土屋さんの代表作といえば、やはり昭和35年の映画『ガス人間第1号』でしょう。
人体実験によって、肉体をガス状に変化させることができるようになってしまった男、水野の狂気と純愛。
前身から立ち上る静かなる狂気と申しましょうか、これがなんともスゴイ!土屋さん一世一代の名演技!私の大好きな作品です。

特撮映画に限らず、幅広く仕事をされておられる方ではありますが、やはり私としては、稀代の特撮俳優という印象が強いです。
特撮映画は、他の映画では演じられないような役を演じることができる、ということもあったでしょうが、なにより特撮が好きだったからこそ、好んで特撮映画に出演されたのでしょう。
顔が写るか写らないかは問題じゃないと言い切った、この役者魂。そして特撮好きな魂に、
心からのエールを送ります。
最近はすっかりお見かけすることがなくなってしまいましたが、またいずれ、お元気なお姿を拝見できますことを、楽しみにしております。
ガス人間第1号 予告編
土屋さんが徹子の部屋に出演されていた時、戦時中留置所に入れられた時の話が印象的でした。
若気の至りでやった事への懲らしめの意味だったかで、飛行機が不時着して捕らえられた若い米兵と一緒だったそうです。
おびえていたその米兵に、「DO YOU KNOW FOSTER ?」と話しかけ、
怪訝な顔をした彼に、『遥かなるスワニー河』だったか、メロディーを口ずさむと、彼の眼からぽろぽろと涙がこぼれてきたそうです。
心が通ったと感じた瞬間だったそうで、その後の米兵のことを思うと今でも忘れることができない出来事だったそうです。
今回の記事を読んで、土屋さんの生き方に大きく影響しているように思いました。
私も大好きな素敵なかっこいい俳優さんです。
是非お元気なお姿を拝見したいです。
ところでお兄さま、正月四日の客、観ましたよ〜!!
松平さんも柄本さんも市毛さんも、熱演でしたね〜〜!!!
そこで一句、
人生も 蕎麦も辛みで 絡まって 年に一度の 妙なるご縁
お粗末でした。