風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

追悼 渡瀬恒彦

2017-03-18 04:58:11 | エンタメ総合









渡瀬さんに常に付いて回っていた、「芸能界最強伝説」の噂。

安岡力也を駐車場で叩きのめした。

松田優作を秒殺ノックアウトした。

岩城滉一をボコボコにし、舘ひろしを川に投げ込んだ等々。多少の尾ひれはついているでしょうが、そんな言われ方をされる程に強かったのでしょう。



普段はとても優しい方なのですが、いざという時の度胸の座り方が半端ではないのでしょう。知り合いの学生が暴力団事務所に連れ込まれたのを知るや、単身その事務所に乗り込み、無事に学生を救出した事もあったそうです。

ある映画の打ち上げの席で、某俳優と監督が口論をはじめ、今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうになった時、止めに入った渡瀬さんが俳優の胸倉を掴んで強引に席に座らせた。

言葉を発する必要すら無く、それでその場を収めてしまった。誰にも有無を言わせぬ、恐ろしい程の「気」を発していたのでしょうね。




昭和の役者さんには、その心に激しい「修羅」のごとき熱情を抱えている人が多かったように思います。その修羅を演技の方向に向けることで、なんとか日常性を保っていた、そんな方たちが。


芸事とは神に捧げるものであり、それは非日常のもの。だから芸能者はかつて、非日常の存在だった。だから彼ら芸能者は恐れられ忌避された。


そしてなにより、修羅もまた神の一側面。だから芸能者は修羅を表現するため、修羅を己の中に積極的に取り込んだ。



最近、薬師丸ひろ子さんが主演した映画『セーラー服と機関銃』を久々に観たのですが、薬師丸さん演じる星泉が機関銃をぶっ放したあと放心状態になる。その薬師丸さんの肩を、いたわるように優しく抱きながら、周囲の敵ヤクザたちに獣のような鋭い視線を向ける迫真の演技!!

そこには「修羅」がいました。




もっともこの「修羅」に関しては、平成以降随分変わってきたような気がします。今の若い役者で、渡瀬さんほどの修羅を抱えている方がいるでしょうか?

それが良いか悪いかではなく、時代は変わったのだなと思う、今日この頃。








晩年の作品では、ドラマ『警視庁捜査一課9係』が好きでした。


個性的なレギュラー・メンバーがアドリブを飛ばしまくる現場を、緩やかな統一感で見事にまとめ上げている渡瀬さんがそこにいて、とても楽し気な現場の雰囲気が伝わってくるドラマでした。

あの楽しさは、渡瀬さんが現場を緩やかに、でも的確にまとめ上げていたからこそのものでしたでしょう。何と言いますか、修羅を抱えて歩み続けた俳優道の行き着いた先が、あの撮影現場のごとき「境地」であったとするなら、

修羅も無駄ではなかったのだろう。



渡瀬恒彦、享年72歳。その抱えた修羅で、我々をドキドキワクワクさせてくれた名優に、感謝と哀悼の意を込めて



合掌。