
SF作家・豊田有恒氏は元々アニメ制作に携わっていた方で、『鉄腕アトム』、『エイトマン』等々、日本のアニメ黎明期の大ヒット作品に深く関わっていた人物。
その後、作家に転身しましたが、アニメへの情熱止み難く、西崎義展という、少々胡散臭いプロデューサーの誘いに乗り、それまで日本にはなかった、「本格宇宙モノ」のアニメの基本設定を考えることになります。
そのころのアニメはロボットモノが主流で、豊田氏は少々物足りなさを感じていたようです。そこへ本格宇宙モノを作ってみないか?という誘いに、単純に「面白い!」と思ったようです。
その後、漫画家の松本零士氏が参加し、戦艦大和を使うアイデアを提案します。それは単に「画的に面白い」という理由からだったようで、そこに後々囁かれるような反戦的な意味合いもなければ、反対に好戦的な意味合いもまったくなかったそうです。
松本零士氏は元々戦記モノの漫画を得意としており、思想的なこととは関係なく、単純に兵器類が好き、メカが好きということはあったと思う。
「男の子」というのは、単純に戦いモノが好きなものです。ただ「面白いから」という理由だけで作ったというのは、男の子の立場からは十分に理解できることです。
豊田氏の基本設定に松本氏が具体的な世界観を提示し、藤川掛介氏のドラマチックな脚本に舛田利雄監督のツボを心得た演出と、すべてが上手く絡み合い、最初の放映時こそ視聴率が振るわなかったものの、その後再放送を通じて大ブレイク。ヤマトはいくつもの続編が製作されるほどの大人気作品となりました。
その過程で、クリエイターのクリエイティビティを蔑ろにし、殆どの権利を独り占めし、遊興三昧に耽った西崎義展という男の問題点が浮き彫りになっていきます。この書籍を読むまで知らなかったのですが、西崎氏と松本零士氏との間で、著作権を巡る訴訟沙汰があったそうな。結果松本氏側が敗訴し、西崎氏が権利を独り占めしてしまった。
西崎氏はすでに物故されていますが、ヤマトの著作権は西崎氏の御子息が継いでいるそうで、だから数年前に制作されたヤマトのリメイク版には、松本氏の名前はもちろん、豊田氏の名前もクレジットされていなかったというわけです。
しかし普通に考えれば、ヤマトの著作権は松本零士氏が持つのが当然という気がするのですがね。なんともはやなことです。
ただこの本では、西崎氏を必ずしも告発するような内容にはなっていません。寧ろモノづくりの主役であるはずのクリエイターのクリエイティビティが守られていないということへの危機感が強いという内容になっていると思います。
最近、「コンテンツ」という表現がよく使われます。豊田氏は「コンテンツというのは『中身』という意味。缶詰の中身は誰が作っても同じだが、クリエイターがつくる『作品』は作った人それぞれによってまったく違うもの」とし「ただ単に売れる『中身』だけを求めるのではなく、クリエイターの『作品』そのものをもっと大事にしてほしい」と訴えているんですね。
成る程、つまりAKBは『コンテンツ』で、ももクロは『作品』ということ、か。
べつにAKBさんを否定しているわけじゃありませんよ。あれはあれでアリだと思うけど、ただ私個人としてはね、ももクロの方が単純に「面白い」と思ってしまいますねえ。
それが私の個性ですので、個性は大切に。
なんのこっちゃ(笑)
豊田氏がこの著作を上梓した理由がまた奮っています。去年、某大新聞社の取材を受けヤマト制作の裏話などを話したそうです。ところがいざ記事になってみると、豊田氏がまったく話していない内容に捏造されていたのだそうな。
ヤマトには反戦思想が織り込まれているだとか、放射能に汚染された地球というのは、終戦後の日本の暗い世相をあらわしているだの、豊田氏がまったく話していない内容に作り替えられていました。
これに激怒した豊田氏が、そういうつもりなら本当のことを本に書いてやろうじゃないか!舐めるなよ朝〇新聞!
こういう動機だったようですね。
豊田氏はかなり早い時期から、北朝鮮や韓国の危険性を指摘してきた気骨溢れる方です。たかが一介の作家と侮ってはいけませんね。
「面白い」と思うから作る。これはモノ作りの基本です。メーセージやら思想性やらいうのは、後からくっついてくるもの、そうしたものはあればあったでいいけど、
なければないで、べつに構わない。
メッセージやら思想性やらを重視しすぎる傾向は、私には少々息苦しくも思えますね。
「面白い!」それでいいじゃん。
豊田有恒著
『宇宙戦艦ヤマトの真実 -いかに誕生し、進化したか』
祥伝社新書

優れたエンタメは特にメッセージやらを入れようとしなくても、極自然にそういうものが感じるような作りになっています。ヤマトもその一つ。それは視聴者一人一人の感性に任されてます。
無理矢理「こうだ!」と決めつける必要はないんじゃないかな、と思うな~。
でもヤマトに安彦さんのクレジットはない。
安彦さんは「さらば宇宙戦艦ヤマト」で、雪が死に、古代が特攻をかけるラストに反対していたそうです。
でも映画が大ヒットし、「ヤマト2」のテレビ放送が決まり、安彦さんは西崎さんから「何とか古代たちが死なないラストを考えろ!」とむちゃぶりされ、料亭に缶詰にされたそうです。笑
そんな「ヤマト2」と同時期に「ガンダム(1st)」もやるはめになった安彦さんは、体を壊して入院してしまう。
そしたら西崎さんがハーレー・ダビッドソンで病院に乗り付け、80万円入った封筒を置いていったそうです。
でも安彦さんは、それを奥さんに返しに行かせた。
みんな強いですよね〜(^_^;)
だけど安彦さんは、「西崎さんがキライじゃない」んだそうです。笑
それがなぜか手塚治虫のマネージャーになって、後に絶縁されている。
西崎さんがプロデューサー、富野由悠季さんが演出した「海のトリトン」は、手塚さんからの手切れ金みたいなものだったそうです。笑
西崎さんは虫プロに入社して、結局虫プロを潰したと言われてる。
当時の虫プロの社員は、西崎さんが入社した時、「893が来た!」って思ったらしいです。
「石原都知事を守るため」と…。
そして最期は、「ヤマト」という名前の船から落ちて亡くなったそうです。
兎にも角にも、昭和の各分野を創った男たちの自我の強さはスゴイです。